第五話 「ジャック」
「ねぇ、アンナ。これからどうするの?」
「いい加減教えてよぉ」
「そうだなぁ、じゃあ日も暮れてきたし、ここらで休憩しよう。目的地の話もしゆっくりよう」
「わーい♡ きゅーけー!」
私達がセソセソ街を出てからまる一日が経とうとしていた。
ティアはすっかり持ち前の明るさを取り戻していた。甘ったるい喋り方は健在だ。
だが、その心の傷が決して癒えた訳では無いのは私達の目には一目瞭然だ。それでも彼女は笑っていた。
悔しい。私は回復役なのに、彼女の心の傷は治せない。
だけど、これ以上傷つくのを止めることは出来る。
何もしていないのに邪険に扱われ、差別を受けているのに平気な訳が無い。
彼女を守ってやれるのは...私達だけだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
野宿の準備ができた頃には、辺りはもうすっかり暗くなっていた。レイの用意してくれた焚き火がとても温かかった。
「私達が向かうのはここ、首都のロキロキだ」
地図を広げ、指さした。
地形のみを描いた、簡潔版だ。ここまで正確に描くのは凄いことだと思う。もはや異能と言っても過言ではない。鼻高々だ。
「アンナが描いたのぉ?凄い♡」
「こんな大陸に僕は転移してきたのか」
ティアには、レイの事情は既に話してある。彼女は意外にもすんなり話を受け入れた。曰く、「そんな日もあるよぉ♡」だそうだ。
「私達は今ここら辺にいる」
「なるほどね♡」
「そして今描いた、この赤い点線のルートを通ってロキロキに行くことになる」
「どれぐらいかかるの?」
土地勘のないレイが尋ねる。確かにこの地図では距離感がつかみ難いな...改良の余地、あり。
「1週間もあれば着くだろう。途中に小さな街や、村がいくつかあるから食料調達も問題ない」
「あ、そうだぁ!昨日あやふやになった霊魂玉、取り敢えず幾つかだけでも貰えないかなぁ?あの子を復活させてあげたいの♡」
「お、そう言えば連れてないな。早く使ってやるといい」
ポーチから霊魂球を取り出す。昨日の騒動で何個か無くしたみたいだが、まぁいいだろう。
「わぁーい♡」
「あの子?」
私は霊魂玉を10個ほどティアに渡してやる。受け取った彼女は、嬉しそうに鼻歌なんか歌いながら、地面に魔法陣を描き始めた。
「ティアさんは何をしているの?」
「使役のちからを持つ、彼女の職業はテイマーなんだ。簡単に言うと魔物を飼育して強くし、言うことを聞かせるようにする職業だ」
「凄いな、ポ▪▪▪トレーナーみたいなものか」
「いや、それは知らないけどな...
そんな彼女が売らずにずっと連れてる相棒が居たんだ。そして、魔物のスペシャリストである彼女は、魔物を蘇生する術を持っている」
魔法陣が描き終わったようだ。私に貰った霊魂球は外周に均等に並べられている。最後に、彼女は大事そうに懐から小さい霊魂球をひとつ取り出すと、それを魔法陣の真ん中にそっと置く。
下がって、と手振りで伝えられたので魔法陣から離れる。彼女は膝まづき、両手を魔法陣に当てている。
「スキル『TAMER』配下使役術!リバイバルアゲイン!」
ティアがそう叫ぶと魔法陣から物凄い光量のオレンジ色の光が放たれる。何本もの光の柱が放たれる様はとても美しい。
どごごごぉぉおーーーん!!
爆音とともに光が止む。魔法陣の中心、霊魂球が置かれていたところには代わりに、1匹のうさぎ型の魔物が立っていた。うさぎ型と言っても、額からは角が生えており、どちらかと言うとジャッカロープだ。
「ジャックくん!」
「ふぃおーーーん」
ティアがそう呼んで腕を広げると、ジャックと呼ばれた魔物は彼女へと駆け寄り、胸に飛び込んだ。
「ジャックくぅーん、会いたかったよぉ♡」
「ふぃぃーふぃおんぬ」
ジャッカロープ特有の不思議な鳴き声で甘える。ティアに撫でられて、新底気持ちよさそうだ。
「あれが、ティアさんのペットの魔物?」
「紹介するね♡ ジャッカルロープのジャックくん!」
「ふぃおーー」
緑色の毛並みが、夜空に照らされ美しく輝いている。
レイは戸惑っている様子だ。魔物は敵だという認識しかなかったからだろうか。こうして人と馴れ合う魔物が居ることに驚いているようだ。
「久しぶりだなジャック、元気だったか?まぁ、蘇生後にきく質問じゃないか」
私もジャックを撫でると、彼は気持ちよさそうに目をすぼめる。
レイも恐る恐るジャックを撫でると顔を舐められていた。可愛い。
「ふぃおおーーー♪」