#3 「超演算者」の少女 6
「本当にありがとうねぇ」
夕暮れのオレンジが照らす広場で、少し腰の曲がった老齢の女性がペコペコと頭を下げている。
中心街から少し外れた所にある、三坂公園だった。ジャングルジムやブランコ、砂場など、子供が遊ぶのに必要な遊具は一通り揃っている印象だが、反対に人気はあまりなく、周囲を囲む柵にはかなりの老朽化が伺える。近傍にはマンションがあり、柵の外はその駐車場で2メートル弱ほど低くなっているため、安全管理が行き届いているわけではなさそうだ。そんな公園を、祐樹とゆかりは老齢の女性との待ち合わせ場所にしていたのだった。特に深い理由はなく、先ほどの強盗事件がたまたまこの公園の前で起こったためにこの場で待っててもらっただけだ。
「やーやー、そんな大したことはしてないで〜すよ?」
「そーだぜ!?こんな軟弱野郎一人捕まえるのなんてお茶の子さいさいってか」
結構な身長差のある居舞と祐樹が二人揃って照れたようにはにかんでいる。
弘毅は男が逃げないように見張っていた。彼の能力は居舞の能力と同調することで「対象一人を空間座標と同調させる」、つまりその場に縛りつけたり望んだように動かしたりすることができるようになるらしい。思いつきで考案した応用術だが、こうして弘毅は男を通りからここまで引っ張ってきた。今は手を縛られてうなだれている男に向かって罵詈雑言を浴びせている。一方のゆかりと直樹は彼らから少し離れた所で警察の事情聴取を受けているようだ。
照れた表情を崩さないまま、老齢の女性と二人は雑談を続ける。
やがて、居舞が思い出したように少し視線を下げて尋ねた。
「そ〜いえば、その箱って何が入ってるんですか?綺麗なラッピングがしてあるけど、もしかしてプレゼント?」
「そうよ。今日は孫娘の誕生日でね」
少し皺のある顔つきに、喜びが滲む。
手の中にあるのは、ソフトボールが1つぴったり入るほどの大きさの、立方体の箱だった。ピンクをベースにしたマスコットキャラの包装紙に、少し濃い赤のリボンが十字型に巻きついて蝶々結びで留められている。
老齢の女性は続けた。
「髪留めが入ってるのよ。ちょうど今翠ちゃんがしているようなリボンが付いてるわ。大きさは少し小さいけれど」
「ホントですか!?いや〜なんかそう言われると余計に照れちゃうなぁ〜」
「ふふっ。でも本当にありがとうね。翠ちゃん。それに祐樹君も」
包みを挟んで3人が微笑む。涼しさを帯びた優しい風が、彼らを撫でるように心地よく流れていた。既に日は沈みかけているが、心は日差しを浴びているように暖かい。
ふと後ろから声がかかる。
警察の事情聴取を終えた二人が帰ってきたのだ。
「みんな、もうそろそろ帰ろう。時間も遅いし。弘毅も『金目当ての強盗なんてったくこんのクソ野郎があぁぁぁ!!』とか言ってないで。あとは警察が処理してくれるから」
「・・・わかった。帰るか。おばさん、じゃあ俺達はこれで」
「うん。さようなら。今日は本当にありがとうね」
それぞれが挨拶をして帰ってゆく。少年達が帰った通りからは、彼ららしいふざけてはしゃいだ声が耳に入ってくる。老齢の女性は、彼らの帰った道とは公園の角で交差する形で通っている道を住宅街に向けて歩き始めた。
「あ、お母さん!おばあちゃんいたよ!おーい!!」
少し先で手を振る少女が祖母のもとへ駆け寄ってくる。
その顔にあるのはアーケードでの助けを求める泣き顔ではなく。
ポニーテールがよく似合う、無邪気で心優しい笑顔だった。
今回の話は直樹達の身近にいるビックリ能力を持つ同級生の話でした。
こんな感じの話をやってみたいなぁと書き始めた時から思ってましたが、主要4人の能力についての説明がまだ曖昧のまま残っているので、今後の展開で明らかにしていきたいと思います。
次回は肝試しの話をやろうと思ってます。長さはまだ未定ですが、次回も読んでいただけることを切に願って執筆に取り掛かりたいと思います。