表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/52

遅過ぎた

「さぁー、張り切っていくぞぉー!」


 そんな感じで何事もなく学校生活を終えた俺は、性懲りもなくお馴染みとなった虚数領域にやってきております。


 目指すは、第三層にあるという鉱石採掘ポイントです。

 流石は初心者用と言うべきか、採掘できる量も少なければ、質もお察しレベルなのだが、それでもゴブリン君の魔石をちまちま集めるよりはよっぽど稼ぎが良いのです。


 今日の俺は、色々と割り切りが進み、ほぼパンツ一丁で虚数領域に突入した。

 正確には、ボクサーとかが履いているような腰布一枚というスタイルだ。

 それに、荷物持ち運び用のバックパック一個という、凄まじき軽装である。

 登山どころか、日常生活でも、もっと重装備だろう。


 何故かって言うと、簡単な話で、服が破けるんだもの。

 昨日だって、買ったばかりの「鎮伏者、参上!」ジャージをファングの牙と爪で破かれちゃったし。


 格安とはいえ、赤字経営な今の俺には、ジャージ代すらもケチりたい所存。

 なので、このスタイルにしてみました。


 ちなみに、今日の門番さんは、昨日、言いくるめたおじさんと同じだった。

 俺のスタイルを見て、色々と言いたそうな、凄い表情をしていた。

 ふふふっ、恐ろしいか?

 俺も恐ろしいぜ。


 今日は学校終わりからの突入なので、そう長い時間をかけていられない。

 なので、記憶している最短ルートで第三層を目指す。


 相変わらずのエンカウント率であり、第三層に入るまでに、ゴブリン一匹と遭遇するだけのしょっぱい結果だった。

 泣けるぜ。

 ドロップアイテムもないし。


 という訳で、やって参りました、第三層。

 いやー、新しい場所は新鮮な気持ちになりますね。

 見た目は、何一つとして変わらないんですけども。


 さて、ここからは少し注意していこう。


 出てくるモンスターは、相変わらずゴブリンとファングだけなのだが、ここからは複数で出てくる事があるらしい。

 まぁ、せめてもの救いとして、ファングは変わらず単体だし、ゴブリンとファングがタッグを組んで来る事もない。

 ゴブリン軍団になるだけだ。


 ちょっと早足になりながら、進む。


 すると、早速に敵発見。

 ゴブリン君が、なんと二体。

 いきなりですな!


 気功発動!

 急接近からの急襲で、一体の頭部を全力で撃ち抜く。


「うおぅっ!?」


 すると、パァン! って弾けた。

 まるで、前にメイスを使って殴った時の様だ。


「あた!?」


 びっくりして立ち止まっていると、背後から衝撃があった。

 まぁ、ちょっと強めに押された程度のものなんだけど。


 そ、そうだった。

 まだ戦闘中です。


 振り向いて、もう一体のゴブリンを相手にする。

 滅茶苦茶に両腕を振り回して襲い掛かってくるゴブリンだが、その動きはとてもスローリーに感じられた。


 うーむ、こんなに遅かったか?

 改めて見ると、動きも単調だな。

 子供の駄々っ子パンチ並。

 流石は、初心者用モンスター。


 軽く躱して、右ジャブ。

 今度は弾け飛ばなかったものの、やはり一撃必殺。

 顔面を盛大に凹ませてノックダウンした。

 そのまま光の粒となって消える。


「どういう事だ?

 なんか成長したのかね?」


 シュッシュッ、とシャドーをしてみるが、いまいち自覚は持てない。


 なので、取り敢えず魔石を回収ー。

 たった百円、されど百円です。

 今の俺には、貴重な収入源なのだ。


 と、砂利を漁って拾っている所で思い出した。


 こんな時の免許カードじゃん。

 あれには簡易とはいえ、測定器が内蔵されているのだから、もしかしたら何か分かるかも。


 今更のように思い出した俺は、最初に確認して以来、バックパックの底に埋まっていたカードを取り出し、再計測してみた。


~~~~~

 吉田義之

 鎮伏者段位:初段

 固有技能:気功法【PowerUp】

 後天技能:初級格闘術【New】

~~~~~


 何という事でしょう。

 いつの間にか、パワーアップという表示が付いているではありませんか。

 ついでに、なんか格闘術とかいうスキルも生えているし。

 まぁ、ずっと拳で戦っていたから、さもありなんという気分だけど。


 でも、嬉しいー。

 ちゃんと成長してるんですよって。


 さてさて、何が成長したのやら。

 詳細を確かめてみましょうかね。


~~~~~

 固有技能:気功法

 ・身体強化【PowerUp】

 ・疲労軽減【PowerUp】

 ・発剄【New】

~~~~~


 おお、二種類ともパワーアップしてる。

 良きかな良きかな。


 そんでもって、なんか新しい能力が生えております。


 発剄とは何ぞや。

 うーむ、漫画的イメージだと、こう、衝撃波みたいなものを出すのかな?

 お試ししてみたい所だけど、気功法に回数制限がある以上、こんな危険領域であんまり無駄撃ちはしたくない。

 エンカウント率があれ過ぎても、油断は禁物です。

 命は大切に。


 嬉しい気分のまま、ルンルンと歩を進める。

 いやー、今日は良い事がありそうだなー。

 昨日はそんな事を言いつつ、いまいちな成果だったけど、今日こそは良い事があるに違いない。

 うん、絶対にそうだとも。


 そのまま進んでいくと、流石に深くなってきたおかげか、エンカウント率も中々のものだ。

 二回も途中でゴブリン一体、及び二体と戦闘になった。


 いや、実に嬉しい。

 もはやゴブリン如き敵ではない以上、お金にしか見えないね。

 さくりと仕留めて、魔石を回収しちゃいましたよ。


 うへへ、もう五百円ですぜ。

 初日の残念な稼ぎとは大違いでやんす。

 まぁ、それでもたかが何ですけど。

 絶対にそこらでバイトしてた方が時給が良いって。


 そうして進んでいると、途中で同じ鎮伏者の集団とすれ違った。

 大学生くらいのお兄さん方だ。

 三人パーティ。


「あ、ども」


 一応、それなりの数が入っている筈だけど、虚数領域内って結構広いからね。

 入り口ですれ違う以外では、初めての遭遇です。


 マナーとして、一礼すると、彼らも一礼しようとして、俺の姿にぎょっとする。


「あ、ああ。お疲れさん。

 ……君、大丈夫かい?」

「え?

 すっごい大丈夫ですけど……何か変ですか?」


 理由は分かり切っているけど、素知らぬ顔でとぼけて見せる。

 いや、うん、ほぼ裸な同業者がうろついていたら、びっくりするよね。

 俺だってビビるわ。


「えぇ? いや、変っていうか、いや、うん、変だね」


 言葉に迷った末に、素直に頷いた。

 正直な人だね、お兄さん。


「君、そんな恰好で大丈夫なのかい?

 武器も防具も無さそうだけど」

「はははっ、これが大丈夫なんですよ。

 俺には、この五体という武器と鎧がありますから」

「あー、うん。

 そう断言されると、返す言葉がないな」


 お互いに、乾いた笑いを交わす。


 うん、それ以外に出来る事ってないよね。

 つくづく俺のスタイルは挑戦的らしい。

 やっぱり服くらいは着た方が良いんだろうか。

 動き易くて良いんだけどな、ボクサースタイル。


 まぁ、でも、ちょっと贅肉のある腹とかは、やっぱり恥ずかしい気もするな。

 こんな生活を送っていると、その内、痩せてきそうだけど、それまでは衣服を着用しておこうかな。


 ちょっと悩ましい。


「君、このルートを通っているって事は、もしかして鉱石狙いなのかな?」

「あっ、はい。そうです。

 ちょっと赤字がきつくて」

「はははっ、だろうね。

 初心者の内は、どうしてもそうなるよね。

 分かる分かる」

「あー、でも、すまん。

 今日の分はもう取り尽くしちまったぜ?」

「え? うそ……」


 世知辛い現実に笑い合っていると、後ろの別のお兄さんがそんな事を言ってくる。


「あー、そうなんだよね。

 三回目でもう見つからなかったし、多分、打ち止めだね」

「またもや、赤字……」


 絶望的な現実に、俺は崩れ落ちてしまった。


 こうした採掘場所には、マナーとして、一パーティで一日五回までの採掘、というルールがある。

 そうしないと、最初に辿り着いたパーティが独占してしまい、他の者たちに回らなくなってしまうからだ。

 特に、こんな初心者用の虚数領域だと、経済事情がカツカツなルーキーばかりなので、そういうルールをしていないと新規勢がすぐに引退してしまう。


 なので、油断してこんな時間からやってきたのだが、どうやら一歩遅かったらしい。


 オーマイガー。

 神は死んだ。

 何が、良い事がありそうだよ。

 全然駄目じゃねぇかよ。


「……すまん」


 絶望的な雰囲気で崩れ落ちた俺に、決して彼らが悪い訳ではないというのに、謝罪の言葉を送ってくるお兄さんたち。

 本当に良い人たちだなー。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ