第38話 金色のハト、入学式の終わり
私は1度礼をして、ポケットから紙を取り出し開く。
目の前には学院の生徒全員、さらに教師と来賓すべてがじっと私を見ているのが見える。
思えば私の人生の中でこれほど多くの人に見つめられる機会というのはなかったような気がする。
慣れない状況ではあるが、口の前に拡声の魔法陣を展開し、口を開いた。
「本日はこのような立派な入学式を行っていただき、ありがとうございました。」
私は前もって用意していた代表の言葉を読み上げる。
まずは式を開いてくれたことへの感謝をすませ、次にお世話になる先輩や教師への挨拶の言葉を述べていく。
そして適当な心意気、抱負を述べて。
手元の紙だけでなく、1年、2年、3年とも視線を合わせるように読み上げていく。
適度な微笑みを保ち、姿勢を正し。
チラリと学院長の顔も視界に収める。
学院長は変わらずニヤニヤと笑みを浮かべている。
何がおかしいのだろうか、と私は若干の苛立ちを覚えてしまうが、それは表には出さない。
それにしても、と思う。
「(生徒の殆どが、話を聞いているように見えない…。)」
2年3年はまだしも、1年までもが何かを期待したような表情を浮かべこちらを見ている。
それは間違いなく学院長とエルル生徒会長、かつ在校生代表のせいである。
あのふざけた茶番のせい、あれがなければ私は無難に挨拶を済ませるだけですんだのに。
「以上をもって、挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。」
パチパチパチとかわいた拍手の音が体育館に谺響する。
礼をする私を見て、2、3年と特に1年から落胆の表情を向けられる。
何もしないのか、という表情。
これだ、非常に理不尽。
このまま終われば評価は低下。
なぜ入学1日目から評価マイナスのスタートを受けなくてはならないのか。
それもこれもあとの者のことを考えない学院長と生徒会長のせい。
「<準備完了しています。お好きなタイミングでどうぞ。>」
セラから通信が入った。
私は進行を始めようとする司会の前に、口を再び開いた。
「と、ここで挨拶をお終いとしても良いのですが、どうも皆さん学院長や在校生代表に感化され、このままでは物足りなく感じてしまうご様子。」
お前ら2人のせいだぞ、と気づかれない程度の毒を吐きながら。
私は歩いてステージ上ギリギリに立つ。
入学したばかりの1年生である私に無茶振りを要求する2人に怒りを覚えながらも、笑みを浮かべながら声を張る。
「素晴らしいものを見せていただいたお礼に、1年生を代表して私からお返しいたします。先輩や教師の皆様、若く芽吹いたばかりの我々1年生の思いをお受け取りください。」
体育館内のステージ上を除いた場所の照明が落ちる。
「<始めるわよ。>」
ユリ様からの通信が届く。
その通信と同時に、ユリ様は挨拶が書かれた紙をひと振り。
すると一瞬でその紙が赤い光の粒子となり、ユリ様の周りをぐるぐると回り出す。
始まりは数個に満たなかった赤い光はやがて無数に増えていき、ユリ様を中心とした渦を作り出していた。
「ヒュ〜!学年代表はそうじゃなくっちゃなぁ!」
下からは生徒の誰かのヤジが聞こえる。
何かが始まったことに対する歓喜。
生徒全員表情を変え、ユリ様を目に焼き付けている。
私は二階部分の、ステージとは反対側のギャラリーと繋がるキャットウォークに身を隠し、サポートに命じる。
「<サポート、取り出し、金髪ウィッグ。>」
「<了解。解凍、展開します。。>」
私の近くを浮いて球体を描いていたサポートは立方体に形を変え、一面が開くと中に金髪のウィッグが入っていることが確認できる。
私は自分の髪をまとめ、その金髪のウィッグをかぶった。
ユリ様の周りで渦巻いていた赤い光はやがて、ユリ様を覆うほどに渦巻き、ユリ様の姿を隠す。
素早く回転を続けてきた赤い光は少しずつ速度を落とし。
徐々に渦巻く隙間から金色の光が漏れ出す。
金の光の正体は、1話の鳩。
「おいおいハトになっちまったぞ!」
「あんなに小さくなれる変身魔法なんて聞いたことないぞ!」
「かわいい。」
「それ。」
実際のユリ様は壇上の机の裏側に身を隠しているだけ。
ハトはただの鳩を象った光魔法、決してハトになったりなんてしていない。
その後金色のハトの周りで、次々と赤い光もハトへと形を変え、1つの群れを作り出した。
ハトたちは飛び立ち、生徒達の頭上を舞っている。
「<サポート、形状変化、スピーカー>」
「<了解>」
暗闇の中を形を変えながら、見つからないように天井付近に移動するサポート。
「<ユリ様、お声をどうぞ。>」
「<わかったわ。>」
ハトの群れは様々な場所を旋回したのち、体育館真ん中あたりで高度をあげ、留まった。。
「私たち1年生は、このハトのように翼を広げ、羽ばたくために、この学院でたくさんのことを学んでいこうと思います。その為に、先輩方、先生方、ぜひ力をお貸しください。」
「すげぇ、ハトが喋った……。」
「え!ほんとに代表ハトになっちゃったの??!」
「マジかよ…餌とかちゃんと用意出来てるのか?」
「今日の朝食がパンだったのはこの伏線か?」
ハトがいる辺りにちょうどサポートが位置している。
そこから声が出ているため、なんだかハトが喋ってるように聞こえる。
そのままハトの群れは二階部分のギャラリーに向かって飛ぶ。
そのギャラリーには照明係りなどの生徒数人がいて、向かってくるハトの大軍に若干腰が引けている。
私はそのギャラリーの生徒達に気づかれないよう気をつけながら、時を待つ。
ギャラリーにたどり着いたハトの群れ、金色のハトを中心に再び渦をまく。
その渦の回転速度が最高に達した時、眩い光を放った。
「きゃ!」
「まぶし!」
ギャラリーの照明係りを含め、全員目をつぶる。
その瞬間に私は渦の中に飛び込んだ。
渦はやがて速度を落とし。
中からユリ様に変装した私が現れる。
ギャラリーという高い位置からは、下に座る生徒達が良く見えた。
椅子に座る生徒達が体をひねり、真後ろのギャラリーに立つ私を見ている。
照明係りは慌てて私にスポットを当てた。
私は口の前に拡声の魔法陣と同じ輝度と大きさのホログラムを作り出し、ボイスチェンジ。
声の出力を上げ、言葉を放つ。
「羽ばたき、我々が目指す場所にたどり着くための力添えを是非よろしくお願いします。」
ユリ様の声で、あらかじめ決められたセリフを言い放った。
「すげえええマジで変身してんじゃん!自由にハトと人間になれるのか??」
「生徒会長もかっこいいけど、1年代表も素敵……。」
「惚れっぽいなぁ。」
再び私の周りに赤い光が渦巻き。
一瞬の光のあと、中から1羽の金のハト。
それはステージへまっすぐ飛んでいき。
同じ流れをもって姿を現したユリ様は、一礼をもって挨拶の締めとした。
生徒達は期待を上回るものを見せたユリ様に、割れんばかりの拍手を送る。
「<セラ、お疲れ様。戻ってきて。>」
「<第2回マジックショーは大成功ですね。>」
「<ほんっとにやりたくなかったわ。こんなことやらされたことが1番のマジックよ。>」
「<第3回のご予定は?>」
「<絶ッ対にないわ。もしあるのなら私はハトになって飛び立ったまま帰ってこないわよ。>」
「<きっとその日の朝食はパンじゃなかったのでしょうね。>」
「<バカにしてる?>」
「<滅相もございません。>」




