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第45話 時間稼ぎ



「(くっ……こいつら……!)」



誤算だった。


魔族の鋭すぎる五感、こうもたやすく勘づかれるとは。


魔族3人が潜伏していた空き家、魔道具も一緒にそれを発見することは出来たが、私の心臓の音ほどの小さな音で気づかれてしまい戦闘となってしまった。


周りの壁や家やらをうまく使い、立体的かつ縦横無尽に飛び跳ね、私を囲うように動く魔族。


3人のうち一人が接近し、その他2人は反対側、つまり私の死角に回り込むように常に動くのだ。


目の前のひとりに対応している私に隙があったらすぐに後からそこを突いてきて、そちらに対応すれば、今度は対峙していた1人も死角に回り込もうと動き出す。


馬鹿みたいな力の強さ、私の身体強化と同等かそれ以上の可能性もある程だというのに、非常に慎重で隙がない。


ドン、と私の背中に強い衝撃が走る。



「うっ……!」



まただ、本当にうまく隙を付いてくる。


攻撃の方向に右手のナイフを振るうが空振り、すぐに間を取られてしまう。


私の体力はジリジリと削られていく。



「(埒が明かない、死角を生まないように3人に対して動き回るのにも限界があるわね……)」



先に1人ずつ片付けて行こうと1人に集中して攻撃していくも、体術の差はそこまで無い。


故に倒しきれるかは微妙。


そして追い詰めることが出来たとしても、残り2人と途中で入れ替わられてしまう、いわゆるスイッチだ。


さてどうしたものか、と私は今後のプランを考える。



「<ユリ様、奪還対象を確認、敵組織1人と交戦中です。>」



と、突然私の頭の中にセラの声が響いた。


奪還対象、今回の場合は魔道具作成の責任者であるローネスと、魔道具。


こちらには魔道具があることが確認できたから向こうにローネスが居たのだろう。


私もセラに通信を送る。



「<了解。そっちもあたりだったようね。あの子が絞り出したエリア2つとも当たりか…。>」



アリベスの赤い髪の隙間から覗く鋭い目付きと狡猾な笑みが思い浮かぶ。


私はあの子に苦手意識があるが、仕事だけはやはり正確だ。



「<そっちも、ということは、そちらにも?>」



セラが疑問を投げてくる。



「<ええ。こっちはちょっと面倒ね。敵が計3人いるわ。>」



有り体にいえばちょっとどころではない。ものすごく面倒ではある。


しかしここで厳しいとは言えない。


これはただの私の小さな見栄のようなものだ。


しかし察しのいいセラだ、面倒、と伝えただけで文字通り飛んでくるだろう。


続けてセラから言葉が飛んでくる。



「<やはり魔族、でしたね。>」


「<えぇ。ガドとアリベスの忠告通りね。そっちが終わり次第応援に来てちょうだい。>」


「<了解しました。>」



正面や時に後ろからなされる攻撃をぎりぎりでかわしながら、ふぅ、と息を吐く。


正直、セラという保険があると、心の余裕が簡単に保てるのだ。


その心の余裕は、相手3人を倒し切るという思考から、セラがこちらに来るまで1人でも多く倒しておくという思考にシフトさせる。


1度横に大きく逸れ、魔族たちから距離をとった。


魔族たちは距離をとる私を追わずに、その場で足を止める。



「逃げるか?俺達は構わないが。」



随分訛りの強いルシリア国語だ。



「安い煽りね。ふふ。」


「?何がおかしい?」


「あなた達、随分慎重なようだけれど、そんなに時間をかけて大丈夫かしら?」


「……俺達は焦って失敗するような素人じゃない、残念だが、お前に隙はみせない。」


「あらそう。あなた達がそれでいいならいいのよ。」



私は手のひらからゆっくりと火魔法を生成する。


向こうが魔法を使えないのであれば、私の魔法を防ぐ手段は、躱すか肉体の頑丈さにものを言わせて弾くかの2択だ。


ならば、向こうがあまり見たことのないだろう魔法で対応しにくくするのみ。


生成した火魔法は通常の赤から温度をどんどんと上げていき、青くなる前の白に調節。


火球の球体として顔ほどの大きさで形を整え、それにさらに魔法を加える。


それを魔族3人のうち1人にゆっくりと放った。


火球はふわふわと1人に向かって飛んでいく。



「……なんのつもりだ?当てる気はあるのか?」



数歩横に歩き、火球の射線から体を外す魔族の1人。


ほか2人の魔族も呆れたような目で私に注意を向けつつ、その火球を眺めている。


しかし、火球は射線からそれた魔族に向かってゆっくりと向かい出す。



「なるほど追尾機能つきか。だがこの遅さならまず当たらない、……っ!?」



再びこちらに目を向けた魔族が目にしたのは、同じように丸く光る白い塊。


それが約20、私の周りをふわふわと浮遊している光景だった。



「1人ずつ殺していくわ。」



1番近くにいた魔族の男一人に、体の周りに火球を浮遊させたまま突っ込む。


その男は私の周りの火球を器用にかわし内側に入り込んでくる、1体1の肉弾戦。


ほか2人は、この火球の漂う私の周囲に入ってこようとしない。


おそらく私が近づくことで強制的に内側に入れたこのエリアに入り込むことでどうなるか分かっているのだろう。



「くっ……!」



繰り広げられる私と男の肉弾戦、肉体同士のぶつかり合いではありえないような、ガンガンといった音が響く。


私に体術で押されているという訳では無いのに、焦りの表情を浮かべる魔族。


理由は単純、私の周りに漂う火球がスペースを埋め、魔族の男の背後に少しずつ迫っているからだ。

上も後ろも横も隙間なくドームのように魔族の男に迫ってくる火球。


中は地獄のように熱いが、私は冷却魔法でいくらでも耐えられる。



「꿣芽賯벁!!」



魔族語で悪態をつく魔族。


このままでは時間の問題と判断したのだろう。


男は顔を両腕で覆い、意を決してドームを突き破って外に転がり出た。


ゴロゴロと転がり、体にまとわりついた火を消すように動く。


だが、火は簡単には消えない。そういう魔法を組み込んである。



「꿣芽賯、꿣芽賯벁벁!」



炎に包まれ見悶える男、あれだけの炎に包まれて動けるのは、魔族の頑丈さがあってこそだろう。


最終的に耐えきれなかった男は、自身に向けて水魔法をかけた。


バシャリ、と滝のような水を自身に浴び、火は消えた。



「はーーっ、はーーっ、はーーっ」



たった一度の魔法を使っただけで、男は考えられないほどの魔力を消費をしている。


あの様子だと相当な魔力が欠乏しているようだ。


ともあれその隙を見逃す私ではない。


再びその男と距離を詰めようと近寄る私だが、残った2人のうち1人は私に飛びかかり、もう1人は魔力不足の男に近づき、なにか黒いものを食わせた。



「(何を食わせた?)」



私に飛びかかってきた男は、火球の塊が隙間をなくす前にすぐに抜け出す。


つまりヒットアンドアウェイ。


一方、何かを食わされた男は、呼吸も安定し、少し疲れているようにみえるが元の状態に回復したようだ。


魔力を回復させる何かを食わせたらしい。


本来はそんな都合のいい物は存在しない。


あれが魔族が人間の領土に踏み込めるようになった理由か。



「随分と姑息な手を使うじゃないか。おかげでうかつに近寄れない。」


「褒めても何も出ないわ。」



私の周りの火球が漂っている外側から、それとは別で少しずつ迫る火球を交わしつつ男が話しかけてくる。



「ひとつ疑問なんだが、これだけの火球の数の生成と制御、人間の魔力量では不可能だ。そうだろう?」


「そんなことは無いわ。現に出来ているじゃない。」


「それがおかしいと言っているんだ。お前、さてはエルフか?」


「違うわよ。」



私はフードをとり、耳を見せる。



「ほら。耳も尖ってないわ。」



その瞬間、男の1人は目を見開く。



「……驚いたな、とんだ美少女だ。その顔の造形なら魔族領でもやっていけるぞ。」


「どうも。……あら、もう少しお話をしていたいけれど、残念。時間よ。」



私は周辺を漂う火球と魔族を追っていた数個の火球を消す。



「?」



怪訝な顔を浮かべる魔族たち。


辺りには火球の光を無くし、月明かりのみの暗闇が覆った。


それからすぐ。


隕石のようにすごい速度でやってきた何かが、地面に着地する。


ズザザと数メートルの地面との摩擦で静止した。


その何かは、抱えていた気絶している魔族の男の1人を魔族3人の前に放り投げ、私の方を向きフードをとる。



「お待たせしました。」



セラ・レナウン、その青く美しい髪が、月明かりに反射してキラキラと輝く。

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