良い仕事
申し訳ありません。
昨日、更新するの、忘れてました。
やがて完成する。
うむ、これ以上ない作品が出来上がったぞ。
充分な能力を有していながら、デザイン性でも劣っていない。
そして、しっかり予算内に納めた衣装の完成だ。
「由乃! 試着の時間だ!」
「えぇ~、やっとぉ~?」
時間はもうお昼を過ぎて、夕方に差し掛かろうとしていた。
いや、実に白熱してしまったな。
つい時間を忘れてしまったぜ。
「お姉さん、すまない。
随分と付き合わせてしまったようだ」
お仕事の邪魔をしてしまったようなので、素直に謝罪をする。
すると、彼女は首を横に振って笑顔を浮かべた。
「いえいえ、どうせ暇ですから。
それに、久々に良い仕事になりましたので」
「そうか? そうなら良いのだが」
そういう事らしいので、気にしない事にしよう。
それよりも、本題の時間だ。
「では、こちらのVR試着室にどうぞ」
組み合わせた商品の中には、取り寄せしないと在庫がない物もあったので、VRで仮想的にお試しするのだ。
こんな技術も、虚数領域由来だと言うのだから、色々と恩恵があるよな。
まぁ、そんな事はともかく。
由乃が入って、試着する。
暫し、仮想空間で動きやすさなどを確かめ、少ししてからカーテンが開いて彼女の姿が見えた。
内部には、投影機が仕込まれており、中にいる限りは服の上から入力された試着データを上書きして、外の者に見せる事も出来た。
だから、今の由乃は、俺コーディネートの衣装を着ているように見える。
「おお!」
その似合いように、俺はつい声を出していた。
上衣には、白を基調とした和装を採用。
但し、縁取りとして黒を当てられており、また和服らしく大きく広がった袖の端には、桜の花柄が僅かな花吹雪と共に描かれている。
それを留めるのは、茜色をした太い帯。
濃淡ある色彩によって、紅葉を想起させる色合いをしている。
そんなデザイン性を重視した結果、大変に汚れやすそうではあるが、そこはちゃんと鎮伏者用である。
簡易な汚れ落としと自動修復機能がエンチャントされていて、ちょっとやそっとの事では駄目にならないらしい。
素晴らしい。
下半身には、漆黒の袴を。
しかし、上衣の布が帯の下から伸びており、前垂れのように足の間にあった。
その端にも花模様が描かれていて、華やかさ度アップである。
袴にはスリットが入っており、慣れない者でも動きやすい様に工夫されており、生足がチラリと覗くというエロさも両立された構造となっている。
そんな生足には、太ももまで覆う黒の長足袋が装着されており、周りの黒地に対する素肌の白が垣間見える絶対領域がなんとも艶かしい。
足先には朱色の草履が履かれており、手元には紅葉のような形をした扇がある。
髪は、うなじの長さで細い白紐で括られ、左頭には紅色の帯と稲穂色の飾り紐で作られた髪飾りが飾られていた。
うむ、ビューティフォー。
いやー、良い仕事しましたねー。
ちなみに、見えない中身も色々と凝っているのだ。
内側の襦袢は、ロイヤルモスというモンスターの糸で織られたシルク製で、火属性と闇属性以外に対する耐性があり、更にその下には魔鋼とミスリル銀の合金で出来たチェインシャツを装備している。
これは、物理的に頑丈な上に、魔法への高い耐性を持っている、バランスに秀でた防具だ。
しかも、和服的高騰をしていないので、比較的お安い値段設定をしていた。
ちなみに、これ、チェインシャツじゃなくて、鎖帷子にすると、軽く三倍くらいに値段が跳ね上がる。
使用素材も、性能も、ほとんど変わらないというのにこの価格設定である。
意味分かんないよね。
実は下着も、曰く付きの虚数領域、第1恐山虚数領域で採取された霊糸で作られていて、単なる下着とは思えない耐久性を誇っている。
単純な耐久力も高いが、更には霊体系モンスターが得意とする精神攻撃への耐性があるという代物だ。
まぁ、流石にデザインまでは口を出すまい。
これに関しては、由乃が好きなデザインを選ぶが良かろう。うん。
と、まぁ、そんな感じで。
デザインのみならず、性能においても各種モンスター素材等を惜しみ無く使用し、エンチャントまでガチガチにした素晴らしいコーディネートとなっている。
ぶっちゃけ、中段位でも通用するレベルである。
プロだときつい、というかまず無理、とは言われたけど。
プロとそれ未満の差は、異常にでかいんだよなぁー。
しかも、あくまでも防御力においてのみ、だしな。
攻撃力とかスキル補助とかの部分はかなり妥協しているので、これを装備したからと言って中堅レベルの虚数領域に挑むのは危険との事だ。
まぁ、仕方ない。
俺の経済力の限界よ。
しめて、お値段、511万とんで32円となります。
ちなみに、カード割引とかまとめ買い割引とか、そういうの取っ払うと、軽く5,000万を越える。
やべぇ。
「どうよ、由乃ん。俺様のコーディネートに恐れ入ったか!?」
着心地の方を訊ねると、渋々という感じで頷いた。
「うん、良いんじゃないかな。
すっごい不服だけど。
自分の格好にも、これくらいの熱意を傾けなよ」
「男なんてジャージ一枚で充分だろ?
それより、不満点とかはあるか?」
「こいつは……。
まぁ、今は良いや。そうだね。
取り敢えず、靴は何とかして欲しいかな?
草履って履き慣れないせいか、歩き辛い。
走ったら脱げそうだし」
「ふぅむ。それはいかんなぁ」
見栄えは良いのだが、運動性を損なうのはいかんよな。
結果として死にました、では笑い話にもならんし。
「では、こちらのブーツはいかがでしょうか? 」
店員さんがすかさず入力を切り替えると、草履が消え、代わりにやや簡素な編み上げブーツが出現した。
「少しコンセプトから外れますが、大正デモクラシーのような雰囲気になるのではないかと」
「うむ、確かに。
古きを思わせる組み合わせだな。
ついでに、ブーツだから脱げる心配もない。
どうだ?」
その場で少し足踏みをして具合を確かめていた由乃は、納得したように頷く。
「うん、これなら大丈夫そう」
そりゃ良かった。
「……だけど、この足のスリットはどうにかならないの?
恥ずかしいんだけど」
「それを無くすなんてとんでもない!」
ひらり、と袴に切り込まれたスリットを揺らしながら文句を言う由乃に、俺は力強く否定する。
「良いか、由乃ん」
「由乃ん言うなし」
「ええい、茶化さずに聞け。
男はな、ちょっとエロい姿を見せておけばコロッと行く単細胞生物なのだ。
俺にはピクリとも来ないが、お前の脚線美は中々のもの故、それをエロティックにアピールせずにどうすると言うのだ」
「そもそも妹にエロを求めるなよ」
「差し出がましいようですが、少々」
横から店員さんが割り込んできて、由乃に言い聞かせ始めた。
「よろしいですか?
今は男女のお付き合いにさしたる興味はないのかもしれません。
ですが、いざ嫁遅れの現実に直面した頃に焦っても、もう遅すぎるのです。
男とかいうのは、若いメスが無条件で好きな単細胞生物なのですから、まだお若い内にしっかりと候補をキープしておかねばなりません。
30も過ぎてくると、あの下半身直結の畜生どもは、露骨に見向きもしなくなって……。
劣化しただの、賞味期限切れだの、好き勝手な事を言い腐りやがる脳足りんで……いえ、ちょっと愚痴が入りましたね。
ともかく、今の内からしっかりとアピールして優良物件を捕まえておくべきだと忠告いたします」
「…………はぁ」
うむ、まさにその通りだ。
男ってのはそういうものだからな。
男の俺が言うんだ。間違いない。
個人的には妹が彼氏連れてくるとか、嫁に行くとか複雑な気分もあるのだが、かといっていつまでも喪女で家の中で売れ残ってしまうのもどうかと思う訳でな。
だったら、もう割り切ってしまおうという兄心ですよって。
そのエロさで男心を存分にくすぐってやるのだ。
俺と店員さんの熱意に押されたのか、いまいち納得しきれていないようだが、それでも由乃は首を縦に振った。
「まぁ、そこまで言うなら」
という事になった。
やったね。
やっぱり世の中、勢いとごり押しですね。
「では、仕上がりは明日の21時以降となります。ご了承ください」
お支払を済ませて、引換券を頂戴する。
時間がかかるのは仕方ないことよ。
だって、取り寄せ品もあるし。
特殊なものばかりだから、仕立て直しもそう簡単にはいかないし。
むしろ、明日には出来るっていう方が驚きですよ。
「分かりました。また明日、寄らせて貰います」
「またのご利用、お待ちしております」
そんな感じで、俺と由乃の、お互いのファッションコーディネート大会は終わったのだった。
まさか、こんな事で一日と全財産を使い果たす事になるとは。
まぁ、特に後悔はしていないけども。
由乃が可愛くなったしね。
容姿に合わせた服装で、魅力値マシマシですよ。
悪い虫がたくさん寄ってきちゃうなぁ。
「……ありがとね、お兄ちゃん」
「良いって事よ」
帰り道、由乃が小さく感謝の言葉をくれた。
それだけで、やった甲斐があったと思えちゃう俺って、実は安い男なのかしらん?
イメージは、香霖堂天狗装束です。
頭襟の代わりに、髪飾りを。
一本足の下駄の代わりに、ブーツを。
という感じで。
和装系で一番好き、あの衣装。




