表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

流動の時代

最終話です。

一万字。

至りませんが、これが実力。



 ハーグ海軍条約は海軍艦艇の新規建造予算を大幅に減らした。最も大きい戦艦を規制したのだ。各国とも財政健全化には効果が有った。


アメリカ合衆国はその経済力から、まだ余裕だったが。しかし、アメリカ合衆国国内でそんなに戦艦が必要かという議論が湧き上がる。

 この議論は軍に大きな影響を与えた。条約で建艦が規制されたとして、予算編成で海軍予算が減らされる。また、海軍のあり方についての議論も起こり、海軍兵学校の志願者の減少に現れた。元々、海軍は従、陸軍が主の国で有る。まだ兵学校の競争率は3程度あり士官の充足には余裕だったが、陸軍士官学校の競争率は8倍を超える。質の低下が起こる。海軍は危機感を覚えた。踏んだり蹴ったりだと勝手に思い込む。

 元は必要の無い大きさの軍備を持とうとした政治家や海軍と賛同する者達のせいで有るが、責任は海軍だけに押しつけた。海軍の政治家やロビー活動家への不信が始まった。



 

 1700年代の終わり頃からカリブ海沿岸以外のスペイン支配下の南アメリカ大陸では、スペインから権利を買ったヨーロッパ諸国がスペインの後継者として振る舞っていた。

 すぐさま大量の移民を送り込んで、支配権を確立してしまった。新たな支配者層となった移民達と、旧支配者であったスペイン系、奴隷系、先住民族。この4者が入り乱れ政治的に安定しない年月が続く。

 スペイン系の内かなりの人数はカリブ海沿岸に移動したが、どうしても残る者もいた。

 南アメリカ大陸は人種と言語の坩堝るつぼと化していく。後年、異言語間の障壁を減らすためにエスペリッシュ語が開発される。ラテン系言語とゲルマン系言語を基に作られた人工言語だ。学校での義務教育化と語彙の増加もあり、南アメリカ大陸共用言語となっていく。共通に出来るほどの意思疎通が可能な言語では無いため、あくまでも共用出来る言語だった。しかし、この言語の御蔭で異言語間でも無理なく言葉が交わせるようになり、南アメリカ大陸の発展に寄与する。

 旧スペイン圏は政治的には不安定でも経済は好調で、各地には地下資源が豊富でヨーロッパ諸国への輸出も盛んだ。


 ブラジルはポルトガルから独立したはいいが、自力での国家運営は無理ですぐに経済的な破綻を迎える。この時にウルグアイを売って糊口ここうしのいだ。

 さすがにウルグアイを単独で購入出来る国家はイギリスとアメリカ合衆国くらいだが、ブラジルもアメリカ合衆国の姿勢は分かっていたので売らなかった。イギリスは地下資源が無い事を理由に渋った。結局、ヨーロッパ諸国に移民先の共同購入という形で売ったのだ。


 南アメリカ各地での発展は、ヨーロッパ諸国からの移民を向かわせるのに十分な理由になった。

 ヨーロッパ諸国からアメリカ合衆国への移民だが、ドイツ・オーストリア系以外の移民はヨーロッパ戦争前にほぼ無くなっており、南アメリカ各地への移民が主流になっている。これはアメリカ合衆国内での移民差別が根底にあり、アメリカ合衆国よりも移民差別の少ない南アメリカ各地に移住するのだった。この移民差別は独立後少ししてから現れていたが、南北戦争後に酷くなってきていた。ゲルマン系でもイギリス人はアメリカ南西協定加盟国と言う事で差別され、結局ドイツ・オーストリア以外の移民が差別された。下手をすると奴隷よりもましな程度の扱いをされる事もある。そして一度アメリカに入国しても逃げ出す移民は後を絶たなかった。何処を目指すかというと、北と西はイギリス領。南と西はスペイン領。さらに西の米州(日本)であった。


 せっかく安く使える労働力が逃げ出してしまう。しかも逃げる先はアメリカ南西協定加盟国である。南北戦争後に手に入らなくなった奴隷の代わりに、低待遇で搾り取る事を目指して移民を確保しているので自業自得であるが、加盟国を恨んだ。


挿絵(By みてみん)

 ヨーロッパ戦争前の北アメリカ大陸の勢力図。

 日本とスペインが最初にアメリカに攻撃されたのはワイオミングやコロラド辺りでその後、反撃してアイオワまで押し込んでいました。

 スペインはメキシコ湾岸を取られないように必死であった。

 ミネソタ・ノースダコタ・サウスダコタのグレー(イギリス)は、スペインがイギリス人(イギリス系含む)移民に開放している地域。スペイン人は計画的に南へと撤退。かなりの金額が流れた模様。また、これによりスペインの国防負担がかなり減っている。日本も助かっている。イギリスにとっては移民先の確保と共に同盟関係の強化にもなった。



 ハーグ海軍条約が結ばれた頃は、アメリカ合衆国の海運力はヨーロッパ戦争終了時と比べて変わりなかった。各国は大幅に伸びている所もある。イギリスは元から大きかったがまた大きくなった。もうアメリカ合衆国が追いつくような海運力では無くなっている。スペインも一時の落ち込みが嘘のように好調だ。これは、両国とも南アメリカ航路が効いていた。それに加われないアメリカ海運業界は指を咥えているしか無かった。ポルトガルもまあまあだ。

 日本は、太平洋の3角貿易をすることから大規模な商船団を持っていた。その海運市場には、イギリス、スペイン、ポルトガル、オランダも加わっていた。たぶん、その頃の世界で一番海運に金を使う国が日本だった。スペインはメキシコやコロンビアから。イギリスはインド・中東・東南アジアから。ポルトガルは長い付き合いから。オランダも長い付き合いとインドネシアから。

 その大規模な海運市場にアメリカ合衆国海運業界は加われない。一部業者が細々と食い込んでいだけだった。



 この頃日本の人口は、本土4500万人、南天2200万人、米州2800万人だった。合わせれば億近い。

 このうち米州と南部スペイン領の市場を狙ってアメリカ合衆国が働きかけを行った。大陸横断鉄道とパナマ運河建設である。南北アメリカ大陸の鉄道は、一部を除き標準軌であり接続には問題無かった。物理的にはであるが。必要性を認めなかったので、アメリカ合衆国からの一方的な提案に終わった。

 パナマ運河はフランス人レセップスが諦めた事業をアメリカ合衆国が代わりに行うという事だった。問題はスペインである。

 問題は国家間の関係。政治である。

 諸条件を見るとアメリカ合衆国に都合の良い事ばかりでスペインには運河を通行出来る以外のメリットが無かった。100年償還で、その間は運河左右5キロを租借するという物だ。受け入れる事が出来ない条件だった。

 南部スペイン領には海運で交易出来るが、米州との間の通商路が無かった。関係改善をすれば、米州と南部スペイン領やメキシコと併せて億を越える市場だ。魅力的に映っただろう。日本や米州とすれば無理に繋げる必要も無い。アメリカ合衆国の製品ならヨーロッパ諸国と同レベルだ。敵対国の製品を態々買う事も無い。さらにヤードポンド法なので規格的にも使いづらい。スペインに至っては、領土をむしり取られた恨みは忘れていない。

 自国都合でしか考えないアメリカ合衆国の政治外交は、国際関係において弊害が顕著だった。


 結局、この時はアメリカ大陸横断鉄道の話が会議にもならずに終わった。それ程にアメリカ合衆国との溝は深かったのだ。アメリカ大陸横断鉄道が開通したのは1950年代になってからだった。

 カナダと米州を結ぶ北アメリカ横断鉄道は1898年に開通している。

 パナマ運河は1965年に完成している。




 アメリカ合衆国発の大恐慌からの回復をなんとかしていると、ハーグ海軍条約の期限が迫ってきた。

 各国とも延長か新たな条約の成立を望んだ。

 会場をサンレモとかニースとかモナコとかナポリを望む声も有ったが、キャパシティやセキュリティの問題も有りパリとなった。

 会議は冒頭からアメリカ合衆国が比率の変更(増加)を求めてきた。

 荒れる程では無かったが、進行が遅れる事は間違いなかった。ヨーロッパ戦争後のギスギスしていた頃と違い、なんとか安定していた頃なので紛糾までは行かない。各国ともアメリカ合衆国を宥める手札を考えた。そこで、アメリカ合衆国が固執しているのが戦艦で有るのを利用。イギリスと日本の2国が戦艦4を廃艦。6を増やす、4減6増。それ以外の国が4減8増とする案を提出。イギリスと日本は2隻の増加。それ以外の国が4隻の増加である。他に戦艦以外の保有トン数を10%増しとし、アメリカのガス抜きを図った。

 アメリカ合衆国の反応は概ね良好だった。戦艦の排水量の撤廃を望んだ以外は。撤廃などは考えられない事だ。どんな無茶な戦艦が出来るのか。恐ろしかった。戦力的にも国家財政的にも。排水量を増やすにしても抑えたいイギリスと日本、無制限を望むアメリカ合衆国。最後にこじれた。

 既存艦の改修で増加を認めたのは、各国とも不具合の修正や近代化などの改修で増えていたのを事実上認めたに過ぎない。

 パリ海軍条約が各国の妥協の末成立したのは、もみの木を飾りだした頃だった。始めたのは雪が消えた頃なのに。


 最終的に合意が出来た結果は


 戦艦 

 主砲  10.1インチ以上20インチまで

 排水量 新造艦は既存艦の220%以下。既存艦の改修は30%増を認める。

 保有隻数 イギリス・日本 14隻 4減6増

      アメリカ合衆国 11隻 4減8増

 但し、新造艦の進水は1940年以降である事。


 1種巡洋艦

 主砲  10インチまで

 排水量 1万5000トンまで。既存艦の改修は20%増を認める。

 保有トン数 イギリス・日本 13万2000万トン

       アメリカ合衆国 7万9200トン


 2種巡洋艦

 主砲  8インチまで

 排水量 1万トンまで。既存艦の改修は30%増を認める。

 保有トン数 イギリス・日本 13万2000万トン

       アメリカ合衆国 7万9200トン


 3種巡洋艦

 主砲  6インチまで

 排水量 7500トンまで。既存艦の改修は20%増を認める。

 保有トン数 イギリス・日本 13万2000万トン

       アメリカ合衆国 7万9200トン


 1種駆逐艦

 主砲  5インチまでで、5門以上

 排水量 2300トンまで。既存艦の改修は20%増を認める。

 保有トン数 イギリス・日本 6万6000トン

       アメリカ合衆国 3万9600トン

 2種駆逐艦

 主砲  5インチまでで、4門以下

 排水量 1800トンまで。既存艦の改修は20%増を認める。

 保有トン数 イギリス・日本 8万8000トン

       アメリカ合衆国 5万2800トン


 3種駆逐艦

 主砲  4インチまで 

 排水量 1300トンまで。既存艦の改修は20%増を認める。 

 保有トン数 イギリス・日本 8万8000トン

       アメリカ合衆国 5万2800トン

 潜水艦

 主砲  6インチ2門まで

 発射管 6門まで

 保有トン数 イギリス・日本 6万6000トン

       アメリカ合衆国 3万9600トン


 航空母艦

 主砲8インチまで。既存艦の改修は20%増を認める。

 保有トン数 イギリス・日本 16万5000トン

       アメリカ合衆国 9万9000トン

 新造艦の排水量は上限を3万トンとした。


 他に規制外として保有トン数制限無しの艦が「1000トン以下で3インチ砲2門、魚雷3本搭載で認める艦を設けた。但し速力は30ノット以下」を「1000トン以下で3インチ3門まで。魚雷・機雷の搭載不可。爆雷は可。速力は28ノット以下。保有トン数6万トン」とした。

 考えてみれば、制限外艦を大量に作れば戦艦の撃沈すら可能。前回は何を考えてたのかと言う事である。

 

 各国が持ち帰り議会で条約が批准されるのは、年が明けてからになるだろう。

 イギリスと日本がアメリカ合衆国の戦艦保有数増加を認めたのは、戦艦以外の比率は変わっていないのだ。却って保有可能数に差が開いた。これなら万が一の事態でも初動戦力の差で押し切れるだろうという判断もあった。加盟各国への配慮もあった。海軍増強を望むフランス、スペイン、イタリアに新たな戦艦枠を設け、アメリカ合衆国に対抗する戦力が増えるのは歓迎すべき事だった。


 条約批准後、各国が行ったのは制限外艦から魚雷と機雷を撤去する事だった。3インチ砲の増設をした艦も有れば、そのままの艦も有った。速力は、就役済み艦はそのままとされた。

 戦艦の新造では、各国で差が出た。各国とも最大で6万6000トン程度の戦艦が可能とされたのだ。

 イギリスは、R級戦艦2隻とレナウン・レパルスを廃艦。40センチ砲12門を搭載した5万8000トン級戦艦6隻の建造が計画された。キングジョージⅤ世級である。

 日本は、扶桑と伊勢級3隻を廃艦。上限一杯の6万6000トン戦艦6隻の新造を計画。46センチ砲9門の大和級6隻である。

 アメリカ合衆国は、驚異の20インチ砲搭載戦艦8隻の量産を計画した。ローズヴェルト級戦艦である。

 その前に戦艦の改修が20%増しで認められたので、新戦艦のテストとなるような改修も各国で行われた。

 その結果、イギリスはかたくなに守ってきた前方火力を捨て、航洋性と凌波性の向上を図った艦首形状にした。R級戦艦は艦首形状の変更と機関出力の向上を図り、レナウン・レパルスに変わる高速戦艦となった。

 日本は、艦橋の形状が塔型に変わった。高いのは変わらない。艦首形状も秘密兵器一号機雷を乗り切るためのスプーンバウであったが、一号機雷の有効性に大きな疑問が付けられ無視した艦首形状となる。

 アメリカは、それまでの重防御・低速で十分であるとした。但し籠形マストは廃止。低い構造物に塔型マストになった。


 アメリカ合衆国が巨大砲搭載艦を計画したのは、自国の不利を少しでも減らしたいためだろう以外にも原因があった。

 ニューディール政策で大恐慌からの回復を成した大統領は人気が絶大だった。自らの名を戦艦に付けさせても怒られないくらいに。

 その大統領の「20インチ砲か。いいね」と言う一言で、20インチ砲搭載が忖度そんたくされて決められた。さらには、自国の海岸線を防御出来ている内に、内陸での勝利を。そのために二・三発で敵戦艦を行動不能に出来る巨大砲搭載艦は、軍事素人から見れば魅力があったと思う。


 アメリカ海軍としては16インチ砲か17インチ砲の重防御艦を作るつもりだった。その方が費用対効果が高いし、運用上も有利であるとしていた。まっとうな建艦計画は、忖度されて狂った。



 大恐慌の余波で経済が苦しくなりナチス党の台頭を許したドイツだが、遂に再軍備を宣言。軍備の増強に走った。航空機、戦車、軍艦など、ありとあらゆる物を計画した。

 ヨーロッパ戦争後にドイツは軍事技術開発を禁じられ、スウェーデンではスウェーデン企業の物として、ソ連では密約で開発した技術や兵器は多かった。そして能力の確認と戦訓の回収をしようと、戦場を探す。小規模な国境紛争以外は植民地での紛争程度であり、とても用途には足らなかった。

 しかし各国とも、アメリカ合衆国、ソ連、ドイツの動きには注意しており、戦場を作るような事はさせない。その中で例外があった。中国と朝鮮半島だ。いろいろな勢力が権力を握ろうと内戦中だ。

 日本としては他人事では無かった。お隣である。勘弁して欲しかったが、介入しても解決は不可能であると考えている。むしろ兵器や民生品の輸出先として有り難かった。

 そこにドイツの兵器と軍事顧問団という名の実戦部隊が投入された。ソ連も同じである。 

 兵器を輸出している各国は文句を言いたいが、自分たちも能力の確認と戦訓の回収をしようと大隊規模で同じ事をやっている。文句を言えるわけも無かった。日本も同じだ。

 そして中国各地と朝鮮半島は兵器の見本市となっていく。

 大規模な軍事顧問団という外国兵力を受け入れた勢力が二つ。蒋介石率いる国民党と毛沢東率いる中国共産党だった。蒋介石がドイツの、毛沢東がソ連の。他の軍閥や地方政権に対して有利な戦闘力を持った二つの勢力は、やがて二大巨頭となっていく。

 輸送能力の差から、同じ物量でもソ連が早く運び込めた。ドイツは船で地球を半周してこなければいけない。バルチック艦隊の様である。規模が小さいドイツ商船団には、この業務は物凄い負担になっていた。

 ソ連はシベリア鉄道だった。そして物資をもっと早く中国内に運び込めるように、シベリア鉄道の延伸を中国共産党にませた。ザバイカリスクから哈爾浜ハルピン経由、大連着のソ連が採用する広軌鉄道だ。どうなるか予想は付いただろうが、中国共産党としてはまず国内で勝つ事だった。はその後でも排除出来ると考えていた。

 二大勢力は、やがて中国共産党有利となっていく。共産党有利は拙いと、各国では自国が支援する共産党系以外の勢力への支援を増やした。日本は青島チンタオに本拠地を置く汪兆銘に支援をしていたのだが、義勇軍の派遣を行った。台湾対岸の福州フッチュ廈門アモイ辺りを支配している軍閥への援助も増やした。これは隠語で「出前」と呼ばれた。


 中華内戦と呼ばれるこの内戦は、各国の思惑でさらに激化していく。好事家達は内戦で壊される前にと文化財などをかなり高値で買い入れていた。この動きを知った各勢力は、金目の物を徴収し始めた。これも内戦資金の一部になっている。


 この動きにまたも乗り遅れたアメリカ合衆国は、あろうことかドイツと共同歩調を取った。国民党援助である。

 国民党は規模の大きくなった援助と共に息を吹き返していく。

 アメリカ合衆国のやり方は、名目上国民党に援助した資金を使い、アメリカ合衆国国内で外人部隊を結成。アメリカ合衆国製の兵器・装備で国民党側に立って戦うというやり方だった。

 アメリカ合衆国もバカでは無い。国民党の事を調べた。此奴らに金を渡すだけだと懐に入れて使い込むと。だから直接の資金援助は少なくして、物質的な援助の割合を増やした。



 世界情勢は奇妙に落ち着いていた。中華以外は。それも中華の富が海外に出尽くすか、各国が飽きるまでだろう。しかし「各国は中華料理を食べ尽くすまで止めないだろう」と言う予測も立てられていた。特にソ連は、援助の代償に中国東北部と旅順半島・朝鮮半島が欲しいようで有った。




 そんな中、パリ海軍条約で決められた新戦艦の就役時期が来ていた。1940年だ。

 条約加盟国で次々とパリ条約型戦艦が竣工していく。


 イギリス キングジョージⅤ世級   同型艦5隻計6隻

排水量     6万2000トン 

主砲      40センチ48口径砲3連装4基12門

機関出力    16万馬力

速力      28ノット

装甲      舷側最大 400ミリ

        上面最大 200ミリ

        砲塔正面 550ミリ


 日本   大和級          同型艦5隻計6隻

排水量     6万3000トン

主砲      46センチ45口径砲3連装3基9門

機関出力    15万馬力

速力      27ノット

装甲      舷側最大 410ミリ

        上面最大 230ミリ

        砲塔正面 650ミリ


 アメリカ合衆国 ローズヴェルト級  同型艦7隻計8隻

排水量     6万5000トン

主砲      51センチ42口径砲連装3基6門

機関出力    12万馬力

速力      23ノット

装甲      舷側最大 360ミリ

        上面最大 160ミリ   

        砲塔正面 450ミリ


 フランス  リシュリュー級     同型艦1隻計2隻 

排水量     5万5000トン

主砲      38センチ55口径砲3連装3基9門

機関出力    19万馬力

速力      30ノット

装甲      舷側最大 420ミリ

        上面最大 210ミリ

        砲塔正面 500ミリ


 スペイン  アストゥリアス     同型艦無し

排水量     5万5000トン

主砲      38センチ55口径砲3連装3基9門

機関出力    19万馬力

速力      30ノット

装甲      舷側最大 420ミリ

        上面最大 210ミリ

        砲塔正面 500ミリ


 イタリア  ヴィットリオ・ベネト級 同型艦1隻

排水量     5万3000トン

主砲      38.1センチ55口径砲3連装3基9門

機関出力    17万馬力

速力      31ノット

装甲      舷側最大 400ミリ

        上面最大 200ミリ

        砲塔正面 500ミリ 


 公開された要目であり、公表値である。

 スペインのアストゥリアスはリシュリュー級の同型艦。スペインの造船能力では作る事が出来なかったので、フランスから購入。フランスはかなり儲けたようだ。

 ドイツとソ連が計画していた戦艦は、


 ドイツ ビスマルク級        同型艦1隻計2隻

排水量     4万8000トン

主砲      40センチ45口径砲 連装4基8門 

機関出力    15万馬力

速力      31ノット

装甲      舷側最大 350ミリ

        上面最大 140ミリ

        砲塔正面 400ミリ


 ソ連  ソビエツキー・ソユーズ級  同型艦3隻計4隻

排水量     6万トン

主砲      40センチ50口径砲3連装3基9門

機関出力    21万馬力

速力      28ノット

装甲      舷側最大 420ミリ

        上面最大 170ミリ

        砲塔正面 500ミリ

 

 であった。ドイツはビスマルクが就役済み。二番艦ティルピッツは工事中だ。ソ連は1隻が起工したが、資金不足と造船能力の不足で何時完成するか分からない。ソ連は中国共産党に入れ込みすぎていた。ドイツも同様であり、ヒトラーが列強同等の戦艦建造を命じても無い袖は振れないのだった。


 アメリカ国民は世界最大の20インチ砲搭載戦艦完成を無邪気に喜んでいたが、海軍や軍事関係者はその能力の低さに戦慄した。速力が遅く追いつけない。見劣りする装甲は撃ち合えば確実に負ける。内緒であったが、世界最大を誇る主砲は試射でも演習でも故障が頻発した。しかも発射速度は良くて毎分1発だ。演習の時は2分以上掛かった。訓練を積んでも計画値が1分強である。

 51センチ42口径砲連装3基6門が重量的にも金額的にも重すぎて、他を削るしか無かった。

 アメリカ海軍は、周囲を説得。大統領の説得にも成功して、竣工済みと竣工間近の4隻でキャンセル。新たに実用性に富んだ40センチ砲搭載艦を4隻建造するのだった。

 大統領は自分の名を冠した戦艦の能力に呆れると共に怒りをあらわにしたという。縁を切られたり左遷や首になった人間もいた。



 アメリカ合衆国首脳部にナチス関係の人間が接触しているとの情報が入った。由々しき事態である。どうも国民党がらみからの縁であるらしい。その内、アメリカ合衆国とナチスドイツの間で何らかの条約が結ばれるのでは無いかと言う観測が出る。いくつかの動きは、それを認めざるを得なかった。

 アメリカ南西協定加盟国は共産は嫌いだが、ナチスも同じくらい嫌いだった。

 アメリカ南西協定加盟国はアメリカ合衆国に交渉を持ちかける。飴を与えた。どう出るのか。はっきりしない。やはりドイツ・オーストリア系の移民が盛んに動いているようだ。

 細かい情報を分析すると、ソ連までアメリカ合衆国国内で活動を活発化させている。

 困る。アメリカ合衆国とドイツとソ連が条約など結べば悪夢だ。


 アメリカ南西協定加盟国はアメリカ南西協定をアメリカ南西条約と名前を変え、包括的な国際条約としてさらに力を付けた。

 その枠内で、日本とスペインを説得していく。大陸横断鉄道とパナマ運河だ。戦略物資である生ゴムと石油の輸出も制限を緩くするなどして、アメリカ合衆国に働きかけた。

 ぐらついた。ドイツとソ連を取るのか、アメリカ南西条約加盟国を取るのか。悩んでいる。


 そこでアメリカ南西条約加盟国は示威行動を行う事にした。

 ショー・ザ・フラッグ。砲艦外交とも言う。

 

 参加するのは、アメリカ南西条約加盟各国の海軍。特に戦艦を持っている海軍だ。

 日本は、艦隊配備されたばかりの大和と武蔵。大和がアラスカ経由で。武蔵が南天経由で。チリ沖で合流する。その後はホーン岬を廻りアルゼンチン訪問。その後キューバのハバナで休養。フロリダ沖で各国艦隊と合流する。

 イギリスは、キングジョージⅤ世とアンソンがカナダを訪問。南下してフロリダ沖で合流。

 フランスは、リシュリューがフランス領モロッコとフランス領ギニアを訪問。その後フロリダ沖で合流。

 スペインはアストゥリアスがカリブ海クルーズをして、フロリダ沖で合流。

 イタリアはリットリオがキューバで給油。フロリダ沖で合流。ヴィットリオ・ベネトは不具合が出た模様で参加しない。


 合流後、フロリダ沖からニューヨーク沖を通過しカナダへ。カナダからジブラルタルを通りバレンシア、バルセロナ、マルセイユ、トゥーロンを訪問の後イタリアへ。

 イタリアはローマ沖で艦隊機動を行いナポリ、ヴェネツィアを訪問。その後大西洋に戻り、リスボンを訪問。ブレスト経由でドーバー海峡を横断。艦隊は二手に分かれロンドンとスカパフローを目指す。

 一大ページェントだ。


 この艦隊行動を発表した後の反響は凄かった。

 寄港や領海内の通過を求める国が殺到。アメリカ南西条約加盟国はその中でも、ドイツとソ連の脅威にさらされている国を厳選。他の国は後日訪問とされた。

 トルコからはボスポラス海峡の通行許可を出してきた。さすがに狭いので艦隊の内数隻が向かう。イスタンブールを訪問。ルーマニアのコンスタンツァを訪問。

 ベルギー、オランダ、デンマーク、ポーランド、フィンランドが希望したので、態々ウィルヘルムスハーフェン沖をかすめてユトランド沖で献花。コペンハーゲンを訪問。グダニスクを訪問。ヘルシンキを訪問。

 増えた。大変な航海になりそうだ。費用もとんでもない金額になる。中堅海軍の年間予算程になりそうだ。

 ただ、燃料油は南西条約参加国に産油国が多く、無償で提供された。水・食料もだ。御蔭でかなりの節約になった。


挿絵(By みてみん)

 

 この行動で衝撃を受けたのが、示威先と見なされる国だった。アメリカ合衆国とナチスドイツ、ソ連である。


 アメリカ合衆国はパナマ運河建設とアメリカ横断鉄道接続を条件にアメリカ南西条約に暫定加盟。

 ナチスドイツとソ連はあからさまな圧力を掛けるのをためらうようになった。


 

 そしてイギリスからアフリカの喜望峰経由で世界一周から帰ってきた大和は呉で、武蔵は佐世保で休んでいる。甲斐と信濃は後で訪問する事になっている国へ行く準備中だ。


 まだ戦火は起こっていない。

 今日も南天航路は賑わっている。



最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

これにて終了。


外伝はどうするかな。リクエストもありましたし。来年です。鬼が笑いますね。


皆さん。良いお年を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 良い時間犯罪記録でしたね。ごちそうさまでした。 [一言] 外伝熱烈歓迎!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ