お掃除♪ お掃除♪
続・音姫視点。
という訳で、翌日の早朝から、依頼のあった虚数領域にやって来ました。
情報によれば、件の鎮伏者――吉田義之さんとやらは、日が上った朝ごろにやってくるという事だったので、払暁のお時間からお仕事開始ですよ。
人のほとんどいないゲートを通って虚数領域に侵入します。
同時に、私の持つユニークスキルの一つ、【魔眼】を発動させます。
色々な目を複合させているのですが、取り敢えず今は千里眼ですね。
フロアの隅々まで見渡します。
とはいえ、第一層ではほとんどモンスターの影が見えませんねー。
ゴブリンがちらほらと、ええと二匹? 少な過ぎでは?
ま、まぁ、良いでしょう。
依頼は、第四層と第五層です。
そこまでは駆け足で参りましょうー。
……………………。
はい、到着ぅ。
いやー、ここまでにゴブリン三匹しか遭遇しないとか、モンスター密度がヤベーですね!
狩られ過ぎではありませんか!?
本当に間引き依頼とか必要ですかね!?
まぁ、お仕事はお仕事です。
見るだけ見てみましょう。
魔眼発動! ビカーッ!
…………うわ。
何あれ、落差酷過ぎです。
薬草採取ポイントまでは、やっと通常の虚数領域並みの密度になっていたのですけど、そこ以降はもうひしめいてるっていうか、ぎゅうぎゅう詰めと言いますか、まぁそんな感じな有り様であります。
これは、確かに間引きが必要ですね。
初心者では突破は辛いでしょー。
私は、愛用の武器を取り出して、もう一つのユニークスキルを起動します。
「さぁ、プロとしてお仕事しましょう」
所詮はゴブリンとファング。
ちゃちゃっと片付けちゃいましょーねー。
はい、お掃除完了です!
いやー、数だけは流石でしたね!
まぁ、最下級のゴブリンなんて、雑魚も雑魚ですし。
初めて虚数領域に潜った時にも、苦戦しませんでしたからね。
群れたところでたかが知れています。
ファングは、若干、トラウマありましたけど。
昔は思いっきり噛み付かれて、泣き喚きながら倒した、いやーな黒歴史の張本人ですけど。
お肌に傷跡残ったらどうしよ~、と不安にさせられた主犯ですけど!
いやー、今となっては楽勝でしたー。
こんなに弱かったんですね、ワンコちゃん。
感覚麻痺してましたー。
思わず爆散させてしまってごめんなさい。
まぁ、そんな過ぎ去った事はどうでも良しとしまして。
大分、綺麗になりましたよ?
第四層は、普通の虚数領域の密度にちょっと色を付けたくらいにまで減らしまして。
第五層は元々多くはありませんでしたが、それでも初心者にはちょっと辛いかもと思えましたので、半分くらいにまで減らしておきました。
いやー、イイー仕事しましたなー。
さてさて、では朝御飯でもいただきながら、噂の新人さんを待ちましょう。
まぁ、顔は合わせませんけどね。
私には魔眼があるので、遠目に見物するだけです。
お手製のサンドイッチをつまみながら、私は貰った資料を取り出します。
そう、吉田義之さんの登録情報です。
個人情報、ガバガバですね。
きっと私の情報も、一部では流出しているのでしょう。
……一般にまで流出していないなら、まぁ、いい……かな?
その内、特定して口封じをしてやらねばいけませんけど。
ともかく、吉田さんです。
一番に目につくのは、当然、顔写真です。
うーん、おデブさんなのは体質とかで見逃してあげられますし、何より鎮伏者をやっていれば勝手に解決する問題ですけど、このボサボサの髪と無精髭はいただけませんねー。
ポイント、大減点です。
不潔感がもうダメです。
第一印象は最悪ですね。
年齢は私と同じで、登録してからまだ一週間だそうです。
ソロで一週間で、もう虚数領域を一つ攻略しようとは、何処かで聞いた話ですねー。
だから、私にこの話が来たのでしょうか?
ユニークスキルを一つ所有しているそうですね。
聞いたことのないスキルですが、ユニークは基本的にそんなものなので、特に注目する事ではありません。
しかし、身体強化が含まれているのは羨ましいですね。
私のユニークにはそれがなくて、素早いモンスターには遅れを取ったものです。
ファングとか、ファングとか、ファングとか。
あの犬野郎、いつか絶滅させてくれます。
トラウマを克服した私の力をとくと思い知りなさい。
まぁ、それは良いのですが…………何故に格闘術などという珍奇なスキルがあるのでしょうか?
もしかして殴ってます? 殴ってますよね?
マジですか? 正気ですか?
うーん、実に不思議な人物です。
容姿はアウト一直線ですが、中身は非常に興味をそそられます。
ゆっくりとご飯を食べ終えて、食後のミルクティーを楽しんでいると、第四層に侵入してくる人影がありました。
あや、もう来ちゃいましたか?
いえ、人違いの可能性もあります。
薬草目的のお人も来られるという話ですし。
なので、よーく確かめて……。
「ぶふっ……!? ゴホッ、えほっ!」
視界に映り込んだ、あまりにもあんまりな光景に、つい咳き込んでしまいました。
次回まで音姫視点です。