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港湾倉庫街 違法薬物取引現場強制捜査3

すみません、サガコレクション買ったせいで投稿が遅れました!

 孔希が取り調べをしているあいだ、他のメンバーは証拠品を押収していた。

 薬物、現金は麻取が、サブマシンガンなどの武器類は組対が引き取ることとなる。


「おい、手が空いてるヤツは麻取さんのほう手伝ってやれ」


 緒方の指示に従い、捜査員たちは手際よく証拠品を段ボールに詰めていく。


「なんか、意外と仲いいんですね」

「どういうことだ?」


 ぼそりと呟かれた彩乃の疑問に、麻生が反応する。


「いえ、警察と麻取って、もっとこう、縄張り争いみたいにギスギスしてるのかと……」

「はは、それはドラマの中だけの話だな」

「そうなんですか?」

「ああ。もちろん、現場での対抗意識がないわけじゃないが、縄張り争いなんてしている余裕なんてないよ。なにせ我々は300人程度しかいないわけだからね」

「たった300……それって、東京全域で?」

「いや、全国で」

「全国で!?」


 警察官は全国に30万人、東京を管轄とする警視庁だけでも4万人以上、最も人員の少ない鳥取県警ですら1200人を擁するので、麻薬取締官300名というのがいかに少ないのか、というのがよくわかる。


「たったそれだけの人数で、全国の麻薬捜査をやってるんですか?」

「それだけじゃあ、ないんだがな」


 麻薬取締官は麻薬捜査などの司法取締以外に、行政取締もになっている。

 わかりやすいところでいえば、医療現場で苦痛緩和等に用いられるモルヒネの使用許可を出すのも、麻取の仕事なのだ。

 麻取に薬剤師が多い理由のひとつである。


「これだけ押収したところで、大した変化はないんだが……」


 段ボールに詰められる覚醒剤を見ながら、麻生が苦々しい表情で呟く。

 覚醒剤の摘発件数は年間400件を超え、押収量は2.5トンにも及ぶ。

 それだけの量を差し押さえてなお、末端価格にはほとんど変化がない。

 大麻、コカイン、ヘロインなどの植物を原料とする麻薬と異なり、覚醒剤は化学合成のみで製造が可能だ。

 それなりの施設と技術があれば、風邪薬からも精製できるため、産業の未発達な新興国などに、次から次へと生産拠点が新設される。

 そのため供給量が増加することはあれ、減少することはないのだ。

 そして日本は他の麻薬に比べて覚醒剤使用者が多く、常に高い需要があるのだった。


 それでも麻取や警察は、麻薬捜査をやめるわけにはいかない。

 放置すれば、より悪いほうへ傾いてしまうことがわかりきっているからだ。

 ゆえに麻取は、1グラムでも多くの違法薬物を取り締まるため、全国を駆け巡るのである。


「なるほど、それじゃあ縄張り争いなんてしてる余裕はないですね」

「そういうことだな」


 証拠品の押収作業をしながらそんな会話をしていたふたりのもとに、麻取の広本が近づいてくる。


「なあ、麻生くん。彼ら、何語で話してるの?」


 広本が見る先には、取り調べをしている孔希と構成員たちの姿があった。


「少なくとも広東語ではないですね。広本さんがわからないということは……?」

「うん。北京語でもないね」


 ふたりは顔を見合わせ、ほぼ同時にため息をついた。


「それにしてもセンパイ、いったい何を話しているんでしょうね?」


 孔希は構成員たちと話しながら、ノートPCのキーボードを叩き続けている。


「普通に事情聴取をしているのだと思うが……」


 そう言いながらも、麻生は訝しげな表情を浮かべていた。

 孔希たちがなにを話しているのかは理解できないが、ときおり構成員が声を荒げるものの、彼らの雰囲気が穏やかすぎるのが気になった。



『聞いたよ。楊貴妃のデザインが変わったんだって?』

『そうなんだよ! まったくお偉いさん方はなに考えてんだか』


 孔希の問いかけに、構成員のひとりが怒りを露わにして答えた。


『俺なんて虞美人にいくら注ぎ込んだか……ああっ……!!』

『捕まっちまったら、ゲームもロクにできなくなるんだよなぁ……』

『でもよ、地獄の周回から解放されると思うと、ちょっとだけほっとするんだよなぁ』

『ああ、わかる!』

『あー、誰かストーリーだけ差し入れてくんねーかなぁ』

『バカおめー、ストーリー読んだあとガチャ回せねぇとか、そっちのが地獄だろうがよ』

『いやあ、そちらさんは大変だねぇ』


 構成員の不平に、孔希はにこやかに応える。


『にしてもお前、タン語が上手いな』

『タン語? いま話してる言葉かな?』

『ああ、俺たちが勝手にそう呼んでるだけなんだがよ』

『ま、言語は得意でね』

『得意っつっても、西部の少数民族だけが使うような、どマイナーな言葉だぜ?』

『そういう君たちだって、上手く話せてるじゃないか』

『そりゃタン語が話せるだけで優遇されっからよ。必死で勉強したわ』

『ふーん』


 そんな会話をしながらも、孔希の手は休むことなく動き続ける。


『お前、さっきからなに打ち込んでんの?』

『そりゃ事情聴取なんだから、書くことはいくらでもあるさ』

『事情聴取ったって、世間話しかしてねぇけどな』

『いいんだよ、事情聴取は得意だから』

『ほぉん』


 そうやって終始和やかな会話が続けられ、やがて孔希の手が止まった。


「よし、できた! あー、お腹空いた」



「こいつぁ……」


 ノートPCのモニターを見ながら、緒方は目を見開いた。

 そこには構成員ひとりひとりの情報が履歴書のようにまとめられており、氏名や年齢、出身地、学歴職歴に加え、犯罪歴までが記されている。

 ご丁寧に今日の日付分も含めて、だ。


「これだけのことを、聞き出したのか? あの短時間で?」


 半ば独り言のように呟きながら視線を巡らせると、孔希はカロリーバーをボリボリとかじってはゼリー飲料で流し込んでいた。

 緒方の視線に気付いた孔希は、新しいゼリー飲料を取り出し、一気に飲み干す。

 彼の足下には、カロリーバーの空箱とゼリー飲料の空き容器がいくつも転がっていた。


「取り調べは得意だからね」


 彼はなんでもないことのようにそう言いながら、ピースサインを作って自身の目を指さした


()れば大体わかるんだよ」


 そして2本の指先を緒方に向け、不敵な笑みを浮かべる。


「っ……」


 緒方はすべてを見透かされたような気になり、思わず頭をぶるぶると何度も横に振った。

 そうしてふたたび視線を戻すと、孔希はぼんやりと虚空を眺めながら新たなカロリーバーを懐から取り出し、食べ始めていた。


 そんな孔希のもとへ、麻生と広本が歩み寄る。


「なあ、天野警部、彼らとはいったい何語で話していたんだ?」


 麻生に問いかけられた孔希は、慌ててゼリー飲料を取り出し、口の中のカロリーバーを胃に流し込む。


「えっと……タン語、っていったかな」

「タン語……もしや、タンチャオ絡みの?」

「タンチャオだって!?」


 麻生が口にした『タンチャオ』という言葉に、広本が驚きの声を上げる。

 それと同時に、緒方を初めとした組対の捜査員にもどよめきが走った。


「ああ、すみません。まだ確定情報ではないのでお伝えしていませんでしたが今回の件、どうもタンチャオ絡みの可能性がありまして……」


 あくまで孔希の勘に基づく情報と、構成員たちの反応以外に、いまのところ証拠はないので、麻生はこのことをまだ広本に伝えていなかった。


「タンチャオってのは、あのタンチャオか? 最近名前をよく聞くようになった……」


 3人の会話に、慌てた様子で緒方も加わる。


 タンチャオ。

 中国を拠点とする新興の犯罪組織である。

 その実態は謎に包まれている部分が多く、中国当局もかなり手を焼いているらしい。

 詳細な拠点も組織の規模も不明で、トップがリー・シィーミンと呼ばれていることくらいしかわかっていない。


「タンチャオのリー・シィーミンですか……ふざけた偽名だ」


 麻生の呟きに、緒方が首を傾げる。


「なんで、偽名とわかる?」

「それは、なんというか……」


 麻生がどう説明しようかと考えあぐねる横で、孔希は懐からメモ帳とペンを取り出した。

 そしてメモ帳にさらさらと文字を書き、それを緒方に見せる。

 そこには『唐朝』『李世民』と書かれていた。


「組織名が(とう)(ちょう)でトップが()(せい)(みん)だなんて、どう考えても偽名でしょ」


 李世民とは随末期の戦乱を治め、その後300年近く続いた国の礎を築いた、唐の第二代皇帝である。

 (たい)(そう)(こう)(てい)李世民といえば、かなり名の知れた名君だ。


「……いや、よくわからんな」


 ただ、緒方を始め多くの捜査員は、あいかわらず首を傾げていた。


「たとえば組織名が徳川幕府でそこのトップが徳川家光って名乗ってたら?」

「ふざけたヤローだな」

「そんな感じ」

「なるほど」


 ようやく緒方に納得してもらえたようだが、今度は麻生が首を傾げる。


「二代目なので、秀忠では?」

「んー、知名度と実績でいったらやっぱり家光じゃない?」

「ふむ、たしかに……」


 麻生は完全に納得できた様子ではないながらも、小さく頷いた。


「それにしても、唐朝の李世民って、いったいどんな人なんですかね」

「さてね。写真でもあれば少しはなにかわかるかもしれないんだけど……」


 彩乃の言葉に応えながら孔希は捜査員たちを見回したが、麻生も広本も緒方も揃って首を横に振る。

 容姿を含め、謎に包まれた人物であるらしい。


「ん、待てよ」


 そこでふと、孔希は構成員たちに目を向ける。


『ねえ、君たちのなかで、ボスの写真を持っている人、いない?』


 その質問に、ほとんどが首を横に振ったのだが、ひとりだけ目を逸らす者があった。


「へぇ……」


 孔希はニヤリと微笑むと、緒方に向き直る。


「押収品の中に、スマホは?」

「あー、たぶんあるんじゃねぇかな。蜂谷ぁ!」

「うっす! これっす!」


 緒方の呼びかけに応じた蜂谷が、段ボール箱をひとつ運んできた。


「えっと、彼のぶんは……これかな」


 孔希は押収品からスマートフォンを1台取り出し、それを掲げた。

 先ほど目を逸らした男が、思わず息を呑む。


「それで、パスコードは……ほいほいのほいっと」


 孔希は迷いなくパスコードを入力し、ロック画面を解除する。


『なんで!?』

『得意なんだよ、パスワード解読とか。で、ボスの写真は?』

『い、言うわけねぇだろ!』

『へぇ、いいのかな?』


 孔希は不敵な笑みを浮かべながら、ホーム画面にあるひとつのアイコンを長押しした。


『これ、削除しちゃうよ?』

『お、鬼かてめぇ!?』


 それは持ち主の男が多大な金銭と時間を費やした、ゲームアプリだった。


『早くしないと大切なサーヴァントたちが消えちゃうよ、マスター?』

『ぐぬぬ……』


 目を血走らせ、歯を食いしばる男だったが、不意に諦めたような笑みを漏らす。


『ふん、好きにしな。そこには楊貴妃も虞美人も、もういねぇ。項羽や荊軻もいなくなっちまったんだ!』

『孔明は?』

『なに?』

『諸葛孔明だよ。イラスト、変わってないでしょ?』

『それは……』

『それにさ、メーカーが中国市場をこのまま見逃すとは思えないんだよね。そのうちきっと、新しいイラストが配布されるよ?』

『くっ……!』


 彼は孔希の言葉に考えを巡らせた結果、力なく肩を落とした。


『わかった……去年の7月あたりの写真を出してくれ』


 そうして諦めたように語り始めた。



「いったい、どんな脅しをかけやがったんだ?」


 供述を始めたらしい男の様子を見ながら、緒方が呟く。


「スマートフォンにはいろんな情報がありますからね。家族や友人なんかの」


 緒方の言葉に、広本がそう反応した。


「見かけによらず、えげつねぇことしやがるぜ……」


 上司の言葉に、そばにいた蜂谷が無言で頷く。


 その場にいた捜査員たちは、みな一様に孔希へと畏怖の念を抱くのだった。

次でひと区切りになる予定です。

今月半ばまでにはなんとか…!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] むぅ。ゲーム好きの売人とか辞めて欲しい(笑)
[一言] fgoじゃねーかw
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