第十六話 「さぁ、みんなで街へ」
「遅い!!!」
戻ってきたレイとティアを正座させ、たっぷりと説教をする。
「どれだけ心配したと思っているんだ!!この街にはギルドの本部がある、敵の本拠地だ!私達の顔が向こうにバレてるかも知れないんだぞ!?私達は冒険者を1人殺しているんだ、その自覚を持ちなさい!!」
「「はぁーーい」」
肩を合わせて呑気に返事をする。緊張感のないふたりに毒気を抜かれる。ちゃんと分かっているのか…
怒られているというのに、お互いに顔を合わせてニヤニヤしてる。街で何をしたらこうなる?きっと楽しいことして遊んでたんだろうな。
私?私は違うぞ!ジャックの面倒を見ていただけだ!役目を果たしていただけだ!遊んでなんかいない!
「それで?目的はちゃんと果たしたんだろうな」
「ちゃんと買ってきたよぉ♡」
ティアがポケットから小さな球を取り出す。霊魂球を加工して作られた魔道具だ。何かが蠢く音がするが、気にしないでおこう。
「初めて見るな。これはどういったものなんだ?」
「これはねぇ、魔物ちゃん達を不思議な力で小さくして、中に入れておくことができるの♡ 遠出の時とか、飼い主さんに売り渡す時とかに使うんだよ」
普段はそんなに使わないんだけどね、と補足する。
「魔物がそれに入るの?」
この手の事情に詳しくないレイが質問する。
「うん♡ 魔物にここから出る光を当てると小さくなっちゃうんだよぉ。あとはここに入るだけ。小さくなった魔物ちゃん達は本当にかぁあいいんだから♡」
「じゃあ魔物戦では最強の武器になるじゃないか」
「も〜、アンナは考えが物騒だよ?これは、魔物ちゃんの同意が無いと使えないの!」
曰く、抵抗しようとすればいくらでもできるようだ。だから基本的には懐いた魔物にしか使えないらしい。
「じゃあジャックもその中に入れたら安全だし、周りの目につくこともないな」
「うん♡ ボールは丈夫で壊れないし、中には空気調整魔道具や餌のディスペンサー魔道具もあるんだよ♡」
「「どんな待遇だよ!!」」
ツッコミがレイとかぶる。なんか恥ずかしい...
「2人は仲良しさんだねぇ♡」
ゔっ、ティアにからかわれる。
「それより!」
気まずい雰囲気をレイが助く。
「これで準備が出来たし、やっと皆で街に行けるね!」
「そうだな」
「最初はどこへ行くの?宿?」
「いや、王宮へ行こう。宿もそこでいい、泊めてもらおう」
「ねぇねぇティアちゃん、やっぱりアンナってすごい人?」
あまり聞きなれないであろう王宮という言葉を、レイはまだ信じられないようだ。
てか、私はずっとすごい人だっただろ。
「私もアンナのお仕事に着いてはあまり詳しくないけど、王宮の大臣とタメ口で話しているのを見たことあるぅ。それにアンナ学者さんだから、名前が書いてある本も結構見かけるし!」
「へぇ〜」
尊敬の眼差しなのか、キラキラした瞳で私の顔を覗き込んでくる。
「たまたま...」
私は顔を近づけるレイから目を逸らす。
「たまたまこの国の王とは幼なじみだったんだ。それだけだ」
「「えぇぇぇぇぇええ!!!!!!????」」
お前らこそ仲いいだろ、完璧なハモリだ。そんなに驚くことか?
「いやいや、どんな人生歩んでたら王様と幼なじみになるのさ!?」
「アンナ...しゅごい.....」
「凄くない!それより早く街へ行くぞ、もう腹ぺこだ」
歩きだす私を、ふたりはわちゃわちゃと騒ぎながら追いかける。
全く緊張感の欠片もない...
こうして私たちは、街へと足を踏み入れた。
(レ)でも僕達もう既に行ったよ?
(テ)パフェ美味しかったよね♡
(ア)いやナレーションなんだからいい感じに締めらせろ。
てかお前らパフェ食ってたのか!?
(レ)いや、あれには深い訳が...
(ア)どんな深い理由があったらパフェを食うことになるんだ!
(テ)まぁまぁ、後でクッキー焼いてあげるから♡
(ア)...手作りのやつ?
(テ)うん♡
(ア)...いつものチョコチップのやつ?
(テ)そうだよ♡
(ア).....じゃあ、許す。
(レ)アンナチョロすぎ!
そう言いつつも、あのアンナを黙らせるティアの手作りクッキーが気になって仕方ないレイ少年であった。