【レイとティア】 part3
「ふぃーー!」
「ジャック無事だったか!」
僕に気づいたジャックが駆け寄ってくる。無事でよかった。しかし彼女の姿はどこにもない。ジャックもどこか慌てた様子だ。悪い予感がする。
「ジャック、ティアちゃんは!?」
「ふぃぉー」
僕の服をクイクイと引っ張る。着いてこいということか。
ジャックの後を走って追いかける。
ジャックの慌てぶり...ティアちゃんは迷子になった訳ではなく、何かに巻き込まれてしまったのか!?嫌な汗が吹き出る。
「邪魔だ!!」
道に現れる魔物達を走りながら雑に切りとばす。
真夜中になると、魔物は活性化するらしい。時刻は深夜へと向かっており、魔物たちがどんどん増えていく。ティアちゃんに危険が及ぶ可能性が一刻と増えていく。
「ふぃおんぬ!」
「そこか!?」
ジャックが示すところには、人がひとり入れるくらいの巨大な穴が空いていた。
下は洞窟になってるみたいで、空間が広がっているのがわかる。
「ティアちゃんがこの中に...?」
しかし、いくら暗かったとはいえ、こんな穴に落ちるものか?よほど慌てていれば別だけど。
「グルルルルルル」
ティアちゃんがどうして慌てていたのか、その理由が唸り声と共にやってきた。
それは、全身からヘビが生えてる、大きな熊のような魔物だった。威嚇しながら、一歩一歩着実に間合いを詰めてくる。生えている蛇は生きているのか、ニョロニョロと不気味に蠢く。
彼女もこいつに襲われたのだろうか。
「SCAN」と唱えると、熊のステータスが視界に表示される。なんと、レベルは17もあった!
「スネーキングベヤァと言うのか。レベルも高いし、完全に格上だ…」
戦う構えに入るが、すぐに思い直した。今はティアちゃんの救出が先だ。
「グルルルルルル、グルァ!!!」
熊が遅いかかる!
それを何とか交わして隙を作る。
「今だジャック!穴に飛び込め!!」
「フィオッ!」
「スキル『FROZEN』配下魔術!アイス・エイジ!!」
ジャックが穴に飛び込んだのを確認すると、僕は魔物の動きを止める。辺り一面、葉っぱの1枚1枚までが凍りつく。
「待ってて、ティアちゃん!」
僕が穴に飛び込んだのは氷が溶けるのとほぼ同時だった。
上で熊が暴れているの音が聞こえる。突然消えた僕らを探しているのだろう。しかし穴は奴が通るには小さく、既に僕らは安全な所にいた。
穴はそこまで深くはなく、怪我もなく底まで辿り着けた。どうやら逃げきれたようだ。
中はやはり洞窟になっていて音が響く。日本のお風呂場が懐かしくなる。
「グルルルルル」
熊の悔しそうな声が聞こえるが、無視して僕はティアちゃんを探し始める。
それにしても暗すぎる。僕に発光系のスキルがあれば…
ってそうか!無いなら作ればいいじゃないか。
「アクセス!術式習得」
1寸先も見えない暗闇の中だったが、まわりを漂うマナを感じられる。視界的ではなく、感覚的に視えているようだ。
僕が欲しいのは「光」の魔法だ。頭では何もわからないのに、直感にしたがいマナを並べていく。スムーズに陳列するその様に迷いはなく、まるで自分の中に他に誰かがいるような錯覚におちいる。
【 『SHINE』 を獲得しました。】
来た!『SHINE』、フラッシュ系のスキルだろう。まさか本当に願ったスキルを手に入れられるなんて。
やはり僕の「術式習得」には何かがある。アンナの言う通り、無知の初心者がここまでできるはずがない。
「スキル『SHINE』配下魔法、フェアリーライト!」
掲げた手のひらから小さな蛍火のような光の球体が現れ、僕の顔の近くを漂う。僕が移動しても光は着いてくるみたいだ。これは便利だぞ!
「ティアちゃん!」
フェアリーライトのおかげで数メートル先に倒れているティアちゃんを見つけることが出来た。
落ちた勢いで転がっていき、穴から離れていったようだ。外傷は見当たらず、ひとまず安心した。