表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/52

妹の想い

途中から妹視点。

「たっだいまー、っと」

「……おかえり」


 おお、珍しく由乃と接近遭遇した。

 まぁ、昨日一昨日と違って、今日は早めに切り上げている。

 現在時刻は宵の口という辺りであり、深夜には程遠い。


 おかげで、湯上がり妹様ですよ。


 髪から立ち上る、僅かな湿り気が実に艶かしい。

 小柄でそれに見合った薄い体型をしているが、それがまた小動物らしい可愛らしさを醸しだしている。

 成長を見越しての少し大きめの水色のパジャマも誠にキューティである。


 お湯で火照った肌は、うっすらと紅潮していて色気を纏っており、それが見た目の幼さに反する事で、背徳的な男の性欲を刺激する事は間違いない。


 うむ、総評として、けしからん妹だと言えよう。


「妹よ」

「……何?」

「そんな格好で人前に出てはいけないぞ。

 男は獣なんだからな」

「……妹を見てそんな言葉が出ることに、私はむしろお兄ちゃんへの危機感を覚えるんだけど」


 と、心からの忠告に、由乃んはブリザードの如き冷徹視線で答えた。


 うーん、これはこれで特殊な性癖を引っ掻けそうで、やっぱりお兄ちゃんは心配です。


「最近、帰ってくるの遅いね」

「ふっ、兄が心配か?」

「うん、何処で非行に走ってんのか、とっても心配」

「……もう少し兄を信じてくれても良いんじゃないのか?」


 リビングで風呂上がりの牛乳を飲み始める妹は、いつも辛辣だ。

 俺に対してだけ。


 もっと学友たちに向けるような気安さをくれても良いんだよ?

 さもないと、お兄ちゃん、泣いちゃうよ?


「じゃあ、何してたの? 夜遊び?」

「非行からあんまり離れてない気がするのですが」

「かなり違うと思うけど」

「まぁ、どちらにした所で違うとも。

 ちょっとバイトを始めてな。

 これからもちょいちょい遅くなるから、晩御飯は先に食べていて良いぞ」

「言われなくてもそうする。

 ……ふぅん、バイトね。

 まぁ、良いんじゃない?

 うん、何もしないよりはずっと良いと思うよ」

「おお! そう言ってくれるか、妹よ!」

「でも、勉強もちゃんとしないと駄目だよ。

 お兄ちゃん、成績、微妙なんだから。

 留年しちゃうよ?」

「うぐっ!

 由乃ん、お前は何故そうやって真実の剣を振り回すんだ。

 お兄ちゃん、心が痛い」

「痛みを感じるくらいなら、ちゃんとしてよね。

 留年して同級生になられでもしたら、私が恥ずかしいんだから」

「うぃーっす。頑張りまーす」

「……ふん」


 言うだけ言って、妹は自室に引っ込んでいった。


 はぁー、勉強かー。

 まぁ、確かにやらんといかんよなー。


 いまいち頑張る気にならないけど、由乃に恥ずかしがらせる訳にもいかないし。

 留年しようものなら、母さんからぶん殴られかねないし。


 はぁ、憂鬱です。


◆◆◆◆◆


 私の名前は、吉田由乃。

 自分で言うのもなんだけど、美少女優等生をやってる。

 実際に男子から告白される事もそれなりにあるし、先生からのウケも良いし、他人から見てもそうだと思う。


 そういう評価を受けるのは、正直に言うと嬉しい。

 自分の頑張りが人に認められてるって事だから。


 だから、勉強も真面目にやってるし、運動はまぁそれなりだけど、日頃の態度も気を遣ってるし、オシャレだって馬鹿にしていない。


 そんな私にも、唯一の汚点というか、そんな感じになりつつあるのがある。

 というか、いる。


 お兄ちゃんの存在だ。


 別に嫌いではない。

 んだけど、とにかく怠け者で、基本的にやる気のない人間なのだ、これが。


 勉強は赤点にならない程度だし、運動神経が悪い訳じゃないのに、疲れるからと頑張らない。

 対人関係も面倒だとか言って最低限だし、容姿に関しては特に酷いものだ。

 正直に言って、隣を歩いてほしくないし、兄妹だと人に知られたくないと思ってしまう。


 ダイエットして、身なりを整えれば、結構なものになると思うのに、勿体無い事だ。

 仮にも美少女な私の兄なんだから、多分、イケメンになる素養はある筈だし。


 勉強や運動もそうだ。

 あの兄は、やれば出来る人である。


 何がキッカケか知らないけど、時折、何故かやる気を出した時などの成績なんて凄いものなのだ。

 実際、中学時代はほぼ最下位だったのに、本当に時々だけ、何でか成績がトップクラスに食い込んでいる事があったし。

 運動だって、授業の体育で仕方なく参加する時とかは、普通に本業の部活動者にも引けを取らない活躍をする事がある。

 特に剣道とか柔道とか、武道系はやばかった。

 平気で本業に勝っちゃうし。

 あんな体型のくせして。


 そんな才能を持っているのに、怠惰な性格の所為で埃を被らせているのが、凄く勿体無くて、見ていて凄くイライラする。


 そんな自慢したいけどさせてくれないお兄ちゃんが、何かの活動を始めたらしい。


 不審感で一杯な気持ちになる。

 犯罪の類いじゃないと良いんだけど。

 まぁ、それはないかな。

 お母さんがその辺り厳しいし。

 何をしても良いけど、お天道様に顔向け出来ない事だけはするな、というのが吉田家というか、お母さんの教えである。

 私もお兄ちゃんも、口を酸っぱくして言い聞かされたものだ。


 まぁ、それはともかくとして。


 あの、怠惰で怠け者でやる気のないお兄ちゃんが何かをし始めるとか、不吉の前触れなんじゃないのか、と思わずにはいられない。

 とはいえ、妙なスイッチが入る事もあるし、そんな気分になったのだろう。

 それが長続きしてくれる事を祈るばかりだ。


「……鎮伏者になってたりして」


 明日のハンター活動予定を立てていると、ふとそんな事を考え付いた。


 バイトって言ってたし、何らかの収入がある事なんだと思う。

 でも、未成年を夜遅くまで拘束するバイトがあるだろうか。

 あったとして、そんな黒そうな職場に喜んで、あのお兄ちゃんが行くだろうか。


 それだったら、自己責任で活動時間を決められるハンターの方が、有り得そうだった。


「もし、そうだったら……」


 一緒に行くのも良いかもしれない。


 今は、同級生の女子だけのパーティを組んでいるけど、こう言っては何だが、彼女たちはエンジョイ勢というか、ちょっとしたお小遣い稼ぎ気分だ。


 最初こそ大変だけど、ある程度、コツを掴めればそれなりに稼げるのがハンターというものだし、下手なバイトよりはよっぽど収入が多い。

 だから、そういう意識の者たちも一定数いるのは理解しているし、納得もしている。


 でも、私はもっと上を目指してみたい。

 行ける所まで行ってみたいと思う。


 その意識の差が、ちょっとばかり居心地を悪くさせる。


 じゃあ、別のパーティに参加すれば、とも思うが、それはそれで危険だ。


 なにせ、虚数領域はある種の無法地帯なのだ。

 当然、殺人とか強盗とかすれば、犯罪になるのだけど、それを証明する手段が少ないのも現実である。

 モンスターに襲われてメンバーが殺された、と言い張られれば、それで終わりという可能性は充分に考えられる。

 その辺り、社会問題にもなってるし。


 それに、私って美少女だし。

 男から舐めるような視線を感じる事は日常だ。

 それくらいなら別に良いんだけど、下手な相手と組む事で強姦とかされたくないし。

 証拠隠滅の為にそのまま殺されでもしたら、目も当てられない。


 だから、どうにも一歩を踏み出せず、今の環境に甘んじている。


 だけど、その点ではお兄ちゃんは安心だ。

 だって、お兄ちゃんだし。


 あの人の事だから、ちょっと焚き付けてやれば、無駄に意地を張って上を目指し始めそうである。

 兄より優れた妹など存在しない、とか何とか言って。


 そうすれば、兄妹でパーティを組んで挑める。


「ふふっ、そうなったら面白いね」


 現時点では夢物語だけど、本当にそうなったらとても楽しそうだ。

 無駄に才能を腐らせているあのお兄ちゃんが、本気になって上を目指し始めたらどうなるのか、見てみたくもある。


 まっ、その前に格好だけは改めさせるけど。

 私の隣を歩くなら、せめて身なりくらいは整えて貰わないとね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ