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本気を出してみる(使いどころ)

 ワンフロア上がって、ウーマン向け衣装コーナーへとやって参りました。


 まぁ、あれね。

 紳士服よりも客が多いし、賑わっている気もするな。

 こんな業界でも、女の子というのはお買い物が好きなんでしょう。


 だが、その中でもちょっとだけ閑散としている和服コーナーへとやってきた。

 いやー、値札をちらりと見てみるけど、やっぱり高いね。


「予算は五百万ちょい。

 これで最高の装備を、そして見た目にも良しな感じにせねばな」


 ここ最近で最も真面目な顔で、俺は各種商品と睨めっこする。

 ええ、もう。ビッグゴブリン戦以上ですよ。

 ミノタウロス戦と良い勝負よ。


「……何処に本気を出してんだか」


 呆れたように妹様が呟いているが、そんな事は知った事ではない。

 可愛い妹をより可愛く仕立て上げるのだ。

 それは兄の仕事であろう。

 全く、理解の足りていない娘だね。

 はぁ、やれやれ。


 俺の本気具合を感じ取ったのか、このコーナー担当兼看板役らしい、和装の女性店員が近付いてきた。


「いらっしゃいませ、お客様。

 よろしければ、ご相談に乗りますよ」

「うむ、確かにプロの目利きも必要か。

 是非ともアドバイスを頂戴したい」

「あちらのお嬢様に贈られる品、という事でしょうか?」


 ちらり、と背後で手持ち無沙汰に色々と見て回っている由乃を店員さんが見やりながら確認した。

 俺は首を縦に振りながら、それを肯定する。


「その通りだ。あの通りの見た目なのでな。

 洋装より和装の方が似合うのだ」

「なるほど。確かにその通りで御座いますね。

 ちなみに、ご予算の方は?」

「五百万ちょいくらいだな」

「はぁ……」


 正直に答えると、若干、店員さんの熱量が下がった。


 この貧乏人が!


 という所かな?

 ふふふっ、それは早計というものだぞ。


「安心するのだ、お姉さん。

 俺にはこんな秘密兵器がある」


 そう言って、例のカードを差し出す。

 途端、更に目の色が変わった。


「……これは。……成程、そうでしたか。

 指定鎮伏者の方でしたか。

 これは失礼しました」

「良い。誰にでもそういう事はある」


 なんか偉そうな口調で言ってるね、俺ってば。

 良いんだよ、こういうのは気分で。

 実際、指定鎮伏者って普段の生活の中では特別扱いなんだし。


「となれば、予算は一気に膨れ上がりますね」


 口元に手を当てて、店員さんは思考を巡らせている。

 おそらく、脳裏では様々な商品を列挙しているのだろう。


「ちなみに、お客様の優先順位はどのようになっておいででしょうか?」

「優先順位、とは?」

「はい、例えば防御力を優先して次に攻撃力を、見た目は二の次、というようなご要望です」

「なるほど。……そうだな」


 由乃を見ながら考える。


 危険になって欲しくないから、防御力は当然必要だよな。

 あと、そもそものコンセプトとして、あいつに似合う格好を、って事だから見た目の華やかさも欲しいところ。

 攻撃力は……まぁ、あれば良いけど無いなら無いで良いか。

 俺が素手でもいけるんだし、なんとかなると思うんだよね。

 スキルの多様性は、あるに越した事はないけど、優先順位は低め。

 欲しけりゃ自前で取得を目指しますよ。

 ユニークスキルって、どうやったら生えてくんのかねぇ。

 持っている身としては、ぼんやりと分からんでもないんだけど、こう、言葉に出来ないもどかしい気分ー。


 ってな事をつらつらと伝える。


「……承知しました。

 最優先は身の安全で、次にデザイン。

 その他は二の次、という事でよろしいでしょうか?」

「うむ」

「ちなみに、差し支えなければ、お嬢様の戦闘スタイルを窺いたいのですが……」


 そういうのは、あまり言いたくないという者も多い。

 虚数領域は、基本的に自衛が推奨されるからだ。


 が、こちらには隠す気はない。

 そもそも隠さなければならないほど、特異な部分ってあんまりないし。


「典型的な後衛の魔法使いだな」

「ふむ。所持している属性適性の方は?」

「基本四属性は全部使える筈だぞ。

 最も得意なのは火属性らしいが……」

「ご回答、ありがとうございました」


 丁寧にペコリとお辞儀をした店員さんは、すぐに頭を上げるとタブレットを取り出して、商品のオススメを始めた。


「では、まずは上衣の方から……」


 次々に提案されていく商品群。


 流石はプロだな。

 セット価格での割引や、御蔵入りしていて値引きされているもの。

 更には見えない部分で洋装を織り混ぜる事での値段の圧縮と性能の向上など、立て板に水を流すように出てくる。

 更には、専門ではない筈のアクセサリ類にまでその知識は及び、提示される選択肢がどんどんと増えていった。


 俺はそれらを一つ一つ吟味し、組み合わせていく。

 それは、実に難解な問題であった。


 組み合わせは無数に存在する。

 そして、上を目指し始めると本当に金額が青天井だ。


 満足の行く性能とデザインに仕上がったと思えば、カード割引込みでも予算オーバーしたり。

 はたまた、予算内に納めたものの、性能とデザインの両立がなっていなかったり。


 あーでもない、こーでもない、と、店員さんと喧々諤々の提案を交わしていく。


「……お兄ちゃん、まだやってんの?」

「うるさいぞ、妹よ。

 こういうのは妥協してはいかんのだ」


 途中、焦れた由乃が催促してきたが、軽く黙らせる。


 女の買い物は長いと言うが、男の買い物だって長いんだよ、ちくしょうめ。

 不満が残ってはいかんからな。

 可愛くて魅力的な妹を作り上げる為には、お兄ちゃんは労力を惜しんだりしないのだ。

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