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12話 考えて練習すれば、うまくなるぞ

 最初に勝利かつとしらがやったストレッチの説明から、ハーマンやエリーらにとっては得るものが多かった。

「ええっ! じゃあ、痩せたいときとかにも効果あるんじゃないの、コレ?」

 などと、ハンナが質問してくる。

「そうだね。ストレッチで筋肉を刺激すると、当然、その筋肉は活発になるし、代謝も上がる。要するに、食べたごはんをその部分が消費してくれるんだ。トレーニングのように酷使しなくても、効果はあるよ。その積み重ねが、キレイなボディラインを保つんだと思うよ」

 一也かずやが涼しく説明すると、女子たちの目の色が変わる。訓練前の柔軟体操を舐めていた、そんな反省の色が顔に出ていた。

「比較的ゆっくり走るのは、心肺機能に影響がある。今必要なのは強く身体を動かす前のウォーミングアップだから、心肺の活動を少し上げてやればいい。身体をこれからの活動に備えさせるわけだ。しかも、走るという動作は、左右の足に交互に体重を乗せる。棒を振る動作や物を投げる動きに通じるんだ。そういう意味でもいい準備になる」

「じゃあ、バカみたいに長い時間を走らされるのは、何の意味なんだ?」

 ひろしの解説に、今度は、ハーマンの手下たちが聞く。

「心肺機能の強化だろうな。肺がしっかりと空気を取り込んで、身体の隅々まで行きわたらせれば、それだけ新陳代謝もよくなる。疲労が蓄積しにくくなる」

 長距離走は兵隊に対する嫌がらせくらいにしか思っていなかったのだが、意味があることを知って驚く。

 棒を持っての素振りになると、スイングの理論が出てくる。最初に耕平らが8の字のスイングをやってみせ、そこで身体をどう使うか、スムーズな動きを妨げてしまう理由などを説明する。秀樹とりくは、基本的なバッティング解説の中で、腕で振るのでなく、身体全体を使うべきだと話す。そして、遼四郎りょうしろうの番。

「耕平たちが説明したように、棒を振るっていう動作は、俺たちのやっていることと案外近いとも思っているんだ。ただし、当然、違いもあるはず。ハーマンさんたちには、そこも考えてほしい。答えが一発で出なくてもいい。みんなで知恵を出し合って、合理的なものを探せばいい。で、とりあえず、今日は俺たちの基本的な考えを説明してみる」

 そう言って、遼四郎は棒を野球のスタイルで構える。

「打撃の基本ってのは、この棒をいかに速く振るかのはずなんだ。特にこの先端部分がどれだけ速く走るかだと思う。だから、俺たちはこんな風に振るんだ」

 そう言って、遼四郎は棒をスイングした。ブンッという空気を裂く音が響く。

「結局は、てこであり、遠心力。俺の手先自体は、そんなに速くも大きくも動いていない。でも、この棒の先端は、振られて強烈なスピードになる。剣でも似たようなもんだと思うけど、切っ先が走れば、よく切れる。そんなイメージ」

 そこで、遼四郎は富夫を見た。富夫がうなずいて、前に出て構える。足を上げ、踏み込んだ。突風のように棒のヘッドが走る。風が巻く、衝撃が突き抜ける。

 ハーマンたちが目をむいて、あんぐりと口を開けた。竜を絶つ一撃、いや、竜を砕く一撃だった。皮膚がビリビリとする。それだけ、すさまじい。

「まあ、富夫のスイングスピードは怪物級だけど、それも、話したような理論で説明できるんだ。そういうことを考えて、ここからは強く振ってみてくれ。先端がいかに速くなるかに意識を置くんだ。ただし、結構、負担が大きいので、少しでも痛いところがあったら、やめること」

 全員が棒を強振する素振りに入る。すぐに理解できない者には、野球部たちが付き添い、ポイントを教える。

 ハーマンは充実を感じた。遼四郎らを真似て、振ってみる。切っ先が風を起こす。考えることが、おもしろい。もう1本、もう1本と振っていく。いつしか、風を切る音が変わってきた。汗が最高に気持ちいい。


 後半は、衛門府えもんふの弓技場へ移って、あえて、ハーマンが弓の解説をしてみる。遼四郎らのように、初心者にもわかりやすく、論理的な説明をしてみたかった。頭ごなしに怒鳴っても、人はうまくならないように思えてきたのだ。

「すまん。わかりにくいことはどんどん聞いてくれ。俺はお前たちに理解してもらおうと、必死にやってみる。みんなができなかったら、俺が悪いと思えばいいんだよな、遼四郎?」

 遼四郎はニコニコしながら、ハーマンと目を合わして、うなずく。

「まず、弓っていうのは、弓のしなりを生かして、つるにかけた矢を飛ばす道具なんだ。俺たちは長弓ちょうきゅういしゆみの両方を使う。圧倒的に使いやすいのは弩だな。台座に弓を水平に置いた武器で、まず、ハンドルを繰り返し回すことで弦を引く。引き金にかかると、弦が固定される。後は、その弦に矢をかけて台座に置き、引き金を引けば、勝手に矢は飛んで行ってくれる」

 自分と手下のひとりで行程を実演しながら、弩を放つ。ふたりとも、見事に的を射抜いた。

「おおっ!」

 章吾しょうごが声を上げた。歴史マニアには、うれしい時間のようだ。

「見ての通り、使いやすい飛び道具だ。ただ、この弩というやつは、射撃準備に時間がかかるんだ。竜を相手に戦うときは、正直、最初の一射しか使えない。モタモタとハンドル回している間に、竜は目の前に来てしまう」

「速射性に劣るんだな?」

 宙も乗ってきた。おもしろいのだ。

「そこで、俺はこの長弓を使うことが多い」

 ハーマンは自分の身長以上の長大な弓を手にした。

「弓道部の弓と同じヤツだ」

和弓わきゅうだ、和弓。戦国時代でも速射性で有効だったんだ」

 章吾がうれしくなる。ホンモノの戦国実戦兵器なのだ。

「ただし、これも弱点がある。こうして矢をつがえて、弓を引くだろ。すると、俺の矢は弓のどちら側にある?」

 ハーマンは弓を引いた状態で、みなに見えるように背中側から照準の位置を確認させた。

「弓の右に矢がありますね」

 一也が興味を持ったらしい。真後ろに立って、その位置関係を確かめる。

「そうなんだ。弩と違って、縦に構える弓は、そもそも、左右どちらかに逸れる形で引いている。この道具の面倒なところは、このあたりに集中してるんだ。たとえば、このまま弦を放つと、弦は身体の直近を通る。障害物があると、そこに当たって、軌道が変わる。当たったところも痛い」

「だから、私たちは胸を守るために胸当てをするんです」

 生マジメなケイが、言うべきことを言う。

「ええっ! 弦が女子の胸をかすめるの?」

 強烈に驚いたのは勝利だった。マジメ同士の会話は、遠慮がない。スケベではない。サイエンスを語り合っているのだ。

「まあ、そういうことだな。だが、弓っていうのはよくできている。ある程度の鍛錬をして、コツをつかむと、こうなる」

 そう言って、ハーマンは的へ向けて弓を放った。矢は的に命中した。すると、ナインの何人かは、同時にハーマンの弓がドアが開くように回転したことに気づいた。

「お、弓が回った」

弓返ゆがえりって言うんだよ。弓道部の女子に教えてもらった。あれができるヤツは、かなりうまいらしい」

 宙がそんなことを言う。野球部エースの宙は、学校では有名人で、それなりに知己も多いのだ。

「宙って、女子の友達いるんだあ~。どんな子?」

 変なところでヨーコが食いついた。だが、宙の戦国マニア部分が、ヨーコの存在を上回る。

「後で教えてやるから。今は弓の授業」

 宙は自分にも、女子にも、まっすぐなのだ。ヨーコは軽くすねる。でも、彼女にとっても、今日のやりとりは正直おもしろい。いつも高圧的だったハーマンが、必死に弓の講師をしている。しかも、聞いたことがないくらいに、丁寧でわかりやすい。

「弓返りを知っているとはなあ。じゃあ、話が早い。弓は引いたときにすでに回転する力が働いてるんだ。矢は右に逃げようとするが、弓を持つ手がそれを補正するように左への力を加えている。すると、弦を放つとともに、弓は手の力の方向に回り、矢はその方向へと軌道を修正する。弦が余計なところに当たる心配も減る」

「合理的に放てば、矢はそれに合った飛び方をしてくれるのか。ねらい方のコツはありますかね?」

 一也が案外に前のめりだ。イケメンどうこう以前に、好奇心が勝っていた。

「弓は状態次第で飛び方が変わるもの。それを把握して、その後は、的への軌道に矢を乗せてやれば、自然に当たるものだと思う」

「なんとなく、イメージがありますね。やってみたいです」

 一也はハーマンの話から、何かをつかんだようだった。


 弩は言われるようにかんたんな道具だった。引いて、矢を置き、引き金を引けば飛ぶ。ねらい方も上下をいかに合わせるかの1点に絞られる。だが、次を射るまでに、時間がかかる。特に女子は嫌っていた。

「戦闘中にこんなハンドル回してられないのよ。これ回しながら死にたい? 私は、絶対にイヤ!」

 ヨーコがその急先鋒だった。だが、女子の中で弓が一番得意とされるケイさえ、弩は嫌いらしかった。

「私の力では、このハンドルさえ固く感じるものなんです。準備した最初の一射を放ったら、別の手を使うべきでしょう」

 ケイの言葉に、腕力では対極にあるはずの富夫が猛烈に反応していた。ハンドルが小さくて、イライラしてくるらしい。弩を壊しそうな勢いだ。

「じゃあ、長弓を試してみようか。ただし、これは長い鍛錬が必要なんだ。人を選ぶと言ってもいい」

 ハーマンの言葉に、ナインたちは長弓に挑む。やはり、かなりの苦戦をする。耕平の場合などは、身長的にも厳しいものがあった。

 しかし、この技術にかなりの関心を示していた一也は、想定外の上達を見せた。最初の数射は、矢の軌道を確かめるように的を盛大に外していた。だが、そこからが違った。軌道を確認した彼は、そこから、的へ矢を集めるようになる。気がつけば、弓を返す動きさえ、自然に身につけていた。

 次にうまかったのは、意外にも秀樹だった。弓返しのようなキレイな動きができるわけではない。だが、矢が的に行くのだ。不思議に思うハーマンの部下たちが、心得を聞く。

「アンタらの大将が言っていた通りかも。当たる軌道に乗せてやれば、案外、思い通りに矢は進む」

 秀樹のそんな言葉に、遼四郎が説明を加えた。

「一也はショート、秀樹はキャッチャーといって、球を遠くに、できるだけ正確に投げることを求められることが多いんだ。すると、外さないように的と自分の間に、球の軌道を描くクセがついているんだ。サードの俺も近い仕事なんだけど、うまくいかないなあ」

 そう言いながら、遼四郎は矢を放つ。的をわずかに外した。だが、ナインの中では秀樹に次ぐ安定感があった。

「遼四郎なら、練習すれば、もっとうまくなるはずよ」

 エリーが勇気づけたいという思いで、声をかけた。だが、遼四郎は弓を置きながら、それを否定する。

「違うな、エリー。なんとなく役割が見えてきたよ。ウチの戦い方は宙の火球と富夫のフルスイングが軸だ。章吾の電撃や、正則の水がこれを補佐して、さらに一也と秀樹が弓で援護できれば最高だ。陸はヒーリングで主力の維持をする。で、何もない耕平と勝利と俺は、機動的にその露払いをするんだ。切り込み隊だな」

 なんの感傷もなく遼四郎は告げた。エリーは思い出す。“ウチの大将はヤバいところに自分を置く”そう、秀樹が話していたことを。はじめて、遼四郎を失うという恐怖が、身体を突き抜ける。

 ハーマンも驚いていた。この指揮官は、平然と自分を死地に置くことを語った。そんな軍は士気が落ちない。後続が必死になって、大将を守ろうとするからだ。だが、そこには当然の危険がある。現に、横でエリーたちが衝撃を受けている。ハーマンはできるだけ笑ってみせようと思った。

「わかってるじゃないか、遼四郎。それこそが大将だ」

 遼四郎も笑って応じた。だが、ハーマンの部下たちは竜掃使りゅうそうしとして、その意味を理解していた。それは、エリーたちも同じだった。彼女たちはそもそも、竜掃使なのだ。


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