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13話 試して、ダメだったら、違うのにすればいい

 翌日も同じようにハーマンたちが朝から顔を出す。今日はガチャガチャと複数種の武器を持ってきていた。

「棒で稽古するのはいいのだが、竜と相まみえるとき、実際にどの武器を手にするかは考えておいた方がいいだろう。武器には人それぞれに向きと不向きがある。後で変更するのは構わないが、慣れておく必要はあるだろう?」

 ハーマンは武器を並べながら、そんな話をする。

「助かるなあ。そうそう、そういうことを知りたかったんだ。ハーマンさんと組んでよかったよ」

 遼四郎(りょうしろう)はいくつかの武器を手にしながら答える。

「私たちも、得意とする得物えものはそれぞれ違うんです。私なんかは非力なのでレイピアを使いますが、本職は短弓たんきゅうです。それに対し、エリーとリサは、そのレイピアがうまい。ヨーコは実は力もあって、男性同様の剣を使います。で、大柄なハンナは、男性以上の腕前でやりを振り回すんですよ」

 ケイが赤毛をかきあげながら、ナインたちにそんな話をする。普段は陽気に話している彼女たちが、実は戦士なのだということを思い出す。

「なあ、これ、軽く振ってみようか。自分が振りやすいものを探しておこう。ただし、これは実戦兵器だ。周囲をいつも以上に注意」

 遼四郎がナインに声をかける。猛烈に関心を持ったのが、ひろし章吾しょうごの戦国マニア2名だった。だが、このピッチャーふたりには、釘を刺す。

「武器に関心持つのはいいけど、お前らにはすでに武器がある。それを妨げないことな。たぶん、丸腰がベストだぞ」

「わかってる。だが、槍が触りたいのだ。俺は!」

 宙が正直に言う。遼四郎は笑って、それを許した。

 ハーマンが男性の竜掃使りゅうそうしは基本的に剣を装備していると話したところから、多くのメンバーはそれを手にして振ってみる。両刃でまっすぐな剣だが、重心は安定していて、たしかに扱いやすい。

「これが基本になりそうだな。振りやすいよ」

 秀樹が剣の感想を言葉にする。みなも近い意見のようだった。

 だが、耕平が首を振った。

「俺には微妙に長く重い。振られる感じがするな」

 彼はほかのメンバーより身体が小柄だ。腕力はあるが、得物の長さと重さが瞬発力を削ぐのはよくない。すると、ケイが耕平の前に出て、自分の剣をさやごと渡す。

「耕平君、これ、試してみて。私のレイピアだけど、少し詰めて短くしてあるの」

 彼女がただひとりだけ慣れたらしい耕平に、ちょっとだけくだけた調子で言う。耕平はニッと笑って、受けとった。

 ベルトの左側に鞘をぶち込み、耕平は数歩走る。右手をつかへ持っていき、そのまま抜刀し、横に薙いだ。その流れを止めずに、切り上げ、次に切り伏せる。風を切る音が、心地よく響き、耕平はレイピアを鞘に戻す。

 ケイを眺めて、ニッと笑う。

「あ、あげるよ、その剣。官給品だけど、わ、私が自分で調整したんだ。軽いし、つ、使いやすいんだよ」

「俺に合ってるよ。切っ先が走って、ちょうどいい。ありがとう」

 耕平が柄の手触りを確かめながら、ケイに言葉を返す。照れた彼女は赤い髪の下の顔を猛烈に赤くする。まだまだ、男子は不慣れなのだ。

 得物が重要なのは、手先から火球や雷撃が出ることもなく、弓でもたいした才能を発揮できなかった勝利かつとしも同じだった。

「俺は武器で戦うしかないんでね」

 メガネの奥を不機嫌に光らせながら、剣を振ってみる。すると、案外、いい剣風が起こる。

「なんか、つまらない気もするけど。これが普通に振りやすいな」

 レイピアでは軽すぎるし、槍だと長さが彼の俊足を邪魔する。勝利は、何かに目覚めるまでは剣でいい、ということになった。

 残った問題は、攻撃の要でもある、3番の遼四郎と4番の富夫とみおだった。遼四郎は剣の重さにしっくりはきていたのだが、何かが合わない。富夫は槍を振り回すのが合うようなのだが、穂先の短さが扱いにくい。

 このとき、エリーが何かに気づいて声をかける。

「遼四郎、富夫君、ちょっと待っててくれる? 見せたいものがあるの!」

 そう言うや否や、走って飛び出して行ってしまった。少し唖然とするナインたち。

 待つこと15分。エリーが長大な袋を携えて戻ってきた。息を切らせながら、袋を開くエリー。中には、これまた長大な木製の箱があり、それを開けると、二つの刃が見える。ハーマンが声をかけた。

「伝来の品じゃないのか?」

 だが、中身を先に理解したのは章吾だった。

「それ、日本刀と大身鑓おおみやりですよ。正真正銘の戦国武具」

「私の家に伝わる武器なの。でも、私たちには扱えなくて……。遼四郎たちなら、使えるかもしれないと思ったの」

 そうして、刃と別になっていた柄を取り付けていく。形になったのは、一振りの日本刀と、全長3メートルほどもある槍だった。宙と章吾が、唾をのみ込んで見入る。

「これ、有名な武将の武具じゃないのか。大身鑓なんて、名のある将の持つもんだろ。日本刀だって、こしらえが凝ってるぞ。十字架があしらえてある」

「エリーさんの家って、もしかしたら……」

 章吾は何かを思いついたらしいが、エリーはそれを言わせなかった。

「私の家なんかどうでもいいの。遼四郎と富夫君に合うかどうかを知りたいだけ」

 そう言われた遼四郎と富夫は、それぞれに日本刀と槍を手にした。

「遼四郎、刃が上になる形で鞘をベルトにぶち込め。そのまま刃を上にして抜くのが、打刀うちがたなの作法だ。抜くと同時に切って、そのまま、次の斬撃に移れる」

 宙が知っていることを教えてくれた。遼四郎は、それに従って刀を装備し、そのまま走る。抜く、そして、横に振る。空気を裂く、鋭い音が鳴る。

「キャプテンはバットをしならせて打つタイプだから、反りのある日本刀は合っているかもしれない」

 章吾がメカニックを説明してくれた。遼四郎も納得する。たしかに、自分に合っている気がした。切っ先が遅れて出てくる感覚が、彼のバッティングのイメージに近いのだ。富夫と目を合わせると、富夫はその長大な四肢に、それ以上に長い大槍を携えて庭の中央に立つ。ナインだけでなく、ハーマンたちも無意識に後ろに下がる。すでに威圧感がある。

 富夫は槍を両手で持ち、無造作に数度振った。70センチ以上もある幅広の刃が、空気を切る音が鳴る。数度の動作の後、大きくテイクバックする。左足を踏み出した。突っ走る穂先が、ブンッ、という巨大な剣風を起こす。ハーマンには、竜の腹が両断される光景が見えた。これの前では、この世の生命は耐えられないだろう。

 富夫は朱色の柄の太さに馴染みのよさを感じたのか、しきりに握ってから、エリーの方へ向きなおした。

「これ、気に入ったよ。刃が大きくて、どこで当ててもいいから助かる。柄の長さは調整するかもしれないけど、俺が使っていい?」

 エリーは自分の判断が間違っていなかったことを知った。家の宝だとか、そんなことはどうでもいい。大好きなふたりが、納得いく道具を手にしてくれたのだ。それだけで、十分にうれしいのだ。

朱槍しゅやりですよ。富夫さん。いちばん強い人だけが持っていい槍。やっぱり、ウチの朱槍は富夫さんじゃなきゃね」

 章吾の解説にハーマンらも含めた全員が猛烈な説得力を感じる。朱槍を手にした超戦士は、神々しくさえあったのだ。


 午後はさらに、竜掃使用の備品をハーマンが持ち込ませ、戦袍せんぽうなど、ひと通りの衣装を合わせることにした。

「基本的に下半身は動きやすいはかまをはき、上半身は前あわせのころもを着る。そこにヒザ下まである長靴を用いる。さらに、戦闘時には、その上に胴丸や手甲といった防具を装備する。ただし、戦闘時の役割によって装備する防具の種類も変わるんだ」

 ハーマンの解説を聞きながら、それぞれがサイズの合いそうなものを選び、身につけていく。着替えに同席するのは気が引けたのか、エリーたちは席を外した。いや、ヨーコとハンナは、別にいいと主張したが、ケイが強引に連れて出たのだ。

「なんか、ちょっと昔のユニフォームって感じで、野球するときとあまり変わらないっスね」

 正則まさのりがみんなの感想を代表するように言う。たしかに、そうなのだ。袴はズボンの形をしていて、スネあたりで縛られるため、ユニフォームと大差ないシルエットになる。

「袖が邪魔な気がするな。ハーマンさん、試しに切ったら、怒る?」

「いや、構わんよ。試して、やってみて、違ったら、また戻る。そうやって、自分に合うものを探すのが大事なんだろう?」

 秀樹の質問にハーマンがナインたちに教わった言葉で返す。野球部とのつき合いで、ハーマンの思考法は大きく変わりつつある。

「よし!」

 そう言って秀樹は上半身の衣を脱ぐと、無造作にハサミで袖をヒジ上あたりまで短く切り取った。再度着ると、もう完全にユニフォームの袖丈だった。

「ハハハ、マジで野球部だよ。色が紺だから、どっかのプロのビジター用って感じだな」

「でも、動きやすいぞ。腕が振りやすいから、俺たちに合ってる気がする」

 宙のツッコミに秀樹がスローイングの動きをしながら返した。

「竜掃使の戦袍って、国を守る衛門府えもんふのものと同じなんだよ。だから、根本的に対人戦闘用の概念でつくられている。でも、よく考えれば、俺たちが戦うのは竜だからな。余計なものはいらないのかもしれん」

 ハーマンは柔軟に思考し、自分たちの見落としていた部分に気がつく。発見の連続で、なんだか、おもしろくなってくる。

「じゃあ、袖が気に入らないやつは切っちまおう。これじゃあ、バットが振りにくいと俺も感じたよ」

 遼四郎が提案すると、全員が衣を脱いだ。やはり、袖はヒジ上くらいに短い方が動きやすいのだ。結局、全員が紺色ユニフォームのチームに所属する。

「なんか、アンタたちって、変わらないわね~」

「色が変わっただけに見えるんだけど」

 着替え終わりを察知して、ヨーコとハンナが入ってきて笑った。様子をうかがっていたエリーとケイ、リサも遅れてやってくる。

「袖、切っちゃったの?」

「うん、この方が動きやすいと思ったからね。で、切ると、いつもと同じスタイルになっちゃった、というわけ」

 リサの質問に一也が返した。リサは一也に近づくと、その袖に手をやって、じっと見る。

「これ、ただ切っただけじゃない。ほつれちゃうから、後で縫っておくね」

「リサは裁縫もできるんだね。僕もできないわけじゃないから、一緒にやろうか。みんなの分も縫っちゃえばいい。どうせ、勝利とかは針仕事が不得意だからね」

 急に話を振られた勝利だが、一也の指摘は間違いではなかった。メガネの奥は、今日も不機嫌だ。

「どうせ俺は、魔法もなければ、弓も下手で、針仕事もできないよ。悪かったな」

「いいの、いいの。できるヤツができることをして、できないヤツはほかで活躍すればいい。それがチームだよ」

 彼らのやりとりにみんなが笑った。笑いながら、ハーマンは、“チームって、いいものだな”と感じていた。


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