井戸端会議
「——なんて事があったのよ」
その日の放課後、私は友人の貝塚里奈に呼び出され、街中にあるファミレスに足を運んでいた。平日の十七時ではまだ客も少なく、六人ぐらい座れる席に図々しくも向かい合って座っている。
「……それってさぁ」
里奈は相変わらず足を組む癖があり、無意識に短いスカートを強調していた。
時折ファミレスに入ってくる中年の男性が、チラチラとこちらを見ているのが妙に視界に入る。
「美羽の事、好きなんじゃないの?」
「あり得ないわ」
「即答ね、もう少し考えてみなさいよ。もしかしたら、もしかするかもよ?」
「あり得ないわ」
「もう少し考えなさいって」
私は注文したメロンソーダを飲み込みながら、里奈の質問に顔色一つ変えずに返答した。
さすがにこの一件だけでそう思えるほど、私の頭の中はお花畑では無い。
むしろ逆に、普段人と接しない私の反応を見て楽しんでいたのではないか、という可能性のほうが高いとさえ思っている。
なにせ、長い髪を後ろでくくっただけの髪型、度の強い眼鏡。
スタイルも良いように言えばスレンダー、悪いようにいえば凹凸が無い。
顔は里奈曰く「美人」と言ってくれるのだが、他の人から言われた事がないので微妙なところ。
そんな「地味」を体現したかのような存在が、有栖川美羽という女だ。
……この名前以外は、という例外はあるが。
ちなみに補足しておくと、里奈は私とは違い一般的に「ギャル」と言われる格好をしている。化粧もして、キラキラと輝くイヤリング、さらには女性らしいグラマラスな体型と可愛らしい顔つきに、挑発的な服装。
当然男子からは相当に人気のあるはずなのだが、これも不思議な事に、どうにも男性関係の噂はこれっぽっちも聞く事が無い。双葉といい里奈といい、私の近くにいる人気者は何故にこうも奥手なのだろう。
「ふーん、でも美羽もようやく、男子と喋るようになったんだ」
「里奈と違って、色恋話じゃないけどね」
「いやいや、私にとっては十分に色恋話よ。もう胸がきゅんきゅんするわ」
「嘘つき」と呟く私を見ながら、里奈は「ふっふっふ」と嫌らしい笑い方で返してくる。かつての中学時代の親友の性格は、相変わらずひねくれているようだった。
もっとも、私も十分にひねくれているのは自覚しているので、お互い良い意味で相性がいいのだろう。
現に、高校が家の関係で別々になってしまったが、会えば話が盛り上がる。
里奈も里奈で、私の性格上、ちゃんと学生生活を送れているのか心配な面もあるのだろう。今の私には出来すぎた親友である。
「それにしても、美羽ももう少し良い感じの本を貸してあげればいいのに。えーっと、裏切りの友と真実の愛……だっけ? 昼ドラみたいじゃない」
「でも喜んで読んでくれたみたいよ。それに、ちゃんとハッピーエンドだし、物語もタイトルほど重くないから大丈夫」
「普通そこはね、世間一般に合わせて有名な本を出すのが図書委員なのよ、たぶん」
里奈は続けて、その「有名な本」の例を次々とあげていく。
ギャルの口からこうも本の名前が飛び出してくるのは私の影響だろうか。
もしそうなら、素直に嬉しい話だ。
「これを機に、一気に近づいちゃいなさいよ!」
しかしそのギャルは、いつも以上に張り切って、私の恋路とやらを応援する。
恋の心構えすら出来ていない状態で、一体何に近づけというのだろうか。
いや、里奈のような性格なら、そんな事は関係ないのかもしれない。
学生の恋愛に、意味だとか哲学だとか考えるほうが可笑しいのかもしれない。
だが、私は正直、悪い予感がしていた。
双葉は何も悪くないが、その周囲を取り巻く人間もそうである保証は無い。こういう微々たる所から、苛めやら無視やらは始まるのだ……と、どこかの本に書いていた気がする。
(——いや、でも、結局はいつも通りなのかな)
しかしそれは最終的に孤独になるプロセスなので、最初から孤独な私には、もはや関係無いのかもしれない。まぁ、どちらにせよ、軽く精神的ダメージを受ける結果となった。




