薬草報酬
さぁーて、今日もほどほどに頑張るぞい!
今日は取り敢えず第五層を目指してみようかなー! なー!
そして、いい加減、謎過ぎる発勁も、発動方法及び効果も解明したいなー! なー!
いつものボクサースタイルで虚数領域に突入し、そろそろ飽きてきた最短ルートを小走りに走る。
思ったんだけど、俺、まだ一週間も通ってないんだよね、ここ。
ってか、鎮伏者になってから。
単純な実力的には、そろそろここのボスくらいは倒せそうな気もするんだけど、これって早いのかしらん?
まぁ、まだスタミナの問題があるから、クリアは出来そうにないけどな!
遠足は帰るまでが遠足です!
第一、第二層は、なんと一度もエンカウントせず、第三層は一回だけ、単体ゴブリンを殴り殺しただけで、スピーディーにクリアした。
うむ、中々、良いタイムだな。
放課後の限られた時間を有効に使えるとは、実に結構。
稼ぎは悪いけどな!
ってな感じで第四層に到着でーす。
昨日の手応えからして、そこまで恐れる必要はない。
強さ的には。
しかし、それは気功法込みでの話である。
素の身体能力では、確実に相手にならないので、使用回数には充分に気を付けておかなければならない。
この階層から、エンカウント率も多くなるしな。
まぁ、個人的には、気功法無しで、どれくらいにやりあえるのか、という事を確かめてみたくはある。
初等格闘術などというパッシブスキル――調べてみたら常時発動だった――が生えているし、モンスターの相手も気分的には慣れてきた。
初めての戦闘では、なんだかんだと緊張していたんだ、なーんて言い訳が心の中を通り過ぎる。
落ち着いてやれば、やりあえる筈だ、とも。
だが、同時に初回でコテンパンにされた記憶が甦る。
とっくに治っているのに、両腕がとても痛くなった。
幻の痛みだと頭では分かるが、あれほどの痛みをまた受けるかもしれない。
悪ければ、もっと酷い事に、死ぬかもしれない。
そうした恐怖が沸き出す。
「ああ、怖い怖い。
調子に乗らんようにせんとな」
ぶるり、と身体を震わせて、浮わつきそうとしていた気持ちを引き締める。
そんな無謀は、もうちょい後でな。
具体的には、運動不足が解決して贅肉だるだるな身体が引き締まったらな。
気を取り直して、第四層に挑戦していきましょう。
……………………。
やっぱりエンカウント率が高いっすわー。
薬草採取場までの間に、もう五回も接敵していますよ。
しかも、全部が複数編成だし。
しかもしかも、一回はダブルファングがいたし。
もうちょい、皆さん、間引きしに来ません?
じゃないと、俺が楽できないじゃないっすか。
でも、こんな調子なら、もしかしたら薬草が残ってるかもなー。
昨日は、イレギュラーな発勁(謎)発動によって、時間を浪費してしまった結果、採取ポイントまで辿り着かなかったんだよな。
残っていたら、良い収入になります。
なんと、一株最大で2,000円。
モンスターなんかとは比べ物になりませんね。
狙わずにはいられない。
ってな感じで到着です。
その後ももう一回、モンスターとぶつかったけど、気功法の前では瞬殺するしかない。
無しだと、逆にこっちが瞬殺されかねないという、この絶望的な落差をなんとかしたいです。
ともあれ、公式の地図に記載されているポイントに到着すると、なんと草が生えているではありませんか!
今まで、ずっと不毛な洞窟で緑の一本もみられなかったのに!
ここがオアシスですかい!?
ちなみに、この全てが薬草という訳ではない。
ほとんどはただの雑草だ。
持って帰っても一円にもならない。
なので、ちゃんと見分けなければならないのだ。
お金の為に。
「えーっと、一番簡単な選別法は、葉脈を見ること?
薬草だとうっすらと光って見える?
ただ、この方法だと薬草の良し悪しは判別できない?
質まで見分けるには……」
公開されている情報を片手に、雑草を見ていく。
すると、確かになんとなく光って見える物が混じっていた。
単体だと気のせいにも思えるけど、光ってない雑草と並べて比べれば、一目瞭然だ。
明らかに違う。
他に人もいないので、ちょっと時間をかけて質まで比べてみる。
良質である程、買取額は高いからな。
貧乏は辛いよ。
そうして、素人鑑定眼によって、おそらく高品質と思しき薬草を五株引っこ抜いて、バックパックの中に放り込む。
ちゃんと根は地面の土に包んでますよ。
情報によると、ちょっとした事で簡単に値引きされるらしいから、少しの手間は惜しむべきではないとあったからな。
……ちょっと時間を食っちまったな。
これから第五層を目指すには、時間的余裕が無し。
なので、ちょいとモンスター狩りをしてから、虚数領域から脱出する事にした。
進歩してるんだかしてないんだか、よく分からん調子だなー。
まぁ、焦る事はねぇべ。
コミュ障拗らせて、本来パーティアタックが推奨される虚数領域に、ソロで挑んでるんだから。
まだまだこれからよ、多分。
◆◆◆◆◆
「10―下級魔石が22個、10―中級魔石が3個、それと薬草5株で、計11,700円のお支払となります。ご確認ください」
「オッス。ありがたく頂戴いたしやす」
「それと、こちら、薬草の鑑定詳細となります」
「ウッス」
中々の金額ですね。
この調子でバンバンと稼いでいきたいです。
じゃないと、食費で破産しちゃいますから。
取り敢えず、薬草の鑑定詳細を覗いてみましょうか。
ほむほむ。
成る程。
薬草そのものは高品質だったけど、潰れていたりの痛みがあって、その分が値引きされていますな。
ちょっと痛い。
適当にバックパックに詰め込んだら、やっぱりあかんかったか。
道理で薬草等専用の輸送ケースなんてものが売られている訳だよ。
でもなー、あれ、地味に高いんだよなー。
大きさも結構あるし。
採取専門の鎮伏者として活動するなら必須アイテムだけど、採取はついでにやる程度だと、持ち運びが邪魔くさいし、元が取れるまでかなりかかるらしいし、と、あんまりメリットがないんだよ。
…………うん、保留。
今のところは採取専門家になる気はないから、ちょっとくらいの値引きは甘んじましょう。
身軽なのが、俺の強みな感じもするしな!




