31話 大戦 1
征竜隊の出丸。竜に近い南の櫓に遼四郎はいる。だが、先日とは、章吾の配置だけを変えた。北の櫓で、電撃を放つ役割にした。こいつは、広く竜を止められる。時間が稼げる。
南の櫓の飛び道具は、ケイと一也、さらにエリーにも弓を持たせた。これに奮闘努力した男、宙の炎だ。
「決める必要は、ない。死ぬほど、ヤツラを泳がせるのが、序盤のテーマ!」
「オオッ!」
征竜隊は遼四郎の指示で一致した。眼前に迫る、黒くバカでかい竜を中心にした一団。
「宙、お前の火球で、プレイボールだ!」
グツグツと煮えくるような顔をしていた宙が、口を悪魔のようにゆがめて笑う。
「エースを、なめんなぁ!」
ぶっ飛ぶ、火球。大竜への射線に入っている。だが、黒くてデカいヤツは目を光らせる、身体を開くように避けた。後ろの中型にぶち当たった。頭が吹っ飛び、撃落した。
遼四郎は北の櫓を見た。昼間だ。向こうの仕草さえ見える。章吾は理解していた。鋭く横振りされる左腕。横に薙ぎ払うように稲妻がほとばしる。前列の竜たちが、止まり、落ちる。大竜は、ビクともしていない。
北の櫓に照準を合わせる竜群。秀樹と竜掃使らの矢が、これを射る。でも、それは陽動。
「死ねボケえ!」
南の櫓から、再度、宙の火球が突っ走る。大竜の背中をとらえ、爆発する。“やった!”そう思った。爆炎が去る。大きなダメージもなく、南櫓の宙を睨む巨大な黒竜。
「宙! あれじゃ、死なんらしいぞ! チャンスを待て! つるべ打ちにしてやる。最後はお前が決めろ!」
頭に血が上ったエースに、キャプテンが声をかけた。煮えくり返った気分に、戦略が加わる。冷静以上に熱くなる。
「首を、ぶっちぎらせろ!」
「まかせろ。それまで、陽動しろ!」
「わかった!」
キャプテンとエースが完全一致した。このチームはここからが強い。
ジャスティンは、南北の櫓を視界に入れた。征竜隊の戦い方を、見てとった。だから、射程距離に竜を入れていたのに、射ない。
「遼四郎は、大竜をぶっ殺す気満々だ。ならば、俺たちも手伝うぞ! 射るな、引き回せ。射るのは、本隊の歩兵だ!」
ジャスティンが率いる騎兵たちに、波のように闘志が伝わっていく。鬼の形相をして、兵たちが笑う。
「大竜、殺るんですね!」
「走り回ってやりますよ」
煮えたぎるような、ファイティングスピリット。どこからともなく湧く、闘志の声。
「ウォオッ!」
騎兵隊は竜へ向かって、怒涛となって突っ走る。竜の寸前、交わす。馬と一緒になって、曲がる。命をかけて、逃げる。
この瞬間、遼四郎は見逃さなかった。
「わかってるなぁー! ジャスティン!」
腕を振る遼四郎。同時に弓が飛ぶ。遅れて、電撃と火球が飛んだ。最後に吹っ飛んでいく、正則の水。いや、プール並みの水塊。
バンッという、濁った音が響く。バラバラと、雨のように水が降り落ちる。陽光に虹さえ、見えた。
そこに到達していたのは、竜掃使歩兵隊。ほぼ全員が弓に矢をつがえている。馬上、突っ走っていたジャスティンは、その方向を見て、手を振った。
「斉射!」
約800の矢が同時に天を走る。想定外の方向から射られた矢に、バタバタと竜は落ちる。ジャスティンのねらい通りだった。こんな戦がしたかった。
「櫓を降りろ! ここじゃ、野球部なのに走れない。降りて、走って、大竜をぶっ殺す!」
遼四郎は叫んだ。滑るように階段を下りる征竜隊。南北の櫓は同時に動いている。もう、富夫と耕平、ハーマンは、叩き落された竜たちを切っている。
同時に、ジャスティン指揮下の竜掃使も突っ込んでいた。喚きあげて、竜たちを刈りとっていく。一方的な勝利。
だが、いまだに煙る水煙の中、大竜が動いた。遼四郎とジャスティン、ハーマンも気づいた。
「危ない! 退けえっ」
起き上がった大竜は、集まる人間たちを睨んでいた。そして、鋭く振られる巨大な尻尾。多くの竜掃使たちが、弾き飛ばされる。
「イカン!」
ハーマンが飛び込もうとした。だが、大竜の2撃目は、来なかった。尾の根元に、富夫がいる。大槍で止めていた。
「痺れとけえ!」
間髪入れずに章吾が電撃を大竜に集中した。一瞬、動きが止まる。
「富夫! 逃げろッ」
遼四郎の声に、富夫が飛んだ。すぐに振られる、巨大な尻尾。富夫はなんとか、それを避けた。
今のところ、大竜には、何も効いていない。宙の火球でも落ちなかった。正則の水でも、立ってきた。富夫の槍も、章吾の電撃も、止める用しか成さない。手が残っていない。
でも、チャンスは来る。勝負というのはそんなものだ。それが、あると思うことが大事なのだ。だから、遼四郎はあきらめない。折れる気はない。
「ジャスティン! すまんが、引き回し続けるしかない。チャンスは、あるはずだ」
遼四郎はそう言う。言いながら、勝利とリサに目で合図をしていた。誰もいない方向に、走るふたり。
「わかった! とことん、スタミナ勝負をしてやる。ハト食った俺たちの方が、絶対に上だ!」
ジャスティンはすでに駆けている。竜掃使騎兵隊が猛烈な勢いで続く。誰も、ビビっていない。笑ってさえいる。
残っているのは、大竜1体と中型3体。だが、その中型たちも、大竜の統制下にあるのか、動きが違う。これまで見たことがない、最強の敵。
大竜を仕留めれば、中型たちの動きも悪くなるはず。でも、その大竜を仕留める方法がない。宙の火球も、富夫の大槍さえ、ヤツの命に届かない。
それでも、遼四郎の目は、ずっと動いていた。勝利とリサが動く、竜がそちらを向けば、ジャスティンらが背後を突く、彼らが至近に入る前に、章吾が電撃を放つ。一也らが射る。頭に来た竜がこっちを向く。宙か、正則が、一撃を見舞う。それでも、大竜は倒れない。
すでに、膠着ルーチンという状況だった。耐え続けるしかない。役割ある者は必死だった。だが、そうでない者は構える以外、やることがない。
なのに、忙しいケイに聞いてみる。
「ケイ、どうしようか?」
弓を間髪なしに射続ける彼女に、余裕なんかない。
「江理ちゃんにでも、聞きなさいよ!」
急に指名されたエリー。彼女も弓を手にしている。ずっと射ている。でも、考えていた。遼四郎と一緒に勝つ気だった。
「あんなに大きくても、動物なのよ。限界はあるはず!」
そこまで言うと、真実ヒマなヨーコが、割って入る。
「江理ちゃんじゃなくて、なんでヨウコちゃんに聞かないのよ! あのクソ野郎はね、足で立ってるのよ~」
ヨーコの言葉が、遼四郎に突き刺さる。ひらめく。
「富夫、ハンナ、来い!」
槍を携え、走ってくる、征竜隊の豪勇2名。
「いいか、ねらうのは、大竜のアキレス腱だ。切るのは、富夫、お前の大槍だ。ハンナは反対側でダミーをやれ! お前たちの動きが軸だ。そこに導くように、全員を動かす!」
チャンスが、見えた。勝ち方が、決まった。征竜隊の表情が一気に変わる。馬で駆けまわるジャスティンにも、その意志は伝わった。
「思いついたな! 遼四郎、さすが、俺の友だ」
もう、何度目かわからないが、それでも、ジャスティンは馬首を返す。振り向きながら見た遼四郎の顔に、絶対的な勝機を感じた。
しかし、竜掃使本隊方面から駆けてきた、ふたりの伝令。近づく前から、大声で叫んでいる。ジャスティンの顔が、曇った。
「竜群100! 南西より、王城へ侵攻中!」




