第三話 「テイマー」
「エイ・ティアと申します♡」
「うん、さっき聞いたよ?」
話数を跨いだからってなんで2回言った?ツッコミを入れる僕を無視し、アンナは懐かしそうな表情で顔見知りの少女と話し始める。
ティア…さん?は見た目こそ、背も低いし12,3歳の少女に見えるが、アンナとの距離感から実はもっと歳上なのかもしれない。
アンナの飾り気のない革のコートとは対象に、彼女が来ている服はフリフリのついた可愛らしいものだった。大きな黒いリボンで結んでるその白い髪は、ほのかにピンクかかっていてとても綺麗だ。
「それにしても久しぶりだなぁ。4ヶ月ぶりぐらいか?」
いつもはクールぶってるアンナだが、ティアさんと会えたのがよっぽど嬉しいのか、柄になくはしゃいでいた。
「そうだねぇ♡
アンナは元気にしてた?」
「あぁ、こうして無事生きてるよ。ティアは元気か?」
「まぁまぁかな…
ところで!そちらのお兄さんは?」
「紹介するよ、彼の名前はレイジ」
「青山・F・レイジです。レイって呼んでください」
「よろしくぅー、レイくん♡」
彼女は僕の手を握るとブンブンと振る。人懐っこい性格なのだろう。僕も笑顔で手を握り返す。
積もる話もある2人は、再び話始める。楽しそうに笑い合うアンナとティアさんを見ているとこっちまで幸せな気持ちになってくる。
この2人は本当に仲が良かったんだ。アンナに友達が居るなんて思いもしなかった。
「さて、そろそろお仕事のお話しようか♡
霊魂玉沢山集まったのかなぁ?」
「ティアのために沢山集めておいたぞ。レイも手伝ってくれたんだ」
「まだ今日1日しかやってないけどね」
そう言って僕とアンナは、集めた霊魂玉をテーブルの上に並べていく。それらは大小様々で、よく見ると模様やデザインが少し違っている。どうやら魔物によって違ってくるようだ。
「ありがとぉー、アンナ♡レイくん♡」
「ティアさんも冒険者じゃないんだよね?こんなに集めて、一体何に使うの?」
「えーとね、それは、」
「お客様。」
急に会話に割り込んできたのは、店員の男だった。胸の名札に店長と書かれている。
ふと違和感に気づく。店がやけに静かだ。
見渡すと、店にいる客という客が全員、こちらをじっと見ている。
店長にも客にも共通していることがあった。皆鬼のような形相でこちらを睨みつけている。
「会計出しますので、今すぐに出て行ってもらいます。」
敬語を使ってはいるものの、その声は厳しかった。
「僕達が何をしたっていうんですか!?」
何がなんだかわからない。一体なにをそんなに怒ることがあるというんだ。何を言われているんだ?
「おい、店員」
冷たい声で話かけたのはアンナだった。声のトーンは低かったが、憤怒しているのが伝わってくる。
それは、僕が冒険者になると言って怒られた、あの時と同じ感じだった。
「これは彼女個人による買取だ。ギルドの定めた法には引っかからない」
冷たい声でアンナが云う。
そんなことでこの店の店主は僕達を追い出そうとしている?
霊魂玉をギルド以外に売ったからというだけの理由で?
訳が分からない。
これではまるでギルドを信仰しているみたいじゃないか。ギルドがこの世界の人にとってどんな存在なのかは分からない。でもこれは明らかに異常だ。
アンナは言った、霊魂球売買の店を出さなければ合法だと。しかし、彼らはそれすら許さない。咎める必要のないものに、目くじらを立てている。
まるで異教徒と戦争する宗教軍みたいだ。歴史の授業を思い出す。放っておけばいいのに、わざわざ争いを起こす。
「他のお客様も居ますので。それ以上迷惑行為を続けられるようでしたら、実力行使で追い出しますよ。」
「おまえ…!」
アンナが怒って立ち上がったその瞬間、アンナの額に何かが高速で飛んできた。
慌てて飛んできた方を見る。どうやら客の1人が持っていた木のフォークを投げつけてきたようだ。
「アンナ、大丈夫!?」
もう一本投げてきたので、剣の鞘でたたき落とす。
「何をするんだ!!」
その客を怒鳴りつける。木出できてるとは言え、頭に当たったんだ。冗談では済まされない、下手したら大怪我する可能性だってある。アンナは痛みでうずくまっている。
「お前!自分が何をしたか分かっているのか!!?」
「テイマーだろ!」
「え…?」
帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「そこのガキ!テイマーだろ!!この汚らしい反逆者め!」
「貴様ああああああぁぁぁ!!」
次の瞬間、アンナは男を殴り倒していた。
「出て行ってください。」
「黙れぇ!クソ店員!!
こんな店こっちから出ていってやる!!
いくぞ!レイ!ティア!」
「アンナ!!危ない!」
背後から殴りかかってきた男を慌てて殴り倒す。人を殴ったのは人生で初めてだったが、抵抗はなかった。
「レイありがとう」
僕達は、終始一言も発さずに震えていた、怯えきったティアさんをつれて店を出た。