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21話 どんな声、聞こえた?

 キジがうまい。

 鳥を仕留めたのはハーマンなのだが、彼の主張する料理法は却下された。りくではない。章吾しょうごだった。

「キジは日本で珍重された鳥なんですよ。平安貴族の大好物。生で食う連中もいたそうですが、さすがにヤバい。となると、キジ鍋ですよ!」

 いくら陸でも平安時代の料理など知るわけない。でも、鍋と言われて、陸の闘志に火が点く。ならば、ハトは適当に焼けばいいと主張するハーマン。だが、これにも章吾は絡む。

「ハトは観賞用の鳥として、平安朝から、食べずに大事にされたらしいですけどね。でも、荒野に生きる関東の武士は知ったこっちゃない。弓矢の鍛錬のついでに射て、適当に食ったらしいですよ。ぎゃはは、ハーマンさん、そのまんまだ!」

 大地を駆けた創成期の武人のワイルドさに比されて、さすがに、ハーマンも焼くだけではイカン気がしてきた。

「なんか、ほかに食い方あるのか?」

 そう、陸に聞いた。すると、神はハーマンを救った。

「それは聞いたことがあります。やったことはないですが、ものすごくおいしいとされる料理法があるんです。ハトのお腹にいろいろ詰めて、焼いたり煮たりするんですよ。試してみましょうか」

 外側から焼いて塩をかけることしか考えたことのないハーマンに、内部から味を変える方法を示した陸。想像しただけで、竜掃使りゅうそうし最強剣士ののどは、ゴクリと鳴る。そこに、何をしていたかわからないヨーコが乱入する。

「おいしいもののつくり方は決まった~? じゃあ、鬼神のように働くわよ! 陸、玉ねぎ切りまくったらいい?」

「ヨーコさん、正解です。玉ねぎを中心に、鬼になって野菜を切りまくってください。でも、その前に米を研げ!」

「了解ぃ!」

 料理がはじまると、ヨーコもハンナも陸には絶対服従だった。その間、陸と章吾、一也は、ハーマンの指導の下、鳥のつぶし方を教わることになった。

 風呂組は重労働だった。とにかく、薪が必要なのだ。丸太を断ち割る役目は、富夫が請け負った。超戦士は、大きく呼吸を整え、斧を振り下ろす。繰り返すと、ものすごい勢いで、丸太が寸断されていく。

 これを薪の太さにまで割るのが、遼四郎りょうしろうと秀樹の仕事だった。だが、バッティングとは要領が違い過ぎた。うまくいかない。

「キャプテンと秀樹君が、そんなに役立たずだとは思いませんでした」

 プンプンしながら、ケイが薪割りを手伝う。彼女は非力な方なのに、コーンッ、といい音を残して、次々に薪になる。それを使い、火の番をしていたのは耕平。

「それに比べて、耕平君は火の扱いが上手です。すぐに火が点いたし、どんどん、お湯が沸いていきます」

 ケイの剣幕に押されて、2割増しの腕力にまかせ、薪を割る遼四郎と秀樹。

「俺たちは、何か力学的に間違っているんだろうな」

「明日は、薪割りの極意を、ケイとハーマンにでも指導してもらおう」

 ダメなふたりは、それでも、大汗をかいてがんばる。

「でも、いいんです。誰でも、不得意がある。失敗もする。それをカバーするのが、チームなんですよね!」

 怒っているように見えて、実はケイは上機嫌だった。赤い髪の下、顔を炭でクシャクシャに汚しながら、彼女は笑っていた。周りにいた男子どもは、素直に、かわいいな、と思ってしまう。

 こうして、みんなが風呂に入り、汗を流す。宙やエリーたちも、馬の世話でクタクタだった。でも、若いからすぐ元気になる。

 厨房も、食堂もあるのだが、なんとなく、外に出て、みんなで火を囲む。鍋には、うまそうな何かが煮えている。駐屯地の初日だった。遼四郎は、何かを話さなきゃ、と思った。でも、必要なかった。

「鳥が、変わったぞ!」

 意味のわからないハーマンの叫びで、それははじまった。

「この鍋はね……。こ、言葉にできないよ」

 妙にタメを利かしたヨーコに、腹の減った若者たちののどが鳴る。ハンナが鍋を凝視し、一也と章吾が自信ありげに、うなずく。最後は、神。

「ハーマンさんが獲ってくれたキジを、鍋にしました。鳥の王様の味を、存分に楽しみましょう!」

「いっただっきまーす!」

 征竜隊は鍋に突進した。そして、味わう。平安貴族が珍重した、野生の鳥の味を。そして思う。

 キジは、とんでもなく、うまい。

 16人の若者は早々にキジ鍋を撃破した。物足りない、と誰かが思ったとき、神は第2撃を繰り出す。

「ハトの詰め焼きです。僕も食べたことないですが、自信ありです。獲ってくれたハーマンさんと、僕らの栄養になってくれるハトさんに感謝して、食べてみましょう」

 そう言って、陸はハトの丸焼きを切り分ける。残りの数羽も一也と章吾が、同じようにした。

「お腹の中に、ごはん入ってるの?」

 お馬さんのお世話で、何も知らないリサが驚く。

「ご飯だけじゃないからね。すっごいよ、これ」

 自分で料理したハンナが、言いたいのにもったいぶる。ハトから出てくるよく煮えた玉ねぎやニンジン、青い野菜だち。香りがすでに、うまい。

 料理班がハト肉と野菜、そして、一緒に煮えた米飯を分け、皿に盛る。口に運んだ全征竜隊。ハトのうまみをすべて吸い込んだ米と野菜に衝撃が走る。

 ハトも、うまい!


 食うだけ食うと、腹が落ち着いた連中から、話が出てくる。特に女子たちは、おしゃべりがしたい。

「今日のキャッチボール。楽しかったね」

 ハンナが、なんとなく口にした。まだ、食いものにガッツいていた野球部たちが、全員、顔を上げた。目がキラキラしている。お願いだから、もっと、続きを話してほしい。

「やってる間に、一也君が言っていたことが、わかってきました」

 めずらしく、ケイが早めに意見表明する。エリーが、近くでうなずいている。

「だって、おかしいのよ。勝利かつとしって、どうせ、痛いくらいのボールを投げてくると思っていたら、ビックリするくらい丁寧でやさしい。ちょっと、見直しちゃった」

 いつも、勝利の目つきの悪さをツッコんでいるリサが、そんなことを言う。今までにない展開に、勝利のメガネが変だ。曇っている。泣いてるのか?

「勝利だけじゃないね~。宙があんなにやさしいの、見たことないよ。あんなキャラ?」

 ヨーコにズバッっとストレートを投げられた宙が、食っていたキジ鍋の雑炊を吹きそうになる。この男にしては、めったにない恥ずかしいモードに入ってしまう。

「宙だけじゃないよ。章吾なんて、私の投げる手が違うことに気づいてくれて、グラブ貸してくれたんだよ。この人、本当はスッゴイやさしいの」

 ハンナの言葉に、こっちも雑炊を吹き出し、飲み水に逃げる。人生初、女子からの高評価の受け止め方が、サッパリわからない。

「秀樹がな、俺が気持ちよく投げられるように、一生懸命、動いてくれるんだ。捕るときは、キレイな音響かせてくれてなあ。こいつ、仲間思いなんだよ。いいヤツだと、一瞬でわかる」

 まったく乙女でないハーマンから、秀樹は評価された。照れる必要がないから、素直にうれしい。

「それが伝わったら、今日は成功じゃないですか。俺、ハーマンさんに野球を好きになってほしいと、必死だったんですよ」

 秀樹がハーマンの言葉に、正直な言葉を返す。

「それだよ! みんなから、それを感じた。一也君が、キャッチボールは会話だ、って言うから、何を話してくれるのかな、と思ってた。でもね、遼四郎もニコニコするだけで、何も言わない。耕平君も、富夫君も、正則君も、同じ。でも、“キャッチボールって楽しいよ”ていう、そんな声はずっと聞こえた」

 エリーが感想を言葉にした。彼女なりにずっと考えていたようだ。

「じゃあ僕たちは、やるべきことはできたんだね。今日のテーマは、それ。僕たちの好きな野球を、僕たちの好きなみんなにも、好きになってほしい。それだけだったんだ」

 いつもはイライラする一也のイケメンボイスが、今日はすんなりと通っていく。勝利が曇ったメガネで、ただうなずいている。

「ところで、エリーはさ、どんなボールが欲しかったの? 誰かから、“好きだよ!”ってボールを投げて欲しかった?」

「え、誰々? 誰がよかった? 私はね~、内緒!」

「ど、どーでもいいでしょ! そんなこと」

 ヨーコがズケズケと聞き、ハンナが増幅した。あせるエリーと彼女らの会話に、野球部どもが、ゴクリと唾を飲む。遼四郎は、目の置きどころがなくなって、なんとなく、空を見上げた。夜空には満天の天の川。

「星がキレイなんだよな、ここは」

 そんなことを思った。


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