影の訪問
第1話 影の訪問
憎い·····醜い·····人間という存在は何でこうも、醜いんだ·····ちょっとした事で怒り狂う、それが悪意に満ち、世界を飲み込んでいき巣食う·····俺は、そんな人間達から生まれたんだ·····だからこそ、言わせてはくれないか。
「恐怖と憎悪と血は俺の生命線だから、もっと狂え」
暗闇の中、実態の無いボクは動く人間の影に埋もれ、今日もご馳走を頂く。
10月12日·····晴れ。
某廃校、深夜1時。
俺達は最近流行っている七不思議を解くために高校生ながらも学校内を探索していた。
「な、なあ·····なんか不気味じゃないか」
短髪で少し身長が低く、黒髪の男、山田拓海やまだたくみと俺、平島純平ひらじま じゅんぺいと金髪で鉄バットを持ってスカートを履き、肩まで伸びてる髪を揺らしている女、前川咲まえがわさきの3人で巡回してるのだが、何処からかコツンと鋭く硬い物が当たる音が聞こえ、俺達は立ち止まった。
「今の、拓海か」
「いいや俺じゃない」
俺と拓海は二人で咲を見つめるが、彼女もバットを握りしめ、周りを睨んでいたのを見るとやはり俺達では無い様だ。
「誰かがポリを呼んだ·····とか」
俺は、1歩足を前に踏み出した瞬間に、後ろからケラケラと薄ら笑いが聞こえ、感じた事も無い震えと大量の汗が溢れ出し、直感した。
「お前ら、早く逃げろ」
俺も逃げたい、逃げたいのだが、足の震えが止まらず動かない·····どうすれば、どうすればいい。
ヒタ·····ヒタ、廊下を濡れた足で歩くような音が響き、ゆっくりと近付いてきてるのが分かる。
「逃げれない·····殺される!! 動けよ、動けよ!! なんで動かないんだよ·····咲、御前だけでも早く逃げろ」
外が見える程に、明るいのに、俺の周りはまるで真横さえも見えない程の暗闇と絶望に侵され、目を横にやり咲を見るが彼女は尿を漏らしながら、こっちを見て涙を流しながら顔を横に振った。
「無理、身体が·····動かない·····どうし」
ペタッ、ペタッ·····アハハッ。
等々笑い出した、その音は、複数の声が入り交じったボイスチェンジャーのような声だが、何処かで聞いた声にも聞こえる·····だが、それよりも、この声を聞いてから更に震えが止まらなくなり歯がガタガタと震え出し始めた。
(動けば死ぬ、動けば死ぬ!! ダメだ·····動かないと死ぬの、分かってるのに、動いても死ぬって感じる·····怖い。 無理無理無理無理)
鼓動が早くなり、止まらない息の荒さが、より強く恐怖を募らせるが、俺の後ろから細長い釣針のような爪が腹部に当たり、トントンと身体を叩いてくる。
「オマエ·····ウマソウ·····ダケド、チガ、タリナイ」
か細い声で、爪がゆっくりと顔にまで、上がってくるが·····首にソレが差し掛かった時に拓海が悲鳴をあげてしまった。
「イマウゴイタ!! オマエ、ウゴイタナ」
俺から、拓海に爪が高速で動き、彼の首を強く締め付けると血が零れ出し、ソレに流れていくと、爪が黒い霧になって行き、彼の傷口と血液の中に流れていき、拓海の手が頬に添えられていく。
「ごめ、ごめんなさ」
拓海は自分の爪を立て、頬の中に食い込ませると、そのまま肉を抉り始め血が飛び散り、爪に溜まった肉が床へと落ちていく。
「やめろ!! やめろって言ってんだろ、何で動かないんだよ! クソがあ!! やめろって!! 拓、死ぬぞ、やめろ」
拓海は自分の頬を抉ると、次は顔を掻きむしり、涙を流しながら笑い出した。
「アハハハハッ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい·····意味もなく動物に当たって、暴言を吐いて、ごめんなさ·····アヒィ·····アフフッ·····ふへぇ」
涙を零しながら拓海は血をドバドバと顔から湧き出るが、やつの爪は黒い霧から、先程の白い爪へと戻って、声が聞こえた。
「やめて、来ないで」
咲だ·····咲の怯えた声·····まさかと思った時にはもう遅かった。
「オマエラ·····ザンゲ·····オソイ·····アハッ」
二人の喉に奴の爪が食い込み、逃げようとするが身体を持ち上げられ、引きずられて行く。
「イヤアアアア!! タスケッ·····あああああ!! 」
咲の強烈な叫び声と共に、ボリボリ、グチャグチャと、酷く汚い音が暗闇の奥で何をしてるのか分かる程に痛感させられ、次は自分だと悟った俺は動かない体を無理矢理動かし、なんとか振り返ったが·····その行為を後悔する光景が広がっていた。
「アァ·····ウマカッタ」
俺の目前で、顔が半分になり、露出した骨と肉が、先程まで生きてた咲かと思える程に醜く変貌し、その食っている手元は人間の肌をし、そこから腕を伝って顔を見たが、俺は叫びより何より·····コイツの顔を見て出た言葉がコレだった。
「お、女の子·····!? あ、あぁ·····やばい」
黒いゴスロリの服を血で塗りたくった、10歳辺りの女の子が、ギザギザに尖った歯をニタァと見せつけて、答えてきた。
「ボク·····ホンタイ·····ナイヨ·····コロセナイヨ·····ダカラ、イタダキマァス」
口が頭ごと横にガバッと開くと、幼女の面影も無く、何重にも重なった歯が高速で横に振動しており、鋸のように身体を削られていくと考えた俺は叫ぶより後ろを振り向いて、走り出したが、何故か彼女は壁の横から現れた。
「イッタジャン·····ボク·····ホンタイナイヨッテ·····アハハッ、ホラ、ニゲテヨ」
彼女が言い終わると、鋭い痛みが左腕に走り、それを見た俺は再び絶望のドン底に突き落とされてしまった。
「う、うで·····腕が·····殺される·····殺される·····殺される。 あ、ああああああああぁぁぁ」
彼女から、逃げる為に俺は情けない叫び声を零しながら必死に逃げるが、俺は気付いて無かった·····あの化物は、追い掛けてきてないのを知らずに·····アホみたいに外へ逃げ出し、街の方へと駆け抜けた。
「だから言ったのに·····本体はボクには無いよって·····その本体は君達自身なのにね·····ねぇ? 食料共」
ボクは、先程食べた二人の痛いを踏み潰し、何度も何度も踏んづけると、顔が潰れてしまい、美味しい所が無くなってしまった。
「残念·····でも、あの人間共はカタコトと冷たい音に敏感なんだな。 面白いよ本当。 だけど目玉は最後に取っておこうと思ってたのに。 仕方ない·····はぁ。 じゃあ、始めようか·····粛清を」
ボクは遺体を黒い霧で包み込み、暗闇の中へと吸い込むと、建物の影に流れ込み、奴の逃げた方向·····人間の暮らす、絶好の食事場·····街へと向かった。