第四話 「AHL店の男」
町の中央通りにたってる武具店「アナタのハートにラブイグニッション」、通称「AHL店」は真昼間だというのにすごい賑わいだ。
沢山の冒険者らしき人物がキラキラした瞳で防具や武器を手に取ってみたり振ってみたりしていて、いい歳してまるで純粋無垢な子供のようだ。
…そして、うちのレイさんもその一人だ。
「みて、アンナ!この防具すごい硬いよ!でもこっちのはデザインがとってもかっこよくない?
ねぇ!どっちがいいと思う!?」
「あー、じゃあそっちのでいいんじゃないか?」
「えー?でもこっちのも捨てがたいんだよなぁ〜」
お前は面倒臭い彼女か!
料亭を後にし、レイのために防具と武器を買いに来たのはいいのだが、この店は客を虜にする結界でも貼ってあるんじゃないか?大人びていたはずのレイさんがすっかり堕ちている。
少年のような眼差しで(いやリアルに少年なのだが)店を徘徊するレイさんをほっとき、私は店の外へと逃げた。人混みは苦手なんだよ。
「はぁーあ、レイったらはしゃいでさ」
独り言だったが、それに応える声があった。
「ワハハハ、この店の品揃えは男心を鷲掴みにしてしまうものさ」
私は驚いて後ろを振りかえる。
突然背後から声をかけてきたのは知らないおっさんだった。
身長はけっこう高く、がっしりとした筋肉質な男だ。年は40いかないぐらいだろうか?昔はそこそこハンサムだったと思しき、整った顔をしている。乱暴に切られた短髪や、無性髭が彼の性格を物語ってるようだ。
「驚かせて悪いな!店で楽しそうな君たちの様子が目に入ってな。デートかい?」
「いえ、違います」
「意外と冷静に否定してくるんだなぁ。もっと照れるかと思ったぞ、ワハハハ!」
「そ、そうですか」
何だこのおっさんは。初対面でもグイグイ来るタイプの、私の苦手なタイプのおっさんだ。
関わると面倒くさそうだな…逃げるか。
「すみません、飲み物でも買いに行きたいので私は失礼します」
私はおっさんに背を向け、コンビニエンスショップに向かおうとしたのだが、
「まぁお嬢ちゃん、そう急ぐことはないだろ?」
...その時、頭がおかしくなったのかと思った。
声は後ろから聞こえてきた。確かにそうだった、間違いない。なのに。
気づいたらおっさんは、私の目の前で笑っていた。
「い、いつの間に!?」
全く気づかなかった。大通りの沢山の人の中、一瞬で私の目の前に現れる事など簡単にできるわけが無い。
しかも、この中の誰も彼の瞬間的な移動に気づいてる様子もない。
ただのウザ絡みのおっさんだと思っていたが、この男...只者じゃない。今の私程度、一瞬で殺すことすら容易いだろう。
「私に…何の用ですか?」
「まぁ、そう警戒するなってお嬢ちゃん。別にやり合おうってんじゃない。暇なお兄さんの話をちょっと聞いて欲しくてさ」
「話?」
お兄さん呼びが何より引っかかったが、口にはしなかった。
「結論から言おう。君の連れの青年のための武器を私から買わねぇか?」
「え?」
急にレイが話に出たので意表を突かれてしまった。話の内容も唐突だ。
なんでレイが出てくるんだ?武器?この男は一体何者だと言うのだ!?
「説明が足りなかったな。厳密に言うとあの青年専用の、世界に一つだけの武器を作ってやりたいんだ。つまりオーダーメイドだな」
変わらずのニヤニヤとした顔で、しかしおっさんは堂々と語る。
「自己紹介が遅れたな。俺の名前はフライド。この店と契約して武器を作ってる、鍛冶屋のおっさんだ」