第40話 熱い視線
「うわぁ!ミートスパゲティですよ!」
「そうね。とっても美味しそう。」
今日のメニュー、という小さい看板に記されている昼食を見る。
今日は決められたメニューを受け取る形式。
時によってはバイキング形式であったり、自由に注文する形式であったり、お金を払えばデザートなんかも購入できる日もあったりと、自由度の高い食堂。
どうやら学院長が食にこだわる人なようで、このような形になった、と聞いたことがある。
ともあれ、私たちは3人で料理の受け取り口に並んでいる。
少しずつ列は進み、受け取り口に近づくにつれ香ばしい匂いが漂ってくる。
油断するとお腹がなってしまいそうだ。
「お昼のあとはどうしようかしら。授業は明日からだし、今日は暇ね。」
ユリーさんがお昼を食べたあとのことを考える発言をする。
そうか、入学式とガイダンスを終えた今日はもう何もすることがないんだ。
私はミートスパゲティのことしか考えられてなかった脳内に、少し隙間を作る。
「外出許可日以外は学校の外に出ることもできませんし、部屋で過ごすしかないのでは?」
「……そうね。今日はゆっくりしましょう。」
「あ!」
私は珍しく閃く。
「そういえば購買にちょっと面白そうなものが売ってましたよ!暇つぶしにはこれ!みたいな売り文句で。50枚くらいのカードの束なんですけど、数字が記されてて。」
「ああ、トランプね。王都でちょっと流行ってる。」
「学校で遊び道具を売っているのですか?」
セラさんが驚いたような声をあげる。
「えぇ。なんでも確率論やら計算量やら記憶力、洞察力、その他諸々が鍛えられるからと学院長が仕入れてきてるらしいわよ。」
「へぇー遊びも勉強ってことですかね。」
「たしかに鍛えられますね。突き詰めれば特に確率の計算になるトランプのゲームは多いですし。」
「詳しいんですね!セラさんはやったことあるんですか?」
私はセラさんに問いかけた。
しかし一瞬の静寂。気にならないような一瞬の間のあと、セラさんは「はい。」と答えた。
「私、トランプは大得意でして、どんなゲームでも負けないと自負しております。」
「トランプっていろんな遊び方があるんですか?」
「ええ。私は2つくらいしかしらないけど、セラはいっぱい知ってるみたいね。」
「じゃあお昼のあとは3人でトランプしましょうよ!」
「そうね。」
「構いませんよ。」
私は逸る気持ちを抑え、やっと目的のミートスパゲティを受け取る。
うわぁとっても美味しそう!
ユリーさんもセラさんもミートスパゲティを受け取り、3人で空いている席を探して座った。
私とセラさんに、向かい合ってユリーさん。
「頂きます!」
「頂きます。」
「頂きます。」
フォークでくるくるとソースと麺を絡めとり、口いっぱいに頬張る。
しっかりとした味付けのソースが、柔らかくしっかりとした食感の麺と合わさって丁度いい。
小さな肉もアクセントになってやみつきになる。
美味しい……。
目の前のユリーさんを見ると、やはり綺麗で上品にスパゲティを口に運んでいる。
しかし。
「(ん?っ……なんだろう……。)」
そのユリーさん越しに強い視線を感じる。
圧力を感じるような、マイナスな感情が伝わるような、悪寒のする視線。
私は口の中をもぐもぐさせながら、その視線の方を見る。
「(あれは……たしかアリベスさん…?)」
赤黒い髪を肩の辺りで切りそろえ、目にかかる程度の前髪の隙間からこちらを強く睨んでいる。
睨みながら手元を見ずにミートスパゲティを口に運んでいる。
器用だ……。
いやしかし、こちら側を強く睨んではいるが、私とは目が合わない。
「(セラさん…を睨んでいる……?そういえば、自己紹介の時も……。)」
アリベスさんは自己紹介のときもセラさんを睨んでいた。
周りにも険悪な関係だとひと目でわかるほどに。
現在、当の本人であるセラさんは、付属のサラダを頬張っている。
気づいていないのだろうか……。
「(うぅ…居心地悪い……。)」
その後も食事は進み。
やがて全員が完食した。
アリベスさんも食べ終わっているが、動くことなくセラさんを睨んでいる。
「さて、それじゃあ食器を下げたら購買に行きましょう。」
「ユリ様、ミヤさん。先にトランプを始めていてください。私は少し用があるので。」
セラさんは用事があるという。
先程までそんなこと一言も言っていなかったけど。
「あらそう。それじゃあ先に行ってるわね。行きましょうミヤちゃん。」
「え!」
先に歩き出してしまうユリーさん。
「ミヤさん、また後で。」
「セラさん……大丈夫ですか?」
この流れだと恐らくアリベスさんとなにか話をするのだろう。
私の心配を悟ったのか、セラさんは力強く答えてくれた。
「大丈夫ですよ。何も問題ありません。」
「セラさん、大丈夫でしょうか……。」
私は購買で目的のものを買い、部屋にたどり着いた。
2人でテーブル近くに腰掛け、ユリーさんに問いかける。
「ふふ。大丈夫よ。帰りが遅いようだったら迎えに行きましょう。」
笑顔でユリーが答える。
ユリーさんは全く心配していないようだ。
信頼しているからこそなのだろう。
「でも……。」
「大丈夫。彼女は見た目より強いのよ?」
「…私たちがはじめてあった日も、守ってくれましたしね。」
「そうだったわね。まぁそういうことよ。彼女は大丈夫。」
「そうですね。そうですよね……。」
ユリーさんは私が安心したことを察し。
「それじゃあ始めましょう。」
ユリーさんはカードの封を切り、テーブルにカードを並べていく。
火や水、月と太陽のマークが書かれた4種類に分けられ、1から13までの数字が振られたカードがあり、全部で52枚。
それと例外のカード2枚を含み、全部で54枚あるようだ。
「この他とは違う2枚のカード。なんだか綺麗ですね。」
1枚には昔魔法を開拓した大魔導士、もう1枚にはドラゴンがなかなか恐ろしげに描かれている。
「その2枚はジョーカーと呼ぶそうよ。大魔導士を道化師扱いなんてどうかとも思うけれど。」
「それは……たしかに。」
ふふ、と柔らかく笑うユリーさんは、カードを集め、シャッフルをする。
シャッシャとカードを切る音がテンポよく鳴り、心地よい。
すごい早い…ユリーさんは手先も器用なんだなぁ。
そして裏にしたままカードを規則的に並べていく。
「神経衰弱、メモリーっていうゲームなんだけど、順番に2枚ずつカードをめくっていくの。同じ数字を引けたらそのペアを獲得して、もう一度引ける。最終的に持ってるカードの数が多い方が勝ち。簡単でしょう?」
「仰々しい名前ですね……。違う数字のカードを引いてしまったらどうするんですか?」
「そのまま元に戻すのよ。」
「あぁなるほど、覚えておかなきゃいけないんですね。だからメモリー。」
「そう。それじゃあどちらから始める?」
「引きたい!引きたいです!」
「どうぞどうぞ。」
私は裏返った52枚のカードを見つめる。
ジョーカーは抜かれているので52枚。
まだ1度も引いていないので、情報は全くない状況。
まぁ考えても最初はペアを引くことは出来ないだろう、とりあえず目に付いた1枚をめくる。
「月の4……。」
次はなにかのマークの4を当てれば、ワンペア獲得、ということだ。
「せい!……あ!4ですよ!!」
「あら、凄いわね〜、負けてしまうかもしれないわ。」
学年一位のユリーさんに記憶力で勝てるとは思えないので、こういうラッキーに頼るしかない。
故にこの初手の引きは幸先がいい。
ペアを引き当てられたらもう一度引けるらしいので、私は次のカードをめくる。




