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忘れじの契約  作者: 朝露ココア
2章 氷王青葉杯
20/105

8. ペリのマジックショー!

 リオートを撃破し、最速でタワーに辿り着いたカガリ。

 扉を開けた瞬間、彼女は顔をしかめた。


「うわ……なにこれ……」


 罠しかない。

 管制室へ続く螺旋階段の至る所に、多種多様なトラップが仕掛けられている。一段上るごとに罠が作動するレベルだ。


「…………」


 とりあえず避けて進むしかない。

 カガリは職業柄、罠の察知などに優れていたので回避できる。これが一般パフォーマーであれば、トラップにかかりまくって発狂していたに違いない。


 このタワーの指揮官、ペリシュッシュ・メフリオン。相当に意地の悪い性格をしている。究極的な自己保身。

 何としても闘いたくないし、自分が楽をしたいのだろう。


「……うわ!?」


 ようやく管制室が近くなってきたころ、カガリは罠を踏み抜いた。

 足元から水が飛び出し、全身が濡れてしまう。


「この罠だけめちゃくちゃ隠すの上手いんだけど」


 しかし、何のデメリットもない。

 他の罠は毒ガスや矢が飛び出すものなのに、これは水が出るだけ。その罠が功名に隠されていた。地面の凹凸や色彩も完璧に考慮され、熟練者のカガリでも気がつかなかった。


 若干苛立ちを覚えながら、濡れた髪を払いのける。

 水など気にすることなく彼女は管制室の扉を開け放った。


「……」


 静寂。

 室内には誰もいなかった。


 奇襲に備え、踏み込むのを堪える。きっと罠があるに違いない。

 無数に備え付けられたモニターの前には誰も座っていない。


「逃げたん?」


 ペリシュッシュ・メフリオン、逃げたのか。

 指揮官を放棄して負けを認めたのか。


 まさかとカガリは思いつつ、室内に足を踏み入れる。部屋の中央にあるボタンを押せば勝利になるのだが……ためらってしまう。

 これでは全く視聴者が盛り上がらない。練習試合は配信されていないからまだしも、これが本番だったら最悪なことになる。炎上だ。


「まあいいか」


 勝負を放棄して炎上するのは向こうだし、さすがに本番の試合では逃げたりしないだろう。

 カガリは呆れつつ、ボタンへ手を伸ばした。



 ──ポン、と。

 ボタンが浮いた。


「……は?」


 瞬間、管制室の電源が一斉に落ちる。周囲が暗闇に閉ざされた。

 奇襲か。


「バトルパフォーマーの皆さま、本日はご観覧いただき、誠にありがとうございます!

 さてさて、ペリシュッシュ・メフリオンがお送りするマジックショーは最後の目録となります!」


 スポットライトを浴びて、白髪の少女が椅子の上に立っていた。

 同時、ぱんぱかぱーんと間抜けなファンファーレが響き渡り、紙吹雪が舞う。


「え、なに……?」


 奇襲かと思ったら、マジックショーが始まってしまった。最後の目録とか言っているが、そもそもカガリはそれ以前の目録を見ていない。


「これより披露させていただきますのは……『勝利消失マジック』でございます!

 こちらのマジック、お客様のお力がどうしても必要でして……ハッ!

 そちらの可愛らしい赤髪のお嬢さん、お力添えをお願いしても?」


「え、えぇ……?」


 何が何だかわからないが、カガリはこくりと頷いた。


「あーりがとうございます! それではこちらへどうぞ」


 ペリに導かれ、カガリは至近距離まで接近する。

 この間合いならば一瞬で仕留められるが、どうしたものか。


「取り出しましたるは、黄色のまんまるボタン!

 そう、先程カガリさんが押そうとしていた制圧完了ボタンでございます。このボタンを押せば、この戦略戦(ストラテジー)は終了します!

 で・す・が……このボタン、お嬢様が手に持ってみっつ数えるとあら不思議! 消えてしまいます……!」


「いや、消えたら競技にならないんだけど」


「それではお嬢様、こちらのボタンをお受け取りくださいませ!」


 半ば強引に押しつけられ、カガリは制圧ボタンを両手に収める。

 押していいのかな……なんて思いながら立ち尽くす。


 彼女の気持ちなど露知らず、ペリはマジックショー(?)を進めてしまう。


「さあ、それではカウントダウンを!

 (わたくし)と共にお嬢様も!

 さん!」


「さ、さん……」


「にー!」


「にぃ」


「いーち!」


「いてぃ……」




「IT'S



SHOW



TIME!!!」


 花吹雪が舞い、どこからともなく白煙が噴出。

 カガリは煙の直撃を受け、思わず瞳を瞑ってしまう。身体を襲った奇妙な浮遊感。


 敵前で隙を晒したことに焦りつつ、彼女は目を開けた。


「花を開いて大奇術!

 さあさあご照覧、お嬢様……お手元をご覧くださいませ!」


「え」


 カガリの手に握られていたボタンが、いつしか真っ赤な花へ変わっていた。

 重さが変わったことにも気がつかなかったし、どうやってすり替えられたのかもわからない。


 唖然とするカガリの顔を覗き込み、ペリはしたり顔で解説を続ける。


「何が起こったのか、ご理解いただけないようですね?

 これぞ『猛花の奇術師』の秘術、真骨頂! 種も仕掛けもございません!

 あら不思議、勝利を告げるボタンは消えてしまいました……おっと!?」


 ペリは大袈裟に身を引く。

 カガリの手に握られている花を見て、目を丸くしていた。演技だろう。


 何やら手元でうねうねと蠢いている。

 カガリは自分の手のひらに触れる違和感に気がついた。いや、ペリが何か細工を施したのだ。


「これは失敬……!

 私としたことが、お嬢様にお贈りする花を取り違えてしまったようです!

 お嬢様がお持ちの花は……プレデターフラワー!」


「害獣じゃねーか!!」


 カガリは咄嗟に花を投げ捨てる。

 床に着くと同時、真紅の花びらがメキメキと肥大化していく。茎が四つに分かれ、花びらの間から獰猛な牙が姿を見せる。


 プレデターフラワー。

 動物を食う花である。花の姿をしているが、立派な害獣。

 このクソ花(プレデターフラワー)は、ペリの命令に従うように調教されているペットだ。


「ああ、なんということでしょう!?

 こんなところに危険生物が! これは腕の立つお嬢様に駆除していただかなくては……」


「白々しいわボケ! 何なのこの茶番!?」


「キャーコワーイ! タスケテー!」


 ペリはそそくさと椅子の陰に隠れ、プレデターフラワーと対峙するカガリを観察する。

 やはりこの女、自分で闘う気はないようだ。


「あ、その子の名前はプレちゃんって言います。性別は一応メス。二歳。好物は女の子の衣服、趣味は女の子にまとわりつくこと。対戦よろしくお願いします」


「近づきたくないんですけど!?」


 プレちゃんの口元から垂れる唾液に、カガリは思わず身震いする。

 どうしてこうなった。そもそも援護に来るはずのレナは何をやっているのか。

 あと、制圧ボタンは本当にどこへ消えたのか。


「チッ……駆除してやるわ!」


 致し方なしと、カガリは短刀を構えて走り出す。

 所詮は害獣、知性は人間に及ばない。


 まっすぐに伸びた触手を側方へ回避し、跳躍して斬撃を飛ばす。

 無数の触手を短刀で断ち切る。プレデターフラワーの弱点がどこか知らないが、とりあえず花びらを全て斬り刻んでやろう。


『──!』


 鳴き声を上げ、プレちゃんは猛る。

 カガリを視認し、全霊で捕獲しにかかる。巨体を揺らして触手を縦横無尽に走らせていく。

 周囲のモニターがぶっ壊れようが知った事か。


「遅い」


 しかし悲しいかな、プレちゃんの攻撃は当たらない。

 カガリがあまりにも強すぎた。綺麗なバラには棘があることを、花の姿をしたプレちゃんは知ることになる。


 一瞬で複数の触手が切断され、花びらが刻まれる。


『──!』


「あーっ! プレちゃん、がんばれー!」


『──!!』


 呑気に応援するペリに恨み節を吐きつつ、プレちゃんは奮戦。

 悲鳴を上げるプレちゃん。カガリは触手を切り続ける中で、一つ思うことがあったので苦言を呈す。


「ねえ、これ虐待じゃない……? 動物愛護団体に訴えられるよ?」


「…………あはは」


「なにわろてんねん」

『──(だから痛てぇっつってんじゃねえかよ)』


 椅子の陰に隠れるペリに対して、カガリだけではなくプレちゃんまでもが非難の目を向ける。


「そうですねえ。プレちゃんを実戦に駆り出すのは初めてのことだったのですが、ダメみたいですね。使えねえなこの花。

 よし、戻ってプレちゃん!」


 ペリが魔力を籠めると、たちまちプレちゃんの身体は萎み、一輪の赤い花へ戻った。


「どういう原理なのそれ……」


「では更なる目録をお見せしましょう!

 (わたくし)ペリシュッシュ・メフリオン……こう見えてもバトルパフォーマー!

 『猛花の奇術師』の名は伊達ではありません。これよりご覧に入れるのは、奇術ではなく魔術……魔術師としての側面も持ち合わせておりますればっ!」


 ペリが両手を掲げると同時に、魔力の奔流が渦巻く。

 彼女の足元から立ち昇ったのは「炎」。花びらのように炎の魔装が広がり、六つの装甲が展開された。


 常人を遥かに超越した魔力の質。カガリは熱風を浴びて、思わず後退る。

 到底アマチュアとは呼べぬ魔導の才覚。

 実力あり、パフォーマンス力あり。されど昇格せず。これがペリシュッシュ・メフリオンの本気である。


「チッ……《破魔(アッケン)》!」


 カガリは懐から特殊な刃を取り出し、ペリに投擲。

 刃は炎の装甲を抉り貫通。しかし、ペリの手で純粋に受け止められる。


 あらゆる魔術式を破壊するカガリの奥義、《破魔の刃》。

 彼女の奥義すらもペリは易々と受け止める。自らの技が防がれた光景にカガリは目を瞠る。

 瞬間、ペリの口元が歪んだ。


「ウィヒ! まともに闘うと思った? 残念、ペリちゃんは闘いませーん!!」


「はあ!? ──ッ!?」


 意識を眼前のペリに奪われていたカガリは、周囲の異変に気がつかなかった。

 カガリの周囲を、奇妙な花が取り囲んでいる。彼女は跳躍して離脱を試みるが……


「ノーダウト感謝です。お疲れさまですww」


 天井から触手のようなものが飛び出し、カガリを拘束する。ペリは天井にもトラップを仕掛けていたのだ。

 動きを封じられたカガリは再び地面に下ろされ、花々の中央に横たえられる。


「ちょっと、なに……こ、れ……? ふぁあ……」


 眠りの花。

 カガリのように素早く面倒な相手は、こうして眠らせてしまうのが一番手っ取り早い。


 昏睡状態に陥ったカガリは無防備だ。

 ペリは彼女に接近し、セーフティ装置に触れた。


「私の勝ちですね……ぐへへ。汚い手で勝つの気持ちよすぎだろ! それじゃあ、さようなら」


 セーフティ装置の緊急脱出ボタンを押し、バトルフィールドからカガリを退場させる。

 再び管制室に静寂が戻った。


 あとはレヴリッツが相手タワーを制圧するのを待つだけ。


「さて、私の仕事はもう終わりましたし……しんど。寝よ。

 あ、もしもしレヴリッツくん? 私寝るんで、はい……敵のタワー制圧してもろて。

 え? 大丈夫ですよ、カガリさんは倒したんで。はい、はい……じゃあお願いします。おつです」


 椅子に身を沈め、指揮官の役割すらも放棄してペリは瞳を閉じた。

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