第二話 「異世界転移者」
「どうするかな、これ…」
目の前には謎の魔法陣から突然現れた、これまた謎の青年がのびている。
『HEAL』が効いたのか息を吹き返し、今はただ寝ているようだ。
年は私より幾つか上だろうか。綺麗な金髪の髪をしているが、所々に黒い毛が混じっているのが目立つ。
背は私と同じぐらいで、体は細いが決して軟弱ではなく、筋肉はしっかりとついているようだ。
大蛇と戦ってから既に時間はかなり過ぎており、オレンジ色の光が辺りを照らし始めていた。
放っておくのも危ないので、取り敢えず木陰まで引っ張ることにした。
目覚めるまで待ってはいるものの、全然起きないではないか。そもそもこいつは何者なんだ。
着ているパーカーは、百姓や村民にしてはあまりに高級そうで、冒険者にしてはとてもシンプルなものだ。防御性もない。
さっきの大蛇といい、面倒ごとは続けて起きるというのは本当なんだな。人助けなんて、本来冒険者の仕事でしょうに。私にはもっと他にやらなければならないことがあるんだ。
こいつは何を呑気に寝ているんだ。起きたら問い詰めてやろう。私にここまでさせたんだ、絶対に秘密を聞き出してやろう。
そんな事を考えているうちに、いつの間にか私は眠りに落ちた。
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「あ、目が覚めたようだね。おはよう」
朝日の眩しさに目を覚ました私は、突然の笑顔と朝の挨拶に戸惑うしかなかった。
人懐っこい笑みを浮かべて私の顔を覗き込んでいるその顔は、昨日の青年だった。昨日は目を閉じていて分からなかったが、瞳は髪色に似合わず漆黒だった。まるで吸い込まれそうなほど澄んでいて、美しい目だ。
「倒れていた僕の事を見張っててくれてたの?ありがとう!」
見張ってるつもりが私も眠ってしまったらしい。何となく悔しいような気持ちになる。
「ところでさ。いきなりで悪いんだけど、ここはなんなのか教えてくれないかな?」
「はぁ?」
不機嫌さ丸出しの声で聞き返してしまった…
初対面の人に対する第一声がこれか、自分が嫌になる。朝に弱いんだ、許せ青年。
「突然だったね、ごめん。いや実は僕、どうやら住んでた所とは別な世界に来てしまったようなんだ」
青年の言ってることを理解しようとしたが、脳が完全に眠ってしまってるようだ。
その後、目を完全に覚ますのに20分ぐらいかかってしまった。
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「では改めて!僕の名前は青山・F・レイジ。異世界からやってきた…と思う。レイってよんでくれ」
隣を通り過ぎる小動物型の魔物を片目に、青年、もといレイが自己紹介する。
「私はアンナ・ミロスフィード。アンナでいい。先程は済まなかったな、寝起きはトロールより頭が回らないんだ。」
「やっぱりこの世界にはトロールとか居るんだ!」
「お前の世界には居ないのか」
「空想上とされているよ!
それより、僕の話を信じてくれるの?異世界から来たって」
「勘だけどな、嘘は言ってないように思える。それに、お前が飛び出してきた魔法陣、あれは見たことないものだった。私達が魔法を使用する時に現れる物とは余りにも違いすぎる。それこそ異世界のものであるかの如く、な」
「じゃあ、この世界には魔法も存在するの!?凄いね!!」
「!?!?!? そっちの世界には無いのか!それなら、あの魔法陣は一体……?」
口述するのは難しいが、確かにあの魔法陣は「異常」なものだった。「未知」という気持ち悪さがあった。
最初は異世界のものだからだと思っていた。不思議な術式を使う世界なんだなぁぐらいにしか思わなかった。しかし違うとなると、かなり不可解だ。まるで推理小説を半分だけ読んだ時のような後味の悪さが残る。
「考えても分からないなら取り敢えずさ、この世界のことを教えてよ。正直、突然知らないところに飛ばされて、今かなり不安なんだ」
爽やかな笑顔の青年レイも、心の中では知らない世界に困惑していたのか。
そりゃそうか。私も、突然知らないところに飛ばされたら冷静でいられる自信はないな。パニックに落ちる確率90%超えだ。
その点レイはかなり肝が座っているというか、落ち着いている奴だな。見た感じ20歳くらいだろうし、やはり年上はかっこいいな。
よし、これから見習おう。
「まず、この世界はなんて名前なの?」
「世界の名前か…考えたこともないから分からないが、取り敢えず私達がいる所はキィヴィストーン大陸のセソセソ街の外れだ」
私は今、大事な用を済ませるために、この大陸に来ていたのだ。久しぶりに来るから、懐かしさにちょっとテンションが上がっている。
「せそせそ…?」
「丁度セソセソ街に寄ろうとしていた所だ、まぁ飯でも食べながら、ゆっくり話さないか」
「せそせそ…」
レイは街の名前が腑に落ちないのか、聞き間違いではないかと何度も聞いてきた。
何を不思議がっているんだ?なんだか変な奴だな。
「拾われた異世界転移者」をお読みいただき、ありがとうございます。
この作品について、少し語らせて頂きますね。
筆者は、所謂「異世界モノ」がかなり好きで、昔から様々な作品を楽しませて頂いております。
しかし、楽しんでいる反面、時折疑問を感じる事もあります。
例えば主人公が圧倒的強者として描かれていたり、女の子が群がってハーレム状態になるというのはかなり定番化してきています。
しかし、その不自然なくらい主人公に甘い世界に違和感を感じずにはいられません。
また、主人公がそれらを鼻にかけるような描写がされていることもあり、ストレスフリーかと言われれば、素直にうんとは言えないこともあります。
そんな主人公が無双するような作品は、一般的に「なろう系」と呼ばれ、あまり一般人ウケはしていない印象です。
もしも彼らも私と同じような気持ちを抱いているのなら、一般人ウケしない理由はとてもよく分かります。
今作は、「異世界モノ」でありながら、わざと「王道」からは外して書いています。ダブル主人公を採用していてメインの主人公が女の子なのも、物語が現代の日本から始まらないのも、王道から外れていった結果です。まぁ、作者がひねくれているだけかも知れませんが(笑)。
しかし、王道とは離れている今作であるからこそ、今までは「異世界モノ」に抵抗を持っていた方にも親しみやすくなっているのではないでしょうか。
その真成は分かりませんが、この作品で「異世界モノ」に興味を持った彼らが、私の大好きな他の作品も好きになってくれたりしたら、私は天にも登る喜びを受けるでしょう。もう最高です、本望です。
上述した通り、この作品は作者が感じた「違和感」や「不自然さ」から産まれた作品です。ですので、そういった感情が読者に生まれないよう、とても気をつけて書いています。
でも読んでて、時たま「あれ?」って思うことがあると思います。「そんな訳ないだろ」とツッコミを入れられるかもしれません。
しかし皆さん覚えておいて下さい、「それは伏線です」
皆さんが感じたその疑問には必ず「意味」があります。
そういった要素も楽しんで頂けたらと思ってます。
とは言っても、ただの作者のミスである事もありますが(笑)。
それでは皆様、今後とも「ひろてん」、是非楽しんでください!!!末永くよろしくお願い致します!!!!!!
あなたのデスVoiceより