4. あっこりゃあああああ
解散した後、レヴリッツとヨミは寮へ戻りながら話していた。
「大変なことになったねー。リオート、大丈夫かな?」
「どうだろうな。あのケビンってパフォーマー、元プロ級らしい。強者の風格も兼ね備えている。
どんな迷惑行為を仕掛けてくるのかわからないからな……僕好みの悪人スタイルなら好ましいが」
レヴリッツは何気なく、ケビンのチャンネルを開いてみる。
配信のアーカイブを見ると、有名人の暴露や「〇〇(一般的な価値観からすれば迷惑行為)してみた」などが大半を占めている。
バトルパフォーマーだというのに、戦闘に関する動画は一つもない。
「うん、ただの迷惑系配信者だ。めんどくさいなぁ。少なくとも僕の好みじゃないね、努力は認めるけど」
「そういえば、気になることがあるんだけど……ケビンセンパイは「レヴリッツとリオートには違いがある」って言ってたよね? どっちも才能がないのはわかるけど、何が違うんだろう?」
「才能がないのは事実だが、そこは重要な問題じゃない。まあ、リオートよりも僕の方が才能はないけど……」
レヴリッツの方が才能がないにもかかわらず、ケビンはリオートを標的に定めた。
彼の語った『違い』──それは純粋な力量差ではない。もっと根本的な……
「僕はケビンの語った『違い』が何なのかわかるけど、ヨミには言わないでおこうか」
「えー!? ずるい!」
「君が理解できないなら、その程度の問題ってことだ。簡単に言語化できるものじゃない」
そして何より、この『違い』を詳らかにすることは、リオートへの冒涜にもなり得る。レヴリッツは敢えて語らない。
「僕はケビンの言葉よりも、リオート本人の言葉の方が気になったな。「親父に雇われて来たのか」……って言っていたが、ケビンは困惑している感じだった」
「たしかに。リオートもレヴと同じで、出生に秘密があるとか?」
「……ああ、そういえば」
レヴリッツは何かを思い出して立ち止まる。
これまでの出来事から、彼は一つの推測に思い至ったのだ。
「リオートってさ、苗字明かしてないだろ?」
「そうだね。登録画面でも、寮の部屋のプレートにも苗字が書いてない。隠してるのかな?」
「たぶん。で、リオートは『一片氷心』と呼ばれる精霊と契約してる。
あの精霊使い、どこかで聞き覚えがあるかと思ったら……」
「うんうん? 思ったら?」
恐らくリオートの出自は、
「──王族じゃないかな。リオート・エルキス。
小国ラザの王家を守る精霊が、そんな感じの名前を持ってた気がする。氷の精霊なんて大量にいるから推測に過ぎないけど。僕が前にラザ王族を見かけた時は水色の髪と、黄土色の瞳だった思う」
髪と瞳の色が一致している。
苗字を隠している。
それに、どこか気品のある立ち振る舞いを感じる時がある。
これらの証拠から類推するに、リオートは王族ではないだろうか。そうレヴリッツは仮説を立てた。
「へえ……でも、なんで身分を隠してるの? 政治的にマズい事情でもあるのかな?」
「……ラザ絡みの政治事件とかは聞いてないけどな。クソみたいに平和な島国だったと思うけど。そもそも、リオートが王族ってのは僕の仮説だからね。
信じてもらっても困る。リオートの正体に関して僕は興味ないし、知りたきゃ夢しか詰まってない君の頭で考えてくれ」
まあ、そこまでガチで身分を偽っているわけでもないのだろう。
本当に身バレしたらマズい人は、レヴリッツと同じように名前を変えて苗字も偽って、姿形も偽装して、国籍も偽装するはずだ。
「レヴは身バレしないように注意しなよ?」
「大丈夫。俺の偽装は誰にもバレたことがないんだ」
「私にバレてるけど」
「……ヨミは違うだろう」
とにかく、リオートという少年が何者であろうと、レヴリッツの為すべきことは変わらない。
バトルパフォーマーの頂点を目指す。
それだけがレヴリッツに残された唯一の道だった。
ふと通行人の気配がしたところで、レヴリッツは話題を当たり障りないものに切り替える。
「話は変わるが、この前初めてファンレターをもらったんだ」
「……! すごい、すごいねレヴ!
私もこの前応援のDMもらったんだー……すごく嬉しかったな。レヴはどう?」
「ん? どうって……まあ、ファンが出来てよかったよ。
この調子で人気を上げていこう」
正直、嬉しいだとかいう感情はなかった。
知名度を上げたい──ただそれだけの願い。応援も声援も、表面上は喜ぶが内心では何も感じない。
それがレヴリッツという人間の本性だ。彼に真っ当な感性を期待することは許されない。
ファンレターを適当に机の引き出しにしまい、彼は何事もなく過ごしていた。
ー----
夜更け。
月明かりだけが射す部屋の中、リオートはベッドに転がって物思いに耽っていた。
『自分に才能がない事くらい、わからない奴はいねえ。そこの……Fランも才能はないが、手前とは大きな違いがある。何かわかるか?』
ケビンの言葉が頭の中でループしている。
彼の言う通りだ。自分に才能がないことも、適正検査によって明確に示された。
レヴリッツとリオートは共に才能がない人間だ。
その上で、ケビンは両者に違いがあると語った。
「…………」
本当は理解している。
最大の違いは『精神の強さ』だ。
きっとレヴリッツは、非才を覆すほどの努力を重ねてきた。どんな苦難にも屈さず、あの領域まで剣術を高めたのだろう。
だがリオートは違う。自分が今まで真っ当に努力をしたことがないと、彼は自覚していた。
レヴリッツの推測通り、リオートは小国の王子だ。
身分に甘んじ、精霊の加護に施され、楽な道を歩んできた。高い才能の壁に突き当たった時、きっとリオートは乗り越えられない。
彼の本質を見抜いてケビンは立ち塞がったのだ。
『お前に剣を握る資格はない』
ふと、ケビンではない者の声が頭に響いた。
忌まわしい声だ。
「……うるせえよ」
才能がないから道を諦めなければならないのか?
レヴリッツは違う。自分よりも低い適正を持っているのに、自分よりも強い。
だから、彼のように……
『お前に剣を握る資格はない』
「うるせェんだよ!」
暗闇の中で怒鳴り散らす。
彼の心中に蟠った黒い感情が、衝動と共に発露する。誰に怒っているわけでもなく、リオートは自分自身に怒りを抱いていた。
──隣人のレヴリッツに聞こえてしまっただろうか。
「……」
瞳を閉じる。
このまま眠ってしまえば、きっと怒りは消えてくれる。
怒りは閉じ込め。問題は後回しで。
彼はこれまでも……きっとこれからも。そうやって生きていく。
*****
【バトルパフォーマー】BPアマチュア総合スレ Part375
416:名無しさん ID:CqriKVoT6
ストラテジーの参加チームどんなもんよ
417:名無しさん ID:3eQYuqWMp
新チームのエントリー来ました
チーム【Oath】
ペリシュッシュ・メフリオン
レヴリッツ・シルヴァ
リオート
ヨミ・シャドヨミ
423:名無しさん ID:kPLcR4nhe
>>417
なんだこの面子!?
428:名無しさん ID:mgxhh6wAE
>>423
だからペリカスとエビはどういう繋がりなんだよ
てかカスが公式大会出るのって1年振りじゃね?
429:名無しさん ID:3jPvEjqU7
アマチュア界の異端児ペリシュッシュ参戦です、か
ぜんぜん固定チーム組んでないし公式大会にも出てなかったけどどういう風の吹き回しだ?
信者うざいし一生個人配信に籠ってろよ
433:名無しさん ID:gb7gnLPcf
これまじ?
画像
436:名無しさん ID:8Xhu3MiBq
>>433
あっこりゅあああああああああああああああ
437:名無しさん ID:4zwTV9x5U
>>433
あっこりゃああああああ
438:名無しさん ID:9iN4jyhWb
>>433
リオート
嘘だよな?
440:名無しさん ID:S5HdwQgbz
>>433
あまずい消せ消せ消せ消せ消せ消せ
444:名無しさん ID:t9dRACBj4
ラザ王室のページ見たらマジじゃん
リオート・エルキスだってよ
445:名無しさん ID:KterS3A7Y
王族詐称系パフォーマーさん!?まずいですよ!
447:名無しさん ID:iL9vaJsq9
>>433
苗字ないの不自然だと思ったらそういうことか
まあ親元ってかラザ王室が認めてるならいいんじゃねえの?
450:名無しさん ID:4cnov7y9t
でも向こうのニュース見る限り王子が出国したとか書いてないんだが
771:名無しさん ID:bPNUk33jd
ケビンきました
772:名無しさん ID:h8BhARyVX
ケビン早速リオートの話か
毎回情報仕入れるの早すぎだろこいつ
773:名無しさん ID:GT3gP4iwb
もう拡散止められません
776:名無しさん ID:WYaoGKxD4
でも王子だから何だって話じゃないか?
別にPはどんな身分でもなっていいだろ
777:名無しさん ID:9qJ5sBx5X
まあBPを低俗な職業っていう老害まだ居るからな
特にラザ国民とか後進国だからBPへの理解低いだろうし
779:名無しさん ID:dniQqrq5X
ケビンの配信でほぼ確定したな
もう王族様のリオートには投げ銭しないわ
781:名無しさん ID:rWTuJhej4
>>779
お前みたいなのは文句言うだけ言って元々投げ銭してないだろ
まあ俺は投げるけど
784:名無しさん ID:pY4QakjFa
下手したら国際問題やんこれ