第七話 「寄った町にて」
「街が見えてきたぞ。今日はここに泊まろう」
「やったぁ♡久しぶりに屋根の下で寝れるね♡」
セソセソ街を後にしてから四日目の夕方。今夜はこの街で泊まることになった。
宿泊は嬉しいが、少しだけ抵抗がある。
未だに僕はお金を持っていない。魔物が消滅するこの世界では、ドロップ品を売るなどという簡単な方法は使えない。霊魂球もギルドのせいで売れない。
宿代なんかはアンナ達に出して貰っている。それが本当に申し訳ない。ティアさんもギルドのせいで仕事が低迷しているのに、食費を出したりもしてくれた。
僕ももっと頑張らなくちゃ…!自分にも出来ることはきっとあるはず。
「ご主人、二人部屋と一人部屋を一部屋ずつ。1晩でいい」
「あいよ」
宿屋につき、チェックインを済ませる。この世界では荷物は全てポーチに入れられるため、手荷物もない僕らはその足で食堂に向かう。
「ここら辺ではどんな食べ物が出るのか楽しみだね、ティアさん」
僕は隠れグルメっ子だ。旅行にいったら、必ずその地域の名産を食べないと気が済まない。
この世界に郷土料理なんて概念があるかは分からないが、そもそもここは異世界、僕の知らない料理が沢山あるに違いない。
「もう!ティアちゃんって呼んでってばぁ」
コツンと頭を叩かれる。
この数日で僕達はすっかり仲良くなっていた。ずっとさん付けで呼んでいたが、それは変だからちゃん付けにしなさいと命令されてしまったのだった。
が、まだ慣れずに「ティアさん」と呼んでしまっては怒られるというのを繰り返している。
そんな僕達をアンナは何とも言えない顔で見ている。ヤキモチかな。
「まぁなんだ、2人が打ち解けて良かったよ。
子供に見える女と大人に見える男で真逆な2人だし、合わなかったら嫌だと思ってたから、安心だ」
そうは言っても、やはりアンナの顔はどこか釈然としていないようだ。やはり、ヤキモチだろうか。後で、彼女に軽々しく近づくなとか言われたらやだな( ˊᵕˋ ;)
「え゛!?レイくんっておいくつぅ?」
ティアさ...ちゃんがアンナのセリフに疑問を感じる。そういえばまだ年齢を伝えてなかったっけ。
「15だよ」
「えぇぇぇええーーー!!!!年下ぁぁ!!?」
アンナと同じようにティアちゃんも大袈裟に驚く。まぁ、傍から見ても僕が年下には見えないよね。
突然大声を出したティアちゃんが周りのお客さんに睨まれる。愛想笑いでペコペコするそのくだりは、もう見慣れた光景だ。
「レイくん、15なんだぁ...でも落ち着いてて大人っぽいよねぇ。どんな人生を歩んだらそんな感じになるの」
人生…か。色々あったことは事実だな。
この世界の方が良いなんて、そんなこと軽々しく言えない。この世界の人達にも、彼らの苦労がある。
だけど僕は、実はこの転移に感謝している。アンナ達みたいな素敵な人にも会えたし。
まぁ、隣の芝は青かったりするって言うけど。
「「「ご馳走様」」」
食事を食べ終わった僕達は手を合わせる。日本特有だと思っていたけど、こっちにも食後の挨拶をする文化はあるらしい。
食事はとても美味しかった。大きなヤモリの丸焼きが出てきた時はギョッとしたけど、アンナ達に習って食べてみたらとても美味しかった。
見た目に、慣れないだけで、肉は肉だ。全国の食わず嫌い者を叱ってやりたい。
その後、僕の分まで会計を済ませる2人の姿に、胸が痛んだ。
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その夜、僕はこっそり宿を抜け出した。2人は自室で寝ているようだ。
自分にもできること、とりあえず魔物でも狩りに行こうと思った。
レベルが上がれば2人の助けになるし、霊魂玉が集まればティアさんは喜ぶ。
金銭的なことはまだ何も出来ないが、何もしないよりはマシかなって思った。
決して僕が好戦的で、戦いが好きな訳では無い。前からゲームは好きだったから、リアルでそれができることにテンションがあがっているだけ。
前にアンナに言われた「好戦的」という言葉が、小さな棘となって心に残っていた。
小さいながら、この街にも外壁が造られていた。外壁で囲まなければいけない世界。常に死と隣合わせであることを自覚しなければならない。
前はアンナが近くに居てくれたが、今日の戦いは1人だ。夜は魔物が活発化するとかもあるかも知れない。今更ながら、少し不安になる。
あ、そうだ。久しぶりに術式習得の欄でも覗くか。なにか便利なスキルが作れるかもしれない。
「術式習得、アクセス!」
マナの動きが手に取るようにわかる。直感に従い、マナを並べていく。
このマナの操作、なんだか妙な既視感がある気がするんだけど、気のせいかな…?
多分スキル『ANALYSIS』の影響だろうか、今は気にしないことにした。
【スキルを習得しました】
水色の文字が視界に浮かび上がる。
「よし!」
早速「ステータス」でスキルを確認しようとした...
その時、その刹那、
、
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、
、
、
、
、
隣の家が爆発した。
「え?」
爆発の正体は一目でわかった。そこには大きな、大きな魔物が居た。その魔物が家を木っ端微塵に粉砕したのだ。
口が歩いてるようなその醜い魔物は破壊した家を覗き込むと、再び顔をあげた。何かを咥えている...??
よく見えない...あれは.......人!!?
その家にいた人たちを貪っている!!!
「き、貴様ァ!!」
走る。走る走る。次々と人が喰われていく。許せない!!
「スキル『FROZEN』配下魔法!アイシクルフリーズ!!」
僕お得意の戦法だ。魔物は完全に氷漬けになり、身動きが取れなくなるところを両断!!!
.....する、はずだった。
「ぅがががぁああああ!!」
魔物が吠え、身震いすると氷は全て砕けてしまった。
「しまっ!」
氷で身動きを封じれたと思った僕は、無防備に近づきすぎた!
「がぃぃがが!!」
魔物はその隙を見逃さなかった。
魔物はその見た目からは想像できないほどの高速で飛び上がると、僕に向かってドロップキックを食らわせる。
「ぅがぁぁっ!!!」
なんとか避けるも、地面すら割るその衝撃に吹き飛ばされてしまう。
10数メートルは吹き飛ばされ、防壁に思いっきり叩きつけられる。
「タハッ!」
あまりの衝撃に体内の空気が全て吐き出されるのが分かる。手足も痺れてしまい、僕は無抵抗に落下する。
「ぎぎががぁぁ!!!」
変わらずの高速で魔物が向かってくる。向かってくる巨体は絶望そのものだ。ダメージを負った今の僕にそれを避ける力も時間もない。
魔物は飛び上がると、その巨体で、僕を、踏み付ける!!!!
「っっっっ!」
あまりの衝撃に、もはや叫び声すら出ない。
2、3本なんて話じゃない、体中の骨が砕けてしまっているようだ。内蔵に突き刺さる、鋭い激痛が全身を襲う。あまりの痛みに頭がおかしくなりそうだ。
「がががぁぁぎがぁあ!!!!」
魔物は勝利に吠え、次の民家へと向かっていく。また行われる殺戮を前にして、何も出来ず、僕の意識は無抵抗に消えていく….....