第3話 動物は意外と表情が豊か
書き溜めをばばっと放出。
大口をあけ、飛びかかってくるティラノサウルスもどきを、横に回避しすれ違いざまに頬に拳をねじ込む。
飛びかかってくるティラノサウルスもどきを上に飛び越え、頭を強く踏みつけ回避する。
何度も繰り返しているが、どうにも有効打を与えられている気がしない。
逆にこちらは1度でも噛みつかれたら、マスターのいない私は即終了。
そんな緊迫感で、しかし頭は少し冷静になる。
ティラノサウルスもどきは、もどかしさでどんどんと、ボルテージを上げているように見える。
私はサポートから送り込まれる地形情報を元に、先程ティラノサウルスもどきがやってきた方向を見やる。
たくさんの木が薙ぎ倒されている場所だ。
へし折られた木は、私の腰のあたりのたかさから折れており、鋭く刺々しい。
なんとか利用できないだろうかと、地面から90度垂直に立つ、いくつかの半ばから折られた木を眺める。
子供じみた作だが、とりあえずそちらへ走り込む。
するとティラノサウルスもどきは、私が逃げたと思い込み、跳躍して私を追い越し、先回りをしようとしたのだ。
着地点は自らが作り出した折れた木による剣山と化している。
ティラノサウルスもどきは着地点を見ると、私でもわかるほどにやべぇ、という顔をしている。
折られた木々はティラノサウルスもどきの腹に突き刺さる。
悶絶するアホの子、私はティラノサウルスもどきの知能指数を下方修正する。
動けない今のうちにトドメを刺そうと、ティラノサウルスもどきの元へ近づこうとするが、思わぬところからストップがかかった。
「熱源反応あり。所持情報該当あり。人間です。」
サポートから詳しく情報が伝えられてくる。
人数は1人。骨格から若い女性。
遠くから監視していた模様。
しかしこちらに向かってきたので警報を鳴らしてきたらしい。
サポートは常に情報を集め続けているが、私は意識しなければオート以外の機能を使えないため、反応が遅れたのだろう。
先にとどめを刺すべきか、向かってきた人間を対処すべきか。
私は後者を選択した。
「○○○○。」
目を覆い隠すほどに深くかぶった黒いフード。
明らかに怪しい風貌だが、除き見える目とやわらかな笑みが警戒心を抱かせないようしてくる。
そんな彼女の発した言葉に、私とサポートの暗号解読機能、翻訳機能がフル稼働する。
未知の言語だ。
解読結果、表示。
はじめまして。
私もこの世界の言語を使わければ意思を伝えることができないだろうが、まだ自分が発するにはあとテキストが2、3文なければ解析できないため、先程知ったはじめましてという言葉を発するのと同時に、深く一礼するに留める。
「あなた、冒険者の方?それとも王国の方かしら?」
解析、表示。首を横にふる。
このジェスチャーは地球と異なる世界、異世界でも通じるのだろうか。
「あら、違うのね。」
解析、表示。通じるようだ。
「では、あなた、何者なんですか?」
言語認識完了しました。認識した言語をgengo[21]とし、標準言語に切り替えます。
仕事の早いサポートが私に伝えてくる。
「お初にお目にかかります。対戦闘兵器用自発思考人型戦闘兵器、通称セラと申します。この浮いているのは自動情報処理演算補助形状変化型デバイス、通称サポートでございます。」
サポートはわたしの肩の辺りでふわふわと浮き沈みする。
「たいせんと……さぽ……え?」
「対戦闘兵器用自発思考人型戦闘兵器、通称セラと申します。これが自動情報処理演算補助形状変化型デバイス、通称サポートでございます。」
「そう……。セラさん、サポートさん、ですね。私は……ぅっ!」
名を語りかけた少女は、唐突に宙を待った。
宙を舞う原因、彼女を自らの腕で宙へ突き飛ばしたのは他でもない、行ったのはセラだ。




