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野蛮人とお見受けします

 ああ、いけない。

 淑女にあるまじき行動です。

 お口をハンカチでふきふき。


 第四層に侵入してきたのは、一人の少年でした。

 おデブちゃんな体型をしており、髪や髭が不衛生感を漂わせる若者です。


 そして、彼は全裸でした。

 いえ、全裸ではありません。

 パンツ一丁です。

 いえいえ、違いますね。

 あれです。ほら、あの、ボクサーの方が履いてそうなあれです。

 ああ、名前が出てこない。

 あわわわ、語彙が、語彙が。


 そんな半裸姿に、スニーカーと背中にはバックパックという、奇抜というか個性的というか挑戦的と評すべきか、とても不可思議な人物がいたのです。


「ノ、ノーガード戦法……」


 凶悪なモンスターと戦うに当たって、武器どころか防具すら身に付けないとは、原始人なんでしょうかね?

 何処の蛮族でしょう?


 はわわわ、へ、変態は駆逐せねば。

 い、いえ、違います。そうではありません。

 この場で殺っては私が犯人だとバレてしまいますから、もっと計画的に……って、これも違います。

 ノーカンです。

 意外性に富んだパンチ力に、私の思考回路は戸惑いに錯乱です。

 あわあわあわ。


 …………おほん。


 ふぅ、大分、落ち着いてきましたよ。


 全く、何ですか、あの変態は。

 年頃の乙女に男の子の裸など、刺激が強すぎます。

 女子高育ちの純情を舐めないでいただきたいですね!

 ぷんぷん!


 それはともかく、そんな半裸少年は、間違いなく噂の吉田義之さんです。

 これは、確かに色々と注目に値しますね。


 あら、よく見ればうっすらと腹筋が浮いて。

 ただのおデブちゃんという訳ではなさそうですね。

 写真よりも実物は引き締まった印象がありますし。

 ドキドキ。


 マラソン程度の速度で走り始めた彼ですが、程なくしてゴブリン三匹と遭遇しました。

 では、お手並み拝見といきましょうか。


 …………ふむ。

 彼の身体強化は、力だけが増強される部分強化の類いでしょうか?

 ゴブリンがちょっと有り得ない感じに吹っ飛びましたが、速度などはまぁ並みです。

 格闘術スキルによる補正で、体捌きにキレはありますが、特に速いという印象はありませんね。


 三匹を瞬殺した手並みは、確かに初心者とは思えませんが、あれくらいならかつての私も出来ますし。


 あの動きでは、ファングの相手はちょっと辛いと思うのですけど、どうでしょうか。


 と、思っていると、早速、ファングと鉢合わせていますね。

 さてさて、どうで……。


「っ!?」


 な、何ですか、今の急加速。

 虚を突かれて、一瞬、見逃してしまいましたよ。


 まさか、今まで身体強化を使っていなかったのですか?

 そんな馬鹿な。


 いや、本当に馬鹿ですよ。

 最下級のゴブリンでさえ、その身体能力はアスリート並みなのです。

 それに武器防具無しで挑むのも大概ですが、更には身体強化スキルを使わずに戦うなんて、アホの極みではありませんか?


 全く、そんな事をするのは、世界広しといえど彼くらいな……いえ、私も人の事は言えませんか。

 い、いえ、あれは色々と実験をする為であって、別に本格的にスキル無しでやっていこうなんて思った訳ではありませんよ?

 ただ、ちょーっと、初心に戻りたかっただけというか、スキルが強くなって調子に乗っちゃってる自分を戒めたかったというか……。


 こういうと、なんだか戦闘脳なバリバリな戦闘民族っぽいですね、私。

 今更気付きましたけど、凹みますわ~。


「……ふむ」


 身体強化を施した場合は、まさに瞬殺でした。

 ゴブリンなんて鎧袖一触ですし、ファングですら一撃必殺です。

 というか、よくあの虎口に腕を突っ込むなんて芸当が出来ますね。

 いくらそこが弱点とはいえ……。

 クソ度胸の塊ですか、この人。


 戦闘後、勝利のポーズを暫し取った後に、探索再開します。


 なんだか、右に左に視線が行ったり来たり。

 背後もしきりに気にしています。

 不審感たっぷりという様子ですね。


 ふっふ~ん、モンスターの密度が薄くなった事が不思議で堪らないようですね。

 それは私の仕業ですよぉ~。

 雨の様に感謝しなさい。


 いないものは仕方ない、と思ったのか、進行速度が上がりました。

 とんとん拍子に進んでいきます。


 どうやら、ゴブリンのみの場合は、身体強化を温存しているようですね。

 発動回数? それとも時間でしょうか?

 その辺りに制限があるのでしょうね、おそらくは。

 私が身体強化を使えるようになった頃には、他にも色々とスキルやアイテムがありましたので、その辺りはあまり考えずに済みましたから。

 大変ですね、弱いと。


 走りながら、彼は背中に手を回して、バックパックから何かを取り出しております。

 包みを破いて口の中に入れている辺り、食べ物でしょうか。


 まっ、お下品。

 お食事はちゃんと落ち着いて食べないといけませんよ?

 だから、そんなに太ってしまうのです。


 それにしても、随分と不味そうに食べていますね。


「あれは……」


 よく見れば、あれはクソ不味いで悪名高き、超ファットカロリーレーションではありませんか。

 各種栄養を含んだ上で、とにかく高いカロリーを、何でもいいからカロリーを、味なんてどうでもいいからカロリーを、という中々にぶっ飛んだ発想の下に作られたギャグ商品の一種です。

 あれ一つで、5,000kCalはあるというびっくりファットぶりですからね。


 それを、走りながら食べております。


 …………そうですか。

 そんなにお腹が空いているのですね。


 成程成程。

 将来有望そうというのは、本当のようです。

 引き際を誤り、勢い余ってうっかり死にさえしなければ、彼はきっと登り詰めるでしょう。

 既に、〝変容〟は始まっているようですし。


 早いですね。

 私とは比べ物になりません。

 まぁ、仕方のない事です。

 私は基本的に後衛ですからね。

 身体を酷使しないと、あれは始まりませんから。

 ……負け惜しみではありませんよ?


 さてさて、そうこうしている内に、早くも第五層への道に辿り着きましたよ。


 あまりの順調ぶりに、どうにも拍子抜け感が抜けないようですね。

 終点を前にして、凄く微妙な顔をしております。


 とはいえ、それも短い時間です。

 すぐに割り切ったのか、さっさと下層へと向かっていきました。


 良い精神性ですね。

 細かい事に拘らないスルースキルは、鎮伏者には必須な能力です。

 だって、虚数領域は不思議な事で満ちておりますから。

 いちいち反応していては、気疲れしてしまいます。


 とと、いけませんいけません。

 私も移動しなくては。


 私の魔眼は、階層を超える事は……出来なくはありませんが、凄く大変ですからね。

 リスクもありますし。

 なので、彼を追って私も第五層に降ります。


 気付かれてはいけないので、ついでに作っておいた抜け道を使って、こっそりと。


まだ音姫視点が続きます。

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