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33話 大戦 3

 矢が尽きていた。

 補充するヒマは、悔しいが、残されていない。

 ジャスティンは何かを託そうと思った。なんだろう、と考える。案外、何も思いつかない。空を見上げた。やぐらが視界に入った。これがいいと、思う。

「お前らは、今の間に矢をできるだけ、補充しろ。竜が来たら、そこから出るな。射て、射て、射尽くせ。矢が尽きたら、隠れろ。死ぬな。許さん」

 隊長の言葉の意味が、わからない。いや、わかりたくない。だが、ジャスティンは念を押す。

「繰り返すぞ。死ぬな。竜掃使りゅうそうしとして遼四郎りょうしろうの役に立て」

 そう言って、ジャスティンは戦場を見回す。まだまだ、ここにも竜は残っている。でも、ハーマンは近くに来ていた。

「悪いが、歩兵を率いて、新しいクソッタレを引き受けてくれ、と言っても、離れる必要はない。櫓を背に、固い陣で受けるんだ。お前らの背後を脅かすここの竜は、俺の騎兵が引き受ける。続けていれば、大竜たいりゅうをぶっ殺した、征竜隊が来てくれる」

「おもしろかった、と思わないか?」

 ハーマンは、あまり関係のないことを聞いた。でも、ジャスティンには、それに答えることが、とても大事だった。

「おもしろかった。知らずに終わったら、つまらない人生だった。知れた俺は幸せだ」

「やり残したことは?」

「たくさんある」

「俺もだ」

 ハーマンは笑った。笑いながら、竜を切っていた。振り返った。

「じゃあ、な。ジャスティン。ありがとう」

 ジャスティンも、飛来する竜を剣で弾き、副官を見る。

「いい友を紹介してもらった。お前のおかげだ。でも、お前こそが、いちばんの友だ」

「遼四郎じゃないのか?」

「あれこそ、友だ。でも、もっと好きな友もいるんだ」

「どんな、ヤツだ?」

「今度、キャッチボールをする友だ」

 また、竜を切るハーマン。ジャスティンと、ずっと話していたい。

「キャッチボールはな、気持ちを投げ合うんだよ。やれば、すぐに親友になれる」

「大丈夫だ。一緒にギークを弾いた。もう、親友だよ」

 ジャスティンの晴れやかな表情を見て、自分のやることは終わったと感じた。小さく笑って、離れる。ハーマンはもう振り返らない。

 周辺にいるのは、先からいた残存の竜。多くを倒したが、中型を中心にねらっていた。だが、ハーマンが去った方角から、ほどなくして、大きな圧力が来た。中型竜だ。残していた小型竜たちに、統制が利きはじめる。

 でも、ジャスティンは絶望していない。結局は勝つだろうと、信じていた。隣にいた兵が声をかけてくる。

「征竜隊は、今ごろ、大竜ぶっ殺してるんでしょうね」

「当然だ。でも、ここは俺たちの役割だ。それでも、勝つぞ」

「当たり前ですよ! 今夜は大竜カレーで笑いましょう」

 兵は突っ込んでいった。すぐに、見えなくなった。


 遼四郎は、タイミングを見ていた。こっちの攻撃に、中型がハエの舞うように交錯を繰り返す。だが、大きく開くときがある。それを待つ。

 瞬間が、来た。

 勝利かつとしとリサを見た。猛烈なダッシュで、右に勝利が突っ走る。同時に左にリサ。左右に広がった中型が、そこに反応し、さらに広がる。だが、勝利もリサも、ひとりで中型を相手にはできない。そのままでは、差し込まれる。

 勝利のスピードには、とうてい、かなわない。でも、正則も駆けていた。竜が反応する瞬間に、水をぶん投げた。

 リサの後ろを走ったのは、章吾しょうごだった。いつもは、遠めから電撃を放つ気楽な身分だった。だが、リサに中型が迫る。あんなもんを、たったひとりの女の子に受けさせる人間には、絶対になりたくない。前に走る。今まで、ほとんどやったことがない、ストレートの電撃を放つ。指先に来る、バチンッ、と押し切った感覚。

 電光石火が走った。雷撃を食らった中型が吹っ飛んだ。リサが驚いて章吾の方をまっすぐ振り返る。電撃の威力よりも、そっちの方に章吾は驚いた。かわいい、と思ってしまった。

 今までにない一撃に、大竜と残った中型が反応した。もう、耕平は飛び出していた。右にステップしたように見えた。でも、身体は左に飛んでいた。虚を突かれた中型竜の眉間に、ケイの矢が放たれる。それでも、大竜の統制下にある動きのいい中型は、避けた。

 しかし、そこには振りかぶった耕平がいる。

「イアァッ!」

 竜の右わき腹を前から後ろまで、割いた。

 大竜が、耕平を見下ろした。殺しにきた。しかし、そこに火球が飛ぶ。

「てめえの相手は、この俺だああ!」

 ひろしが叫んだ。顔面にぶち当たった。爆炎に一斉に射込まれる一也かずや秀樹ひできらの弓。右にハンナが走っていた。エリーが続いている。そして、左に富夫とヨーコ。

 大竜のあごが上がっていた。完全な隙。

「行っけええ! 富夫オッ!」

 大竜の右カカトに回り込んだ富夫の大槍が、テイクバックされている。超戦士の左足が踏み込まれる。絞るようにひねられた富夫の長大な四肢が、恐ろしい速度で解放される。切っ先が突風を起こした。

 ブチンッ!

 何か、デカいゴムが切れたような音が鳴る。巨大なアキレス腱が断裂したのだ。反対側の足元でも、ハンナが槍を振りぬいていた。大竜はもう、立てない。後は飛ぶだけ。

 遼四郎は走っていた。まっすぐ、大竜の方向へ。背中を見ていたケイが、止めようと前に出た。エリーとヨーコは振り返った。強い風が吹いていた。

 地面を蹴る遼四郎。次の一歩は、風を蹴った。その次は逆風を踏みつけ、さらに飛んだ。高く舞い上がるように走る遼四郎。胸が反り、足が前に出る。日本刀を両手で握りなおす。すでに大竜の眼前にいた。左足を思いきり踏み込む右打席の形。竜は遼四郎を睨んでいた。

「ただ強く、振るッ!」

 切っ先が、突っ走った。大竜の首半分を刃が突き抜ける。命に届いた。遼四郎は、竜の肩を蹴り、さらに、風を蹴って、竜の後方に降りた。振り返る。

「宙! 火の球ストレートッ!」

 宙はもう、踏み込んでいた。遼四郎が、驚くな、と言うから、準備していた。だから、足が大きく踏み出せた。胸が張れた。思いっきり、腕が振れる。

 巨大な火球が、大竜の切れかけた首に向かう。火球は跳ねるように上昇し、爆音を響かせた。大きな首が、吹っ飛んでいく。

「ざまあみろ!」

 宙がガッツポーズする。遼四郎が、遠くで応じている。だが、ほかの連中は、ポカンとしていた。せっかく、強大な敵を倒したのに、認識が追いついていない。


 比較的、遼四郎の近くにいたのは、ハンナとエリーだった。次に近いのは、富夫とヨーコ。

「キャプテン、何したの?」

 ハンナは大竜の左足の後ろで槍を振っていた。遼四郎は、竜の前にいたはずだ。だけど、いつの間にか、竜を飛び越えて、自分の後ろにいる。意味がわからない。

 エリーの反応は悲痛だった。もう、ヒザが折れていた。

「また、また……、また、いなくなったと思ったじゃない!」

 いつもは元気なヨーコも、今日はまったくダメだった。

「ごめんなさい、ごめんなさい! だから、やめて。お願い、もう、失えない……」

 ケイは飛んでいく遼四郎の背をつかもうとしていた。届かなかった。そのまま、倒れた。だから、いちばん、わかっていない。最後に見たのは、竜の前にすっ飛ばされたような、遼四郎の姿だった。

「バカなの? なんで、なんでいつも……」

 泣き崩れて、こっちも完全にダメだった。ただ、大竜を倒したことは認識している。だから、泣ける。しっかりは、している。

「ごめん、説明できないから、やってみてから、しようと思ってたんだ。俺、この前死んだとき、風をつかまえたんだ。ただ、飛び降りたんじゃ、刀なんか振れないんだよ。でも、風をつかまえると、足の踏み場ができる。空中でも野球みたいに剣が振れるんだ」

 遼四郎のよくわからない説明に、一同はさらに混とんとする。そこに、耕平がやってきて言う。

「エリーさ、前に特別な力には、火や水や雷のほかにも、風や氷があるって、言ってなかったっけ?」

 倒れ込んでるエリーだったが、うなずいた。

「こいつ、風を使えるんだよ。たぶん」

 遼四郎を見ながら、耕平が言った。エリーとヨーコ、ケイの心がようやく立ち直る。合点がいったのだ。いや、当の遼四郎が、はじめて理解する。

「そうか! なんで思い通りに風が吹くのかと思ったけど、あれ、俺が起こしたのか!」

 耕平がうんざりした顔で言う。

「お前、最近、真剣にバカになってないか? なんで、お前にだけ都合よく局地的に風が吹くんだよ。考えれば、わかるぞ」

 遼四郎は持つべきは友だと思った。全部、わかってきた。大きくうなずく。

「ところで、遼四郎さ。どうやって、風であんなに飛ぶんだ? コツは?」

 耕平は変なことを聞いた。

「向かい風をな、蹴っ飛ばすんだ。そんな感じだな!」

 遼四郎の答えは、壮絶にバカだった。

「ふーん……」

 でも、耕平はひとりで笑っていた。ニッとしている。ケイは、その顔を見逃さない。


 ともかく、倒せないとされた大竜を討ったのだ。次はジャスティンたちの援護。

「さて、疲れているとこを悪いが、ジャスティンらの方に行くぞ。ハーマンを驚かしてやろう」

 ワザと明るく話す遼四郎。だが、竜掃使が引き受けた敵は多い。急ぎたいのだ。馬車を回し、装備を整える。

「魔法組は、肩ヒジを陸にケアしてもらえ。いけるか? 陸」

 陸にも疲労の色はあった。だが、うなずいた。動き出す、馬車群。

 しかし、そこに竜掃使の騎兵が、たった一騎、ボロボロになってやってくる。遼四郎の表情が険しくなった。

「征竜隊! 遼四郎! さらに中型竜の大軍50が来た。挟まれた。り、竜掃使を助けて、く……」

 そのまま、ぶっ倒れた兵士。陸が駆け寄り、ヒールする。命はとりとめたようだ。

「なんで……、それを伝えにこなかった。ジャスティンッ!」

 遼四郎が唇をかむ。でも、理解していた。彼らは征竜隊を大竜退治に専念させたかったのだ。それは、わかる。だが、それでは竜掃使が持たない。

 みんなが、だまって、うなずく。馬車は一気に速度を上げた。



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