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第35話 起床と朝食




「ユリ様、起きてください。」



私は体を揺すられ、スッキリとした気持ちで目覚める。


昨日、というか今日の夜は仕事であまり眠れていない。


にも関わらず頭は冴え、体感としては8時間程寝たように錯覚する。


その理由について、セラが言うには、私に埋め込まれたデータセルが少ない睡眠時間でも質のいい睡眠を取れるよう動いてくれているらしい。


夜に仕事が多い身としては、これは本当にありがたい。



「起きたわ。ミヤちゃんも起こしましょう。」


「かしこまりました。」



部屋には日光が差し、程よい明るさを保っている。


そして気持ちのいい暖かさに包まれ、入学式日和と呼ぶにふさわしいだろう。


私はベッドから降り、伸びをする。


夜の疲れは綺麗に抜けきり、快調そのものだ。



「ミヤさん、起きてください。朝ですよ。」



セラはハシゴを上り、三段ベットの三段目で眠るミヤちゃんを揺すっている。



「ん〜…………。お母さん、もう少し寝させて……。」



セラはいつの間にミヤちゃんのお母さんになってしまったのだろう。


それでも辛抱強く、寝ぼけているミヤちゃんを揺すっているセラ。



「起きてください。」


「ん〜〜あと5分……いや10分……。」


「起きてくださいミヤさん。朝食に遅れてしまいますよ。今日はパンと目玉焼きにウィンナー、飲み物にはミルクの定番コースだそうですよ。」



朝食のメニューを聞いて、のっそりと体を起こしたミヤちゃん。


開ききっていない目で周りを見回すと、視界にセラを捉えた。



「……っ!セラさん!なんで私の部屋に居るんですか!」


「…?ここは寮ですよ。」



どうやらミヤちゃんはここを自分の部屋と勘違いしているようだ。


まだ寝ぼけているらしい。



「あ、そっか……ここは寮で……。あぁ、セラさん、私より先に起きてしまったんですね……。うぅ……。セラ起こすついでなら見ても仕方ないという私の野望が……。」



何を見る気だったのだろうか。


私は体を伸ばしながら考える。



「それより早く準備をしないと、本当に朝食に遅れてしまいますよ。」


「ああそうでした!すいません!」



セラとミヤちゃんがハシゴから降りてきてそれぞれ準備を始める。


さて、私もそろそろ身の回りの準備を始めよう。









「うわぁ美味しそうですね!」



ミヤちゃんが目の前の朝食に喉を鳴らしている。


すこし焼き目の付いた香ばしいパン、半熟の目玉焼きにパリパリで肉汁が溢れ出るウィンナー。


ドレッシングのかかったサラダにミルクと、食欲をそそる組み合わせとなっている。


私と向かい合ってミヤちゃんとセラが並んで座り、3人で手を合わせる。



「頂きます。」

「頂きます。」

「頂きまぁす!」



ミヤちゃんは勢いよくウィンナーにかぶりつき、目玉焼き目を切り分けパンと一緒に口に運んでいる。


美味しそうに食べるミヤちゃんは見ているとこちらまでお腹がすいてくる。



「ミヤさんは猫舌とかないんですか?」



セラは食す分を一口大に切り分けて、小さく口に運んでいる。


食べなくても問題ないとの事だが、寮では食べなければ怪しまれるため食べるようにするという方針。



「猫舌はないですよ。熱いのも冷たいのもなんでも食べられます!」



ミヤちゃんがセラの問いに答える。


顔には出ていないが、セラは残念がっているように見える。


すこし猫っぽいところが見たかったのだろうか。


確かに耳としっぽ以外普通の少女と変わらないところしか見たことはないが。


しかしミヤちゃんにエンターテインメント性を求めてもいたし方あるまい。



「ミルクは好きですか?」



懲りない再びセラがミヤちゃんに問いかける。



「ミルクですか?大好きです!」



そう答えるミヤちゃんに満足気なセラ。


きっと壁かなにかでミヤちゃんが爪とぎでもしていたら、セラは喜びそうだ。


……いや、とてもシュールだ。


想像するのはやめておこう。



「ユリ様、サラダもしっかりお食べにならないと。」



セラが私の食膳を見て指摘する。



「食べるわよ。食べる食べる。」



後回しにしていたサラダに手をつける。


ドレッシングが程よい酸味でなかなかの美味だ。


それにしてもこんな所まで気を回してくるなんて、ミヤちゃんがセラを寝ぼけて母親と間違えたのもわかる気もする。


そんな共感の気持ちでチラリとミヤちゃんを見ると、ミヤちゃんは手を止め私の手元をじっと見つめている。


なにかおかしなことでも見つけたのだろか。



「どうしたの?そんなに見られていると恥ずかしいわ。」


「あ!あっすいません…。ユリーさんって、すごく綺麗に食べますよね。上品というかなんというか。」


「そうかしら?」


「私から見ても、とても美しいように思えます。」


「あら、ありがとう。でもきれいな食べ方より、ミヤちゃんみたいに美味しそうに食べる食べ方の方が私は好きよ?」


「え!そ、そうですか?えへへ、うれしいです。」



ミヤちゃんは耳をピクピクと動かして、喜んでいるようだ。


尻尾も左右に揺れている。


が、しかし。


ミヤちゃんの隣に座るセラを見ると、小さく食べるいつもの食べ方から、何故かミヤちゃんのように美味しそうに食べる食べ方に変わっていた。



「<なにしてるの?あなた。>」


「<マスターの好みに合わせるのも、私の務めですので。>」



口を大きく開けてウィンナーを頬張っている。



「<いや、似合わないわよ。普通でいいわ。>」


「<そうですか。>」



そんな無表情で頬張られても……という感じがする。


なんというか、違和感しかない。


通信を終えると、セラはいつもの食べ方に戻った。


器用なものだ。



「あ、そうだ、入学式は体育館に向かう前に1度講堂に集まるんでしたっけ?」



ミヤちゃんがミルクを飲みながら、私に問いかけてくる。



「ええ、そうよ。上級生の方に花飾りを胸に付けてもらってから、1年クラス順に入場するそうよ。」


「講堂でクラス分けが分かるんでしたよね。は〜ユリーさんとセラさんと同じクラスになれるといいなぁ。」


「大丈夫よ。きっと一緒になれるわ。」



昨日確認した、職員室にあった資料でも、3人とも同じクラスと記されていた。


別に一緒である必要は無いが、セラと同じクラスだと何かと都合がいいので私としてもありがたい。



「う〜〜気になりますね!早く行きましょう!」



ミルクを飲み干し、コップをカラにする。


それが感触の合図だったようで、私とセラよりもたくさんの量を皿に持っていたにも関わらず、ミヤちゃんは私たちよりも早く食し終えてしまった。


昨日の夕食の食いっぷりも踏まえると、ミヤちゃんは結構な大食いらしい。


食べるペースも早いミヤちゃんと比べ、私のお皿にはまだサラダと目玉焼きが残っている。



「あと5分……いや10分だけ待ってもらえるかしら?」



私がそういうと、モグモグと口の中のものを飲み込んだセラが、''朝の寝ぼけたミヤさんと同じことを言っていますね''と茶化すのだった。

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