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立ち塞がる高き壁

 元気復活。


 休憩し始めたら、興奮で忘れていた肩の傷口が痛みを訴えてきたので、ローポーションを飲んで大復活です。


 もう時間はお昼なので、不味いレーションを十本齧って、エネルギー補給も完了。


 さーて、続きといきまっしょい!


 発勁という攻撃手段を再発見できた事で、ネックだった攻撃力の無さもある程度解決。

 加えて、疲労軽減効果も発動中なので、無茶をしなければかなり動ける事も判明して、更に!

 休憩中に暇だったから、なんとなく鎮伏者カードを確認してみたら、〝初等格闘術〟が〝初等格闘術(熟練)〟に進化していたのだ!


 これはもう運命が俺に攻略せよと言っているのでは!?

 いやいや、そうに違いない!


 来た! 来ましたわ! 俺の時代が!


 さぁ、待ってろよ、第五層!

 そして、ボスよ!

 今、俺がぶっ殺してやるからな!


 ……………………。


 そんなテンションで第二層を突破し、第三層も単体ゴブリンと二回エンゲージし、なんとファングとも交戦しつつも突破できてしまった。


 いやー、発勁、マジ便利ですわー。

 ゴブリンはもはや敵じゃないね。

 素でも倒せるね。


 一回目は普通に戦って、三回の発勁で倒したのだが、二回目はちょっと余裕が出てきたので遊んでみた。


 具体的には、隙を見て頭を両手で挟み込むように打撃し、発勁を叩き込んでみたのだ。

 まぁ、お遊びの類いだよな。

 なんか、こう左右から揺さぶられる感じでダメージアップにならないかなー、なんて軽い気持ちでやってみた訳ですよ。

 発勁って、単純な威力増強という訳じゃなくて、なんか衝撃を放ってるみたいだし。


 すると、どうだろうか。

 頭から血を吹き出して、一発で死んでしまったではありませんか。

 いや、正確には二発だけども。

 注目すべきは死に方の方である。


 頭のあちこちから、なんかこう、破裂とは違うんだけど、血が吹き出して死ぬって、凄くない?

 凄そうじゃない?


 威力が上がってんのか、知らんけど。


 なので、次に衝突したファングで試してみた。


 こやつは、気功状態での発勁でも死なないくらいには頑丈だ。

 素の発勁では、あんまり効かない可能性がある。


 そして、案の定、あまり効かなかった。

 吹っ飛ばし効果はあったものの、すぐに立ち上がり、ふるふると首を振れば何事もなかったように襲いかかってきたのだ。


 いやー、格闘術が進化してなかったら不味かったかもね。

 あいつ、やっぱ速いわ。

 ギリギリでなんとか躱せる、って感じでしたもん。


 でも、反応できるから、なんとかカウンターは狙えてるんですけどね。

 毛皮ガードの所為で、いまいちダメージが入りませんけど。


 やはり、口の中に直接発勁してやるしかないのか、と、もしかしたら一息で噛み千切られる可能性を覚悟した時に、ふと思い付いたのだ。


 そうだ、さっきの挟み打ちを試してみよう、と。


 なので、やってみた。


 上手いこと、飛び掛かってきた所にカウンターを合わせてやったら、これが凄まじい事に一発で血を吹いて死んでしまったのだ。


 マジで発勁パネェ。


 まぁ、正面から迎え撃っちゃったから、勢いを殺しきれず、大型犬くらいの獣の全体重が乗った体当たりを食らう羽目になりましたが。

 ええ、とても痛かったです。

 暫く悶絶しておりましたから。

 あれで死んでなかったら、こっちがヤバかったですね。

 ラッキー。


 俺はこれを必殺技として認定し、〝諸手拳槌・木霊合わせ〟と命名した。

 ちなみに、掌底や平手の場合は、〝諸手掌波・木霊合わせ〟とする。


 ふふふっ、カッコいいだろ。

 必殺技があると、こう、グッと来るものがあるよな。

 一端の鎮伏者になった感じがして。


 そんな感じで、ウキウキ気分で忌々しき壁である第四層へと入る。


 さて、問題はここからだ。

 多分、ゴブリンなら集団でも相手に出来ると思う。

 格闘術が進化したおかげで、以降のゴブリン戦はかなり余裕があったし、囲まれでもしなければ大丈夫だ。

 狭い洞窟の中では、囲まれる事はまずないので心配はいらない。


 やはり、問題はファングの犬っころである。

 あの野郎は素早いし、攻撃力もあるし、防御力も生半可な物では通用しないと、純粋に強い。

 ゴブリンとは比較にならない。


 流石に、こいつが混じった編成では、気功強化しないとヤバイだろう。


 それがどれだけ続くか、という話な訳だ。


 これまでの感触から、間引きされていないとはいえ、ファングの数はそう多くないので、充分に節約して進めると思うのだが、こればかりは運次第だろう。

 なるべくエンカウントしない事を祈るしかない。


 不意打ちをされたら目も当てられないので、周囲を警戒しつつ進む。


 やっぱりゴブリンオンリー編成が多いな。

 四回ほど遭遇戦闘したが、その内、三回はゴブリンのみだった。


 事前の脳内シミュレート通り、ファングがいなければ気功強化無しでも何とかなる。

 一度、一匹が通り過ぎてしまい、前後からの挟み撃ち状態になった時は焦ったけれども。


 ともあれ、中々、良い調子である。

 このくらいならば、ボスに挑めるかは分からないが、少なくとも念願の第五層には辿り着けそうだ。


 薬草採取はしっかりとして、未踏のルートへと入る。


 うむ、更にエンカウント率が上がった気がする。


 ちょっ、ちょっとお待ちを。

 何でこんなにいてはるん?


 ゴブリンを蹴り倒して、奥にいたもう一匹を頭突き(発勁付き)で倒しながら、頭の隅で考える。


 おそらく、この先に行く奴が少ないからだと思われる。

 この先には、もっと危険度が高くなる第五層とボス部屋しかない。

 採取ポイントはないのだ。


 だから、大抵の奴はさっきの採取ポイントで満足して引き返してしまい、その先は手付かずでモンスターが蔓延っているのだろう。


 勿論、放っておくとスタンピードになる為、時折、誰かがやってきてリミット延長ボーナスのあるボスを倒しているのだろう。

 だが、そいつはおそらく依頼された高段者であり、通常モンスターは道中で遭遇した物くらいしか狩っていないと思われる。


 最低限。

 本当に最低限しか相手にしないから、増えて増えて、ここに来る初心者ではどうにもならないくらいに増殖しているんじゃないかな。


 いや、マジで多過ぎ。

 角一つ曲がるごとに遭遇しますよ。

 下手すれば、戦っている内におかわりが来るし。


 あ、あのね?

 こっち、疲労軽減があるとはいえ、つい先日まで運動不足な小太り男なのよ?

 こんなハードトレーニングは求めてないの。

 お分かり?


 などと訴えても、モンスターは応えてくれない。


 ギィとか、ギャアとか言って、容赦なく襲い掛かってくる。

 超うぜぇ。


 ……よっしゃ、俺も覚悟を決めたぜ。

 テメェら、全員、ぶっ殺してやる!

 掛かってこいやぁ!


◆◆◆◆◆


「10―下級魔石が113個、10―中級魔石が21個、それにゴブリンの爪が3個、ゴブリンの耳が1個、薬草が5株、計25,300円となります。

 それと、こちら、薬草の鑑定詳細です。

 ご確認下さい」

「おぉー、新記録。有り難うございやす」

「あの……」


 と、普段なら会計してさっさと終わるやり取りが、珍しく受付のお姉さんから話しかけられる事で続いた。


 む? 何だ?

 言っておくが、俺は硬派だぞ?

 そう簡単に靡くと思うなよ?

 まずは連絡先の交換からでお願いします、綺麗なお姉さん。


「これ、今日一日分……ですよね?」

「そうですけど?」


 なんだ、お誘いじゃないのか。

 つまんねぇ。

 俺にもモテ期が来たのかとぬか喜びしちまったぜ。


「何か問題でもありましたか?」


 はてさて。

 採取物については、厳密にルール化されている訳ではないものの、暗黙の了解的なマナーがある。


 けれど、モンスター退治に関しては、調べた範囲内ではそんなものは無かったと思うんだけども。


「いえ、問題はないのですが……これ程の成果を何処で、と思いまして。

 もしかして、薬草ポイントの先に行きましたか?」

「ええ、はい。

 特に立ち入り禁止とかではなかったと思いますけど」


 時折、虚数領域では、通常では有り得ないほど強力なモンスターや現象が起きるらしい。

 その時には、特別に許可の降りた鎮伏者以外は、異変が解決するまで原則として立ち入り禁止となるという話は、講習で聞いた。


 もしかして、それが発令されていたりするのかしらん?


 そう思って訊ねると、お姉さんは首を横に振った。


「いいえ、現在、当虚数領域には制限は設けられておりません。

 ご心配なさらずに」

「そりゃ、良ござんした」

「ただ、あの辺りはモンスターの駆除が充分ではありませんので、低段者の方には少々危険かと思いましたので」

「ああ……」


 お姉さんの言葉に、俺は内部の様子を思い出して遠い目をしてしまった。


 本当に疲れましたわ、あれ。

 何なん、あれ。

 倒しても倒しても、後から後からどんどん出てくるんですけど。


「あれには難儀しましたね。

 第五層まで行こうと思っていたんですけど、辿り着けなくて」

「そうでしたか。

 ですが、この調子で駆除していれば、おそらく一週間もあれば通常レベルまで密度が減るかと思われます。

 それと、第五層は元から密度が高くないので、それほど躍起にならずともボス部屋まで辿り着けるかと」

「そりゃ良いこと聞きましたね。

 頑張ってみますわ」


 良い情報に感謝してそう言うと、お姉さんはにこりと綺麗な営業スマイルを浮かべる。


「はい、応援しております。

 頑張ってくださいね」


 ズキューン!! 俺のハートにクリティカルヒット!


 止めるんだ、お姉さん!

 その攻撃は思春期童貞少年に効く!


 何故だか分からないが湧き上がってきたやる気に身を任せて、俺は敬礼をしつつ全力で応えた。


「はい! 頑張りますッ!!」


 お姉さんが若干引きつった様な顔をした気がしたけど、きっと気のせいに決まってる。

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