第五話 「レイの才能」
店に戻り、ショーケースに張り付いていたレイを引っ剥がし、フライドと名乗る男の後を追う。
中心街からどんどん離れ、古い建物が立ち並ぶ外れまで来ていた。どうやら鍛冶屋の多いエリアらしい。
火花があちこちから飛んでたり、金槌の音を聞けば、この大陸で鍛冶が盛んだと知らない人でも、そうだと気づくだろう。
「レイ、訳が分からないだろうけど着いてきてくれ。楽しく選んでる所悪かったな」
「ううん、アンナが来て欲しいって言うなら僕はついて行くよ」
「そうか」
「着いたぜ、嬢ちゃん達」
フライドさんが立ち止まる。そこは鍛冶屋街の大きな建物群の中でも一際大きな、大迫力の建物だった。鍛冶で汚れるのか、家は真っ黒で煤のようなものが付着している。
重い扉を開けて、私達は中へと入る。
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「そろそろ説明してくださいフライドさん!」
3人の簡単な自己紹介も終わり、私達はフライドさんの工房の奥の客間で出されたお茶を飲んでいた。
しかしなかなか本題を始めず、世間話ばかりする彼に私は苛立ちを覚えてしまい、つい叫んでしまった。
「嬢ちゃんはせっかちだなぁ、そんなんじゃすぐに老けるぜぇ?ワハハハ」
ウザイ…
やっぱり苦手なタイプだ。
「武器を作りたいって、僕なんかにどうして?ただの新人冒険者ですよ?」
私の頼みでレイが異世界から来たということは内緒にして貰っている。
レイは軽く記憶を失っており、どうしてそしてどうやって転移してきたかは本人にも分からない。事故の可能性もあるが、もし何者かが彼を利用するために転移させたのだとしたら、彼の事はあまり知られない方が身のためだからだ。
なので、これから冒険者ギルドで冒険者登録をしに行く新人という設定を作り、他人にはそう説明するようにした。
「なぁに、隠すことはない。君が魔術において相当の腕前だということは一目見ただけで俺にはお見通しだぜ?ワハハハ」
術式習得でのあれのことか。いきなり上位術式を手に入れたレイが、魔力に長けているのは間違いがない。しかしそれを見抜くとは...このおっさんやっぱり只者じゃない。
…中身がコレじゃなかったら尊敬できるんだけどなぁ。
「えーと、僕は…」
「レイは本当に新人です。ただ、何故か学もないのに術式習得が使用でき、謎のスキル『ANALYSIS』っていうのを所有しているんです」
「『ANALYSIS』...やはりそれを持っていたか」
不真面目だった彼の顔が、初めて真剣なものになる。
「知ってるんですね」
「あぁ、俺が感じたレイジ君の才能の正体だろう。そのスキルをもつ者は魔術学校で学ぶようなマナの法則性や性質を全て熟知していて、本能的に術式を組み立てることができる。人に聞いた話で、俺も詳しくは知らないがな」
「僕にそんな力が…」
「それならなんでレイに武器を作りたいなんて言い出したんですか?魔法のちからを持つ者に剣や斧は必要ないはずでは?」
魔法を扱うものに、剣は必要ない。子供でも知っている常識だ。しかしフライドさんはクックックと含み笑いをうかべる。
「そこなんだよ!俺が惹かれた所は!」
「え?」
「レイジ君、君は魔術の才能がありながらも君の体…いや、君の魂は魔術師になる事を望んではいない。彼は産まれながらの剣士でもある」
この世界には「ちから」というものがある。才能とも言い換えられるそれは、本来1人1個の筈だ。
「……!!!!? つまり、フライドさん、貴方はレイが…」
ここに来てフライドさんが黙る。言うべきか悩んでいるようだ。しかし言おうと決めたのか、ゆっくりと口を開く。
「...そう、レイジ君は伝説の【おとぎ話の彼】と同じように、
魔法剣士の資格者というとても希少かつ、それでいて、
畏怖すべき才能をもっているのさ」