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人間が生み出したカイブツ  作者: しーちゃん
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逃げた先

第2話 逃げた先


 ハァ·····ハァ·····あれから、どれだけ走ったのだろうか·····周りを見ても、俺の残った片腕を見てドラマの撮影だと勘違いされ保護されない。




「逃げねえと·····早く」


 近くに見えた交番に向けて全速力で走ると、警察官が丁度出てきた所で声に出ない掠れた息を全開にして叫んだ。




「すみ、ませ」


 俺の声に気付いた警官は目を見開いて、俺の近くまで駆け寄り、身体を支えてくれた。




「君、何があったんだ·····それにその怪我。 抗争にでも巻き込まれたのか」


 俺は警察官の腕を握り締めて、残る喉の力を振り絞って答えた。




「逃げろ·····奴が来る·····早く」


 警察官は俺の掠れながらも発した声で、状況が分かり、中に入っていた警官達も拳銃を手にしながら辺りを見渡した。




「あふふ」


 そして、交番の周りで響く幼くて、女の子のような無邪気な笑い声が俺達の耳を惑わしていく。




「き、きた」


「この声の主だな!? 君はもう安心して眠りなさい·····後は私達が何とかするから。 前田、細川、気を付けろ·····相手は男だ」




 え、何を言ってるんだ·····俺には女が笑っているようにしか聞こえないんだが。


 俺が思っているように、警察官達は目を疑い、俺を支えている警官に向けて答えた。




「先輩、何を言ってるんですか·····どう聞いても幼い男の子の声でしょ」


「いや、前田さんも橘たちばなさんも可笑しいですよ!? 普通に大人の女性の声じゃないですか」




 全員、その場に居てるのに有り得ない状況に陥り、少々パニックに成りながらも、警戒を怠らず1歩1歩と声のした方向へと歩み寄る。




「やめろ·····やめてくれ」


 橘と細川は俺の声に気付き、拳銃を構えて俺の方を向くが、彼等は目前に広がる光景に怯えるように少し下がってしまった。




「な、なんだよ·····これ。 なんで、誰も居ないのに浮いてんだ!? というか、この黒い物は何なんだ」


 橘達が目にしたのは、黒い棘のような物が地面から浮き出て、それが片腕のない男の首を締め付けながら空高くに持ち上げていた。




「あ、ああああ」


 前田が急に、ガタガタと震えだし拳銃を頭に添えて、涙を流しながらこっちを見てきた。


「せ、先輩·····助けて」




「前田ァ!! やめろ!! 撃つな」


 涙を流し、震えながら引き金に指を引っかけ首を横に振るが彼の手はまるで意志を持ったかのように──銃弾を頭に撃ち込んだ。




「うあああああ!!! な、なんで·····何故、腕が勝手に」


 彼の死を見た直後、今度は橘の腕が勝手に動き、力強く動く左腕を押え付けるが、拳銃を手放し腰に掛けていた警棒を取り出した。




「ねぇ、お兄さん」


 後ろで幼い女の子の声が聞こえた瞬間、橘と細川は警棒を持ったまま、影を操るその幼女を見つめた。




「やっと気付いてくれたね──ボク、嬉しいよ·····アハハッ。 ねぇ、知ってるよね·····人間ってさ無意味に怒ると、当てる場所が無くなって、物や他の人に当たっちゃうんだよ。 それってつまりさ、気分が爽快するまで殴り合っても良いって事だよね」


 何を言ってるんだ·····コイツは。




「そんな馬鹿な事する訳ないだろ!! というか、その男性を早く離しなさい! 今なら保護で罪を軽くしてやるから」


 俺は情けをかけて、幼女に向けて説得するが、影のような真っ黒なソレは掴んでる彼の一部から伸び、俺の頬を殴り地面に倒れると、彼女は顔面を踏みつけてきた。




「何が罪を軽くするよ──勝手な事言うなよ。 人間風情が·····君達は、正義の味方なのにさぁ、自分が生きたいからって、守れる存在を守りたいからって選択肢を与えるって何様だよ。 笑えるね? 本当に·····ボクはこんなに、優しくしてあげてたのにさぁ。 舐めてんの」


 冷たく鋭い彼女の幼い声は、まるで全てを呑み込む様な暗闇の底までも聞こえてしまう声に、俺は寒気がし──彼女に向けて警棒を振って殴ってしまった。




「いったいなぁ」


 殴ったのは確かに足だ·····足なのに、何故折れてないんだ。




「あぁ、もう飽きちゃったよ·····この男はボクの目の前から逃げたし──本体は無いよって教えてあげてるのに、逃げるからさぁ·····面白いの見れるかなって思ったのに」


 店や街灯の光の死角になった影から黒い霧が舞い上がり、やがてソレは固形の布のようになって行き、吊るされた彼の顔を巻いていく。




「何をする気なんだ·····おい」


 細川と橘は逃げようとするが、影が俺達の身体を縛り付け、目を無理矢理開かせ足をバタバタと暴れさせる片腕の無い彼を直視させられる。




「見てたら分かるよ·····うふふっ」


 黒い布が赤く染っていき、中から悲鳴が聞こえるが、何が起きているのか分からず気になってしまった俺は、目を凝らしてしまった。




「ではでは、御開帳」


 彼女の楽しそうな声と共に、黒い布が霧に変わり、中に閉じ込められてた彼の顔が露出すると──あまりの残酷さに声にならない悲鳴が出てしまった。




「う、うそだろ·····おい、まさか」


 目と舌を引き抜かれ、口の中から腸が漏れ出し、血まみれになった彼の体はようやく解放され地面に落ち、影の中に吸い込まれていった。




「ひっ!! いやだ、死にたくねえ!! 俺はまだ死にたくねえ」


 逃げようとするが、固定されてる身体は逃げられるはずもなく、警棒を見た瞬間、先程の霧が俺と細川の身体に舞い上がり口内に強引に入ってしまい、彼女を見上げた。




「まさか·····嘘だよな」


「君達には、僕の玩具になってもらうよ。 食料は補充出来てるしね·····大丈夫、君達には何一切迷惑はかけないよ。 ただ、本能を剥き出しにして·····暴れてもらうだけさ! それに君達はもう『見えてる』んでしょ、ボクの事がさ」




 ニッタリと笑う彼女の顔は悪魔の様な微笑みで、クスクスと笑い出した声と共に奥底に眠るイライラした時の自分の声が聞こえてきた。




 殺せ──殴れ──イライラを解放したらいいんだよ、憎いだろ·····どれだけ努力をしても頑張っても認められない、受け入れてくれない·····煙たがられ、邪魔だ邪魔だと言われゴミのように言われる毎日にウンザリしているよな。


 いいんだよ、やれよ·····ほら·····正義のヒーローは悪を倒さなきゃダメだろ。




「あぁ、そうだ·····殺らなきゃ·····俺が正さなきゃ。 悪いやつを捕まえるって、逮捕するって決めたんだ──ウヒヒッ·····アヒッ、なーんだ、この街には 何千人っていう悪い奴らが沢山居るじゃねえか·····アハハハハハ!! 御前達·····全員、逮捕してやる」


 橘は周りの商店街に突っ込んでいき、拳銃と警棒を振り回して、通行人や店員等を無差別に発泡したり暴力を振るい、逮捕逮捕と嘆きながら笑って殴り殺していく。




 そして、細川はユラユラと立ち上がって、方を震わせながら「止めないと」と笑いながら警棒を取り出して橘に突っ込んでいき殺し合いが始まった。




「じゃあねー、後は勝手にどうぞ」


 ボクはその光景を飽きた玩具を捨てる様に立ち去り、殴られて零れる血液をある程度影で回収してから、鼻歌を歌いながら影の中へと戻って行った。




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