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43話 少しだけでも、彼を楽にしてあげようよ

 征竜隊は謁見を終えて、王宮を後にした。沈み込んでいるのは、エリーとヨーコだった。いや、ケイも何も変わらない。でも、悔しかった。遼四郎(りょうしろう)が必死にみんなのために考えたことが、みんなを悲しくさせる。この人は何も悪くない。むしろ、いい人。とても、ずっと、やさしい人だった。腹が立ってきた。

「耕平君、今日をいい日にしようよ」

 いつもは周囲を見ている耕平も、今日はあまり見えていない。ケイの言葉に変な反応をする。伸びた前髪の奥の目が、驚いている。

「私とあなたが、少し好きな人が、私たちのために苦しんでいる。許せない。エリーもヨーコも許せない。なんで愛している人を追い詰めてるのよ。私も自分が大嫌い。だから、キャプテンを助けてあげたい」

 耕平はいつも自分が遼四郎の面倒を見ている気がしていた。でも、ケイの言葉を聞いて気がつく。実は、大きなところでは、自分の方が面倒見てもらっているのだ。

「ケイと離れ離れになると思って、ちょっと、おかしくなってた」

 正直に言う耕平。ケイはその言葉がとてもうれしい。

「私も同じよ。耕平君がいない世界は私がおかしくなる場所よ。だいたい、みんな同じなのよ。でも、なんで、キャプテンだけが耐えなきゃいけないのよ! みんなキャプテン依存症よ!間違ってるわ」

「で、何しようか?」

「決まってるでしょ。まずはいい年して、キャプテン依存症のハーマンよ」

 耕平は、ケイについていく。彼女と一緒に何かをするのは、なんというか、うれしいのだ。


 ケイは鋭かった。ぼんやり歩くハーマンを引っぱると、誰にも見えない影に連れ込んだ。

「ハーマン、今夜はつき合いなさい」

「逃げたら、殺す。俺ならばできるのは、知ってるよな」

 竜掃使りゅうそうし最強の男が、ケイと耕平に脅されている。でも、ハーマンは笑わない。途方に暮れる男が仲間を見つけたように、話してくる。

「俺に何ができる? どうしたら、遼四郎を楽にできる?」

 ハーマンもわかっていた。でも、不器用だった。自分よりは、器用そうなヤツに脅されて、進んで降参した。

「アンタは、今日は酒飲んでもいい。暴れたら、富夫に殺させる。酔った勢いでもいい。正直にキャプテンを労わってあげて」

 うなずくハーマン。虚無感は大きい。でも、遼四郎を助けたい。大事な役割を与えてもらった。果たそうと思う。


 刺客ふたりはハンナとリサにも迫った。でも、ふたりとも抜け殻のように、下を向いたまま歩いている。

「アンタたち、大丈夫?」

 鋭く聞くケイにハンナが答えた。

「大丈夫なわけ、ないよね~。なんか、嫌になっちゃった。征竜隊、やめよっかな」

「うん、もうやめようか。悲しくなる未来なんか、いらないよ」

 ケイは頭にくる。でも、耕平が制した。

「ごめん。ふたりにお願いしていいのかもわからない。でも、俺の大事な友達が、血の出るような決断をした。何もかも、なかったことにするような、でも、正しい決断なんだ。このままじゃ、アイツ、鬼になってしまう。悲しいこと隠して、計算だけの人間みたいになってしまう。やめるなんて言わないで、助けてくれ、遼四郎を」

 ケイに代わって、飛び出してきたのは耕平だった。キャプテンの親友で、強力な戦士で、いつも遠くで笑ってるだけの人だった。その人が、目の前でキャプテンを助けてくれと、話している。

「耕平って、私と同じでキャプテン好きなんだね~。まあ、みんなそうなるよね」

「私も一緒。キャプテンが大好き。ケイにも負けないくらい」

 ビックリしたのは、ケイだった。ふたりの遼四郎への感情は違うと思っていた。でも、そうではなかった。だから、ハンナが口を開いた。

「キャプテンはね、ずーっと、みんなのこと考えてるの。だから、急に自分を思い出した瞬間にいっぱいいっぱいで死んじゃうの。ヨーコがバカバカ言うけど、マジでバカ。大好きなバカ」

「彼はね、私の同い年のお兄さんなのよ。ずっと私は頼ってる。いつも笑って聞いてくれて、嫌なことは自分のせいにして、最後は竜の前に飛んじゃう。私はみんなにいい影響を受け続けている。この時間の中をずっと生きていたい。その中心にいるのがキャプテン。ケイはズルいよね。自分だけ先に、大好きだ、とか言って……」

 リサも遼四郎への思いを口にする。よく考えれば、彼あっての征竜隊なのだ。

「わかった。アンタたちもキャプテンが好きなのはわかった。だけど、運命に負けた哀れな仲間ふたりは、私たちの手で変えようよ。あの辛気臭い顔見たら、キャプテンが追い詰められちゃう」

 ハンナとリサは理解した。何をやるのかわからないが、ケイの声に耕平もうなずく。


 衛門府えもんふの前まで戻ったとき、遼四郎が何か言う前に耕平が口を開いた。

「城南のうどん屋の大将が、ぜひ来てくれと言ってくれている。ダレルさんら町の人も、心待ちにしてくれている。風呂入って、着替えたら行くぞ」

 野球部たちは、少しだけ気が晴れる。じゃあ、行こうと言った。

 それでも、下を向いて歩くエリーとヨーコに、刺客4人が走った。廊下に追い詰めた。ケイが最初に言う。

「運命の超時空少女らしく、次の運命には負けるのね。ひとりで辛い運命を背負うキャプテンに、また、責任擦り付けて逃げるの?」

 恋敵でもあるから辛辣だった。でも、なぜかハンナもリサもいる。

「エリーが最初に出会ったのが、キャプテンだから、私は遠慮したの。でも、その必要ないみたい。私がキャプテンを助けるからね」

「私とキャプテンには、何も運命的なものはない。でもね、私は彼が好き。出会ったいい男に惚れて、何が悪い? アンタらと何も変わらない」

 ハンナとリサはめずらしく攻撃してきた。ただ、エリーもヨーコも、心が閉じ切っていた。また失う恐怖に、どこかが壊れていた。頭に来たケイが、ふたりの間に掌底を打ち込み、壁をえぐった。

「エリーはキャプテンを1度、失った。ヨーコも同じ。アンタらは1回ずつしかない。でもキャプテンはどうなの? あなたたちを1度ずつ失ったのよ。それだけで2回よ。なのに、今度は全部失うのよ。それでも、今日はあんなこと決めたの。キャプテン、壊れちゃう。アンタらの愛情なんか自分本位じゃん。私は腹が立つ。許さないよ」

 エリーがビックリする。ようやく、自分の悲しみが自身だけのものだと気づくエリー。それでも、肯定できないヨーコにケイは徹底して厳しい。

「ヨーコさ、アンタってやっぱり、お姫様。アンタの名前は、ヨーコ・デヨ・ヨート! 女王の孫よ。声をかければ、キャプテンは自分のものと思い込んでる。でもね、私はそんなことは正しいと思っていない。キャプテンが、一生懸命にキャプテンやって帰ってきたとき、ありがとうとか、お疲れ様とか、大好きだよとか、なんでもいいから言いたいの! あの人、必死なんだよ。私らが助けなくて、どうすんだよ!」

 ケイは驚くほど強くなっていた。いつも、マジメで引っ込み思案なくらいだった。でも、目の前の彼女は、まったく違う人物だった。好きな人に、まっすぐ、向き合っていた。ヨーコは負けてはいけない気がしてくる。

「ケイ、私はね。お姫様なんか、ずっと前に辞めてるの! 最初からアンタと一緒の立場よ。遼四郎が困ってることくらい、わかってるわよ! これからも、永遠に助けてあげるの。私を助けてくれた大事な人なの!」

 強い反論にニヤリとするケイ。ヨーコは立ち直りきってないけど、殻からは出た。エリーは、会話の流れで、どこか出損ねた。これでは負けと思った。でも、負けるとかの話ではなく、遼四郎の立場を考え、自分なりの結論を見つけようと思った。

 ゆっくり、時間をかけて考えたとき、小さな答えに行きつく。自分はそれで行こうという手を思いついた。

「大丈夫、これ以上、遼四郎を苦しめない」

 少し前向きになったエリーに、ケイたちが納得する。征竜隊女子全員が、目を合わせて、うなずいた。


 夜、征竜隊は城南のうどん屋に集まった。慣れた空間に全員が楽になる。

「副長、アンタは飲んでいいらしいよな」

 大将はハーマンに酒を持ってくる。泥酔させてはよくないから、少し高いが品のいい、やさしい酒を注ぐ。

「酔いすぎて、変になったら、富夫がアンタを殺すらしい。誰もできないけど、彼だけはできるんだよな」

 ハーマンは黙ってうなずく。

「いい友達じゃないか。俺も戦士だったら、アンタのポジションがいい。恵まれすぎて、うらやましいよ」

 そう言って去っていく。ハーマンは大将の方がパワフルな印象さえ受けていた。人間的な器なのか、膂力りょりょくの問題なのかわからない。それでも、自分は彼に遠く及ばない。上には上がいる気分になる。

「キャプテンッ! 今日は歌いましょうね。耕平君も一也君も正則君も、ギーク持ってます。流しの人も呼んだから、好きな歌をやってください」

 ケイがまっすぐ遼四郎を攻めた。でも、マジメでまとめ役のケイらしく、どこまでも清く正しいアプローチ。

「とりあえず、食っていいー?」

 そう言いながら、今日は目の前にある煮込みを、勝手に取り皿に山盛りにしていく富夫。巨躯のなごみ系男子は、好き勝手だ。また、みんなが煮込みに殺到する。

 隙を突いて、遼四郎の隣にエリーが座った。

「今日は、少しだけ、江理ちゃんとお話しない?」

 遼四郎は、少し、飲み物を吹きそうになる。でも、エリーをまっすぐ見てみる。おもしろくなって、笑う。

「江理ちゃんと、ずっと、話がしたかったんだ。でも、みんなとの話が先だった。だから、今からは、お話していい?」

 遼四郎は小学生のときのまんまで話してくれた。エリーの心がはじける。目が輝く。そこに飛び込んできたヨーコ。

「邪魔したいんじゃないの。でも、ヨウコちゃんの話も聞いて。お願い」

 みんな、3人が集まったのは見ていた。でも、気付かないことにした。ケイさえも、耕平と笑っていた。この時間を遼四郎にあげようと思っていた。


 エリーが変な提案をした。

「今日はね、リョウくんモードで話して。ヨーコに話すときは、リョーシローモードがいい。私たちはそれが聞ければ、それでいい」

 笑う遼四郎。ついでにヨーコの方も見る。

「じゃあ、思い出を正直に言うよ。江理ちゃんの顔をまっすぐ見た瞬間から、俺の頭の中は江理ちゃん一色。全部が江理ちゃんのためだけにあった」

 エリーがすごくうれしそうに笑う。いや、少し泣いている。

「でも、江理ちゃんいなくなっちゃった。俺、ぼんやりしてた。次の夏休み。ボール投げてたら、ヨウコちゃんに出会った。小さなさみしそうな子だった。でも、麦わら帽子の下に、キレイな金髪と、もっとキレイな顔が見えた。大好きに思って、デートに誘った」

 ヨーコが泣き笑いして言う。

「デートって、駄菓子屋だよ」

「当時の俺は、真剣だったんだよ」

「220円で、勝負かけてきたの?」

「仕方ないだろ。あれが全部だよ」

 ヨーコが幸せでいっぱいになる。涙がいっぱい出てくる。

「私はね。残念だけど、お金で苦労できなかった、嫌なクソ娘。でもね、リョーシローが、小さなお金で私を幸せにしてくれた。私にとっては、お返ししようと握りしめていた200円が、いちばんの価値」

「あの日、何買ったかな?」

「ラムネあきらめて、ミカン水かな。でも、風船アイスは食べるの。絶対よ。あ、わからない。もしかしたら、大きなチョコアイス1個をふたりで食べたかも!」

「ああ、ある! ありえる。裏切って、ヨウコやりそうだ!」

 遼四郎とヨーコが話すのを聞きながら、エリーが感じる。

「なんか、変わらないのね。リョウくん、って」

 ヨーコが恋敵の言葉をむしろ喜んだ。

「たいしたもん、何もないのに、一生懸命口説かれたのよ。私たち」

「で、好きになっちゃった?」

「もうね、大好き。腹立つから、一生好きになった」

「江理ちゃんも、一緒かなあ。ずっと好き」

 エリーは、だから、ひと呼吸置いてみた。

「もう、消えてしまうなんて、言わなくていいからね。リョウくんは一生懸命、竜をやっつけてくれたらいい。その後は、私にまかせて。私は決めてるの。もう、リョウくんを失わないって。そこは江理の領分だから、気にしないでいいよ」

「心構えだけなんて、甘いわね。私は竜の親玉やっつける瞬間は、遼四郎の手を握っておくことにするわ。こっちにムリヤリ残らせるか、あっちについていくかは、そのときに決める。だから、なんかあったら、私の手を握るの。絶対よ」

「何言ってんのよ! ヨーコは200円握ってたらいいでしょ。手を握るのは私の役目なの!」

 左右の手をふたりに握られてしまった遼四郎。困って笑う。

「これじゃ、飲み食いできないな」

 すると、ケイとハンナ、リサが飛び込んできた。

「キャプテン、大丈夫。私が食べさせてあげるからね。はい、口開けて」

「むしろ、ドリンクがいい?」

「いいから、歌いましょうよ!」

 今日一日、ずっと泣かせてしまった彼女たちが、今は笑ってくれている。たぶん、自分と同じで心の整理なんか、できていないだろう。それでも、みんなが一生懸命、気遣ってくれてることがわかる。心を鬼にして、嫌われてもいいと思っていた。でも、違った。こうやって、ウソでも好きだと言ってもらった方が、自分はうれしいのだ。

「うん、歌おうか。明日なんかわからないけど、今、思ってることを、せめて音楽に乗せておこう。未来のためにウソついたって、つまらないもんな」

 ちょっとだけ元気になった遼四郎の言葉に、エリーとヨーコの目が輝く。ケイは遼四郎に抱きつこうとした。でも、ハンナとリサが早かった。もみくちゃにされる遼四郎が、楽しそうに見えた。だから、それでいいと思った。



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