24時間の夢
もしも私が生きていられたら貴方との未来は変わっていたのかも知れないね…
ー 彼女視点 ー
寒い冬が過ぎ桜の花が見事に咲き誇りやがて肌寒さも感じなくなったある日、打ち寄せる涙を見続ける…。
もう、何時からそこに居るのか分からない…。
かなり長い時間になるのは確かだ。
この時期だから人こそ多くはないが、ナンパ目的で声をかけて来たであろう声も何処か遠くで聞こえていた。
ー 彼視点 ー
こんな時期に海なんて…とは思った。
息苦しい社会生活の中で息抜きにと思い有給を取ってみたが家の中にいても息苦しいままで外に出掛けた。
思いのままに車を走らせてたどり着いたのは海だった。
日が傾き始めた時間で人も殆ど見当たらない。
大きく身体を伸ばして回りを見渡すとそこに真っ白のワンピースに真っ白の帽子を被った女の子が座っていた。
(こんな所で何をしているのか?)
声をかけようか迷う…。
暗くなり始めれば帰るだろう…そんなことを思いながら自分も海を眺めることにする。
- 彼女視点 ー
幾ら海を眺めても考える自分の近い未来の結末は変えられないのは分かっている。
それは何処で考えても同じ事なのに自分で勝手に逃げ出してこんな所に居る事にきっと心配をかけてる。
でも…あの場所から逃げ出したかったんだ…。
息苦しくて…窒息しそうで…。
(あぁ、そろそろ夕日が沈み始める…)
「そろそろ夕日が沈んじゃうね」
突然の声が心の中にまで入って来た気がして思わず声の方に顔を向けてしまった。
今日、初めて他人の声がちゃんと聞こえたかも知れない。
ー 彼視点 ー
何も考えず海を眺め続け気付けば夕日が沈み始めていた。
(あの子まだ居たんだ…)
何時からここに居たのだろか…。
見た目の年齢からしたら10代後半…高校生くらいか?
そんな事を考えていた時、無意識に声が出ていた。
「そろそろ夕日が沈んじゃうね。」
俺の声に驚いたのか弾かれる様に振り向いた少女を見て俺も驚いて目を見開いた。
綺麗…いや違う…儚い…。
夕日に照らされ全てが透き通って消えてしまいそうな気がした。
しばらくの沈黙のあと、ハッと我に返って言葉を紡ぎ出す…。
「ゴメンっ!驚かせちゃったよね。」
「…。えっと…?」
「ゴメン!ナンパしようとかじゃなくって。そのっ…何て言うか…。ご飯、一緒にどう?」
俺は何を言ってるのだ?
パニクって何が言いたいのかさえ分からなくなってきた…。
「それをナンパって言わないで何て言うんですか?」
クスクスと笑いなが返事が返ってくる。
「ゴメン!そんなつもりじゃなくって!」
「そんなに慌てなくても貴方が悪い人じゃない事は分かりますよ。」
俺のテンパり具合がツボに入ったのかまだクスクスと笑っている。
(可愛いなぁ…)
「じゃなくて!そろそろ暗くなるのに帰らなくて良いのかって事で!そもそも俺はフツーの会社員であって犯罪者予備軍でも何でもないぞ!」
最後の「犯罪者予備軍」っては余計だったが後の祭り…。
穴があったら入りたいとはまさにこの事だ。
ほら見ろ、彼女がぽかーんとしてしまった…。
「…。犯罪者予備軍が自らをそう言うとは思いませけど…。面白い人ですね。」
「…。その通りです…。はい…。」
これじゃあどちらが大人か分かったものじゃないな…。
「私、悠香です。ここに居たのは…家出?」
「家出?って何で疑問形なのさ?あぁ、俺は彰。」
「彰さん…。彰さんはどうして此処へ?」
「俺かぁ…。何だろうな…。毎日、毎日仕事に追われて上司や周りの人の期待を裏切らない様に突っ走ってたらプチンと何が切れちゃって…。有給、むしり取って気がついたら此処に来てた…。」
何故か彼女には嘘がつけなかった…。
ー 悠香目線 ー
彰さんの言葉に嘘なんてないのだろうな…。
「私も彰さんと似たようなものですよ…。受け止めなければいけないのに受け入れる事が出来なくて…。でも家族や周りの人に気付かれるのも気にされるのも嫌で…。グルグル考えていたら家を出てしまって此処に来ていました。」
「なんか…俺たちって似た者同士?みたいだな。」
「そうですね…。でも…何だろう…彰さんに話したら楽になったって言うか…。」
「俺も。悠香ちゃんに話したら昨日の息苦しさが無くなって話せた。」
二人して顔を見合わせて「ぷっ」と笑いあった。
彰さん…、笑うと幼い…。
私はちゃんと笑えていたかな?
「家、帰る?」
「えっ?」
「悩み少しは解消されたなら帰った方がいい。家族の人が心配してるだろう?」
家に帰る…。
今、帰っていつも通り「ただいま」を言えるだろうか?
「…。」
「じゃあさ、晩飯付き合ってよ。俺、この辺始めて来たから旨い店知らなくて。」
私が黙り込んだのをみかねて提案をしてくれた…。
たった今、知り合った人に甘えてもいいのだろうか?
でも、心は「帰りたくない」と言っている。
今は家に帰りたくない…。