俺は理解した
学業を適当に済ませるという、学生にあるまじき日中を突破し、今日もまたいつもの虚数領域にやって参りました。
いい加減、第五層に到着したいぞー!
だけど、お金も大事なので薬草採取には行きましょー!
相変わらず、盛況なモンスター軍団を蹴散らしつつ突き進んでいく。
「ぬえい!」
飛び掛かってきたファングに合わせて、口の中に指を立てた抜き手を突っ込んでやる。
いつも通りに肉を引き千切る、微妙に生々しい感触。
だが、今回はいつもとは違うことが起きた。
なんと、ファングが一瞬膨らんだかと思うと、パァン! って感じで弾け飛んだのだ。
「!?」
思わず飛びすさってしまった俺は、何もおかしくないだろう。
え? 何が起きたの?
警戒して、周囲を見回す。
もしかしたら、獲物を横取りしようというマナー知らずがいるのかもしれないし、あるいはイレギュラーモンスターが発生しているのかもしれない。
そいつらが、ファングを吹っ飛ばしたのかもしれない。
そう思えば、警戒は必要だ。
気功法を維持したまま、周辺を警戒するが、しかし何の気配もない。
一分くらい見回っていたが、何も起きないので、根負けして気功法を解除し、肩の力を抜く。
「……ここで襲われたら死ねるなぁ」
冗談にもならない事を呟く。
うむ、俺も余裕が出てきているな。
良いような、悪いような。
いつか、映画の登場人物のように、極限状態でもウィットに富んだ素敵なジョークを飛ばせるようになりたいです。
ともあれ、先程の一幕だ。
異常な威力の発現には、覚えがある。
三日前に起きた、ファング瀕死事件の事だ。
一応、確認してみるが、やっぱり気功法が成長しているという事もないので、やはりあれは発勁の可能性がとても高い。
でも、自力で発動させられた事がないのよな。
もしかして、確率で自動発動だったりするのだろうか?
だとしたら、使い勝手が悪過ぎってもんじゃないぞ。
あれから、第四層に入るようになって戦闘数を随分と重ねているけど、一回だけしか発動しないなんて。
発動率、悪過ぎじゃん。
『ギギィ!』
『ギャッギャッ!』
『グギィ! ギッギッ!』
そうして悩んでいると、ゴブリン集団がやってきた。
思考の邪魔をしないで欲しい。
なので、早々に消え去るが良い。
今となっては、ゴブリン如き敵ではない。
気功状態なら、棒立ちでも死にはしないし、適当に殴り付けるだけで殺せる。
なので、思考のほとんどをさっきの出来事に向けたまま、ゴブリンを殴りに行く。
いつも通りにゴブリンの駄々っ子パンチを躱して、カウンターパンチを顔面に叩き込む。
瞬間、奴の頭が弾け飛んだ。
ちょっと絶命するレベルで顔面凹ませてやる程度の力加減だったのに、である。
「あぁん?」
また発勁が発動した? 連続で?
確率発動ならそういう事もあるかもしれないけど、ここまでの発動率からして、有り得なくない?
そんな考えが浮かんできた所為で、つい立ち止まっていた。
『グギィッ!』
『ギャギャア!』
それを隙と見たのか、両サイドから同時に襲ってくるゴブリン二匹。
「おっと、いかんいかん」
我に返った俺は、両腕で適当にひっぱたいてやる。
すると、やはり今度も弾け飛ぶという凄惨な結果が引き起こされた。
「あっ、なんか分かったかも……」
四回連続の発勁発動で、こいつの使い方が理解できた。
これ、インパクトの瞬間に意識すると発動するんだ。
今まではシャドーとかで、空気ばっかり殴ってたからな。
それじゃあ、発動しないんだな。
今回は、偶然、発動した事で意識が発勁に向いたままだった。
だから、攻撃時に、ナチュラルに発勁の効果が追加されたんだろう。
そう思うと、今まで使い方が分からなくて右往左往していたのが恥ずかしく思えてくる。
うっわ、俺ってバッカじゃん。
そんな気持ちである。
ま、まぁ、良いさ。
結果オーライ。
誰も俺の恥ずかしい話は知らないんだ。
気にしない気にしなーい。
「……使い方が分かったとなれば、どれくらい威力があるのか、知りたい所だが」
ゴブリンやファングじゃ、標的として微妙過ぎる。
だって、普通の気功状態でも余裕で倒せるし。
「やっぱ、ボスを狙ってみるかー」
奴ならば、この知識欲を満たしてくれる筈だ。
きっとそうに違いない。
その為には!
スタミナ問題を解決しないとなー!
毎度毎度、気功法頼みだとボス戦までスタミナが持たないんだよなー!
多分!
誰かー!
スタミナ定食、持ってきてー!




