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興味の矛先

まだまだ書き溜まってないけど。

まだ二万字くらいしか書いてないけど。


あんまり放置してもいけないかな、と思いまして、少しずつ投稿していきます。

三日おきくらいにしようと思います。

「よぅ」


 とある日。

 夏真っ盛りの暑い中で、私が汗水垂らして働いていると、目の前に暑苦しい筋肉だるまが現れました。


「げっ……」


 私は、挨拶代わりに、しっかりと嫌な顔と舌打ちで迎えます。


「げっ、とは何だ。げっ、とは。

 先輩に対する態度がなっちゃいねぇな」


 お腹の底に響くような、鉄錆びた声を言うのは、もう50を過ぎた初老の男性です。

 しかし、一方で容姿からは老齢からの衰えは微塵も感じられません。


 ゆったりとした和装だというのに、その上からでも分かるほど、全身の筋肉は肉厚で、見え隠れする素肌のあちこちには古傷が残されていて強者という印象を抱かせます。

 髪ともみ上げで繋がった、濃い髭を生やしておりますけど、それが年老いた渋さと合わさって、絶妙な味わいを醸し出しております。


 ワイルドなおじ様好きならば、垂涎ものではないでしょうかね。

 私の趣味ではありませんけど。


 彼の名は、黒鉄(くろがね)蔵主(くろうず)

 現役の鎮伏者で、日本に四人しかいない九段の一人です。


 つまり、普通に私の大先輩に当たります。


「いえいえ、とても順当な態度ではないでしょうか?

 御自分が面倒だからとかいって、様々な仕事を私に放り投げてきてくれた事、忘れてなんていませんよ?」


 ええ、本当に。

 思い出すだけで嫌な記憶が溢れ出す想いで一杯ですよ。


 何が楽しくて、若い女の子がうじゃうじゃと群れた虫の大群の中に突っ込んでいかないといけなかったのでしょうかね。

 全身に集られた時は怖気が止まりませんでしたし、服の中にまで入り込まれて素肌の上を這い回られた時なんて、虚数領域の只中だというのに思わず気絶しそうになってしまいましたよ。


「ああん?

 あんなもん、見所のある後輩に経験を積ませてやろうってぇ、先輩からのありがてぇ配慮だろうが。

 恨まれる覚えなんざねぇなぁ」

「ほほほ、そうですかー。

 なら、背中に気を付けておく事ですね。

 先輩様が常在戦場の心得を忘れないように、特別に訓練をしてさしあげましょう」

「カッカッカッ、良いぜ。かかってこいや。

 返り討ちにしてやるぜ、小娘」


 殺気を込めた視線を交わして、火花を散らします。


 まぁ、こんなものは本気ではありません。

 鎮伏者における独特な文化と言いますか、気軽な挨拶のようなものです。

 ……隙あらば、後ろ弾する気なのは本気ですけど。


 なので、数秒で殺気を収めて、吐息します。


「それで、わざわざこんな辺境に何の用ですか」


 私は、先日のイレギュラーの調査の為、第22奥多摩虚数領域と繋がっていそうな領域を探す為に、あちこちの虚数領域を踏破している最中です。


【魔眼】全開でエネルギーの流れを調査させられましたよ。

 本当に疲れましたとも。

 鎮伏協会の皆さん、ちょっと私の事を酷使し過ぎです。


 まぁ、その甲斐もあって、大体、繋がっているであろう虚数領域を特定できました。

 今は、その裏付けですね。

 特定できた虚数領域の最下層まで潜って、ボスを張り倒す作業を繰り返しています。


 ぶっちゃけ、虚無感が心を吹き抜けています。


 幸いにして、繋がりのある領域は関東圏のみで、難易度的にも精々で中段者向け程度の簡単な場所ばかりでした。

 でしたけども、私からすれば、今更、歯応えのあるような虚数領域ではありません。

 何らかの依頼でもなければ、やってこない場所です。


 なので、ひたすら無心になって哀れなボスをワンパンする日々です。

 虚無感で心が死にそうです。


 そして、そんな場所なのは、蔵主さんにとっても同じこと。

 私よりも先輩なのですからね。

 当然です。


 わざわざやってきたという事は、何か、私に用事なのでしょう。


「いや、大した事じゃねぇんだ。

 ミノタウロスが出たって聞いたからよ。

 ちょいと当事者の話を聞いてみようかと思ってな」

「……ああ、そういえば、蔵主さんは、オリジン討伐戦の経験者でしたね」

「後にも先にも、あの時以上に死を覚悟した事はなかったな。

 だから、まぁ、ちょいと気になっただけよ」


 この方は、クレタ島で起きたオリジン・ミノタウロス討伐戦に参加し、生き残った本物の猛者です。

 その貴重な生き証人からすれば、無事に解決したとはいえ、無視する事は出来ませんか。


「分かりました。

 そういう事でしたら、お付き合いしましょう。

 私も、少々倦んでいた所です」


 気分転換には丁度良いでしょう。

 精々、お話ついでに美味しいものでも集らせて貰いましょう。


「悪ぃな。

 詫び代わりに、梯子仕事に付き合ってやるよ」

「……それ、更に虚無感が増しませんか?」


 下位虚数領域にプロ級が二人も。

 完全にオーバーキルです。


 ……………………。


「そうかぁ。おめぇ一人でも楽勝だったかぁ」


 所変わって、涼しい喫茶店の中で。

 私は、特製ジャンボパフェを突きながら、ミノタウロスについて詳細を語ります。


「しぶとさだけでしたね。

 強さ的には、50から60層のボス程度でしょうか」


 プロ級でなくとも、上位の中段者チームなら、充分に対処できるレベルでした。

 中位レベルでも、ちょっと頑張ればいけるんじゃないでしょうか?

 特異で厄介な能力を持っている訳でもありませんでしたしね。


「まぁぁ、そういう事なら気にする事もねぇかぁ。

 ……それよりも、俺としちゃその馬鹿な初段の方が気になるな」

「そっちに目を付けましたか」


 大した事のなかったミノタウロスよりも、初段でまだ活動し始めてから一ヶ月も経っていないというのに、躊躇いなく格上に飛び込んでいったアホに興味が移りました。


「で、おめぇさんから見て、どうなんだよ?」

「……見所はありますよ。

 蛮勇を抱く精神性は、私たちには必要なものですから。

 ついでに、何だかんだで生き残る悪運も持っています。

 ちゃんと生き残れれば、ここまでやってくるのではないでしょうか」

「そいつは良いな。

 最近の若いのは、安全だ何だと、無茶をする奴も少ねぇからよ。

 活きが良い奴は歓迎だぜ」

「年寄り臭いですよ」

「馬鹿野郎。年齢相応だ」


 グビリと、湯呑みに残っていたお茶を一息に飲み下しました。


「ちょいと見てみたくなったぜ」


 そうと呟く蔵主さんの目には、好戦的な色が宿っていました。


 彼のこういう所は困ったものです。

 私は、無駄かもしれない釘を刺します。


「あまり無茶をなさらずに」

「んだぁ? おめぇが人の心配すんなんざ、珍しいじゃねぇか」


 意外そうにしております。

 そんなに変でしょうか?

 別に他人に興味無し、と言った覚えはないのですけど。


「……まさか、嬢ちゃん、ホの字か?」

「ほ?」


 ほ、とは、一体。

 何かの暗号でしょうか。

 知らない暗号をさも当たり前の様に言わないでいただきたい。

 さっぱり分かりません。


「惚れてんのか、っつってんだよ」

「なっ……!」


 意味を告げられ、それを理解した瞬間、私は自らの頬が赤くなるのを感じました。


「断じて違います!」

「なんでぇ。つまんねぇな」

「……おほん。

 ただの玩具です。

 あと借金を返して貰いませんと」

「そんな冷たい心が、いつしか……」

「変・わ・り・ま・せ・ん。

 全く、人の恋路を気にしている場合ですか。

 貴方、綾小路さんとの事、ちゃんとした方が良いですよ」

「あーあー、うっせぇ。

 良いんだよ。

 俺とあいつはこのまんまで」


 バツが悪そうに、彼は中身の入っていない湯飲みを傾け、露骨に話題を打ち切りました。

 逃げましたね。

 男らしくないと言って差し上げましょう。


「まっ、安心しな。

 ちゃんと加減くらいはするからよ」


 カラカラと笑いながら、全く信用ならない言葉を吐き出しました。

 溜め息しか出てきませんね。


「そうである事を祈っております」


 私に喧嘩しかけてきた時は、私、右側の肋骨が粉砕させられて、ついでに肺まで潰されたんですからね。

ちょこっと設定解説。


スキルの段階は、初等、中等、高等、匠級、王級、帝級、聖級の七段階が確認されている。

但し、聖級(熟練)にまで至った鎮伏者曰く、次の段階があるとも言われている。

しかし、そこに辿り着いた者は今の所おらず、あくまでも予想に過ぎない。

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