改稿
実験台を整理して、ちらほらと生じるデスクワークも片付けて。そろそろ帰宅の準備をしようかというころPCのメーラーがメッセージの受信を知らせた。すぐに中身を確認する。
差出人は、遠藤、となっている。
『秋葉さん
お疲れ様です。ワークスタイル委員会の件でご連絡しました。
フリーアドレス推進のスタンプラリー企画に関しては川島さんと協力し順調に進んでおります。景品の予算も、各GMの許可を得ることを条件に、部門長から頂けることになりました。
先日お願いしました通り、基礎系グループのGMの方へのご連絡をお願いいたします。
以下、送付用の文章となります。
一部、秋葉さんの言葉に変更して、ご使用ください。
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グループマネージャー各位
Dear Group Managers,
Followed by English translation.
お忙しいところ失礼致します。化粧品開発部の遠藤と申します。
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、この度、本研究所での働き方改革を推進していくため、ワークスタイル委員会(以下WSC)を設置する運びとなりました。WSCでは今後、所員の働き方を改善していくための具体的な取り組みやイベント等を企画していく所存です。以後、お見知りおきください。
さて、早速ですが、WSCとしての最初の活動として、6月の最終週にフリーアドレス推進週刊を設けたいと考えております。イベントの詳細に関しては、下記のURLからご確認いただけますと幸いです。
ご連絡させていただいたGMの皆様には本企画の開催の許可を頂きたいと思っております。イベントは勤務時間中に行われるものですが、決して通常の業務の妨げとなるような内容ではございません。
大変お手数ではありますが、ご賛同いただけるという方はその胸を本メールに返信する形でお知らせいただけますと幸いです。なお、ご返信を頂けない場合は、直接ご確認に伺わせていただきますので、その折に直接ご相談させていただけますと幸いです。
不明点等ございましたら、お知らせください。
化粧品開発部 遠藤』
後ろには、これらの英訳と、URLが続いていた。僕は、想像していたよりは穏やかな内容にほっと胸を撫で下ろす。
しかし懸念点もある。そもそも予算を引き出す条件がGMの許可であるなら仕方がないけれど、このメールの文面では、全てのGMの許可を得ることが前提となってしまっている。
これそそのまま送付しては、たとえば町田さんからは相当に疎ましがられるだろう。あの人本人はさておき、こんなイベントの開催に許可を出したとなれば、香月さんあたりから、の批判は避けられない。また百井のグループのGMに対しても良くないだろう。そもそも本人がフリーアドレス制をあまり促進したくないのだから、許可を渋るのは目に見えている。表面上何も起きていない川島さんとの関係も、これを機に悪化するかもしれない。
では僕が行うべきことは、一体何か。
少しだけ考えて、僕はメールの文面をコピーし、遠藤さんの署名を自分のそれに書き換える。文章を自分に合った形に整え直す。
要は、今回のイベントを完全に参加自由形にしてしまうしかないのだ。全員参加の体を整えようとしている遠藤さんには申し訳ないが、参加したいグループのGMからは許可をもらう、参加したくないグループのGMには何も求めない。その代わりに、イベントを止める権利も与えない。
完成した文面を読み直して、僕はメールの後半部を、都合のいいように改定する作業を開始した。
いつのまにか、総合評価が100を超えていました。大変うれしく思います。




