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第32話 隠れんぼ




「夕ご飯とっても美味しかったですね!」



ミヤが上機嫌に風呂上がりの髪としっぽを乾かしながら言う。


ユリ様も自分の髪を乾かしながら、ええそうね、と相槌をうつ。


夕飯は寮に入って1日目だったからか大変豪華で、ミヤはまだ食べるのかと言うほど食べていた。


その量を見て、ユリ様が少し心配の言葉をかけていたほどだ。



「明日は入学式かぁ。クラス分けもありますから少し緊張しますね……。」


「ミヤちゃんならきっと誰とでも仲良くなれるわよ。」


「そうですか?だといいんですけど…。それとユリーさんとセラさんと同じクラスになれるかも心配ですし…。」


「今日のガイダンスで、クラス分けは同室と同じになることが多いと説明されていましたし、心配はないかと。」



私は今日の説明を思い出しながら言う。



「ええ!そうでしたっけ!?セラさんの話に夢中で全然聞いてなかったなぁ……ていうかどうしてセラさんは聞けてるんですか?おかしいなぁ…。」


「実は私は耳が二つありますので、ミヤさんとお話をしながら説明を聞くことが可能なのですよ。」


「そうなんですか!!2つも!!……ん?」



頭の上の2つの耳を数えているミヤをさておき、私はユリ様に尋ねる。



「明日の挨拶の準備は万全ですか?」



髪を乾かし終え、ベッドを整えているユリ様が背中越しに答える。



「ええ。万全よ。今日書き終えた挨拶が役に立つかは分からないけどもね。」


「在校生代表の言葉次第ですね。」



私とミヤも髪を乾かし終えて、自分のベットに向かう。


3段目にベッドに向かうミヤはなかなかの身のこなしで、ハシゴをスイスイ登っていく。


さすが猫の獣人といったところだった。


私も部屋の明かりを消し、自分のベッドに向かう。


その途中、いや耳は普通2つありますよね、という遅すぎるツッコミを聞きながら布団をかぶった。


ミヤのお笑い芸人への道は若干険しそうだ。















トントン、という下のベッドからの合図で目を開く。


時刻は深夜3時近く。


人は寝静まり、辺りは暗闇に包まれる時間帯。


私はベッドから飛び降り、既に黒い外套を羽織ったユリ様に同じものを手渡される。



「<それじゃあ行くわよ。>」



データセルを通じて通信が届く。


ユリ様はドアを静かに開けて、真っ暗な廊下に出る。


私は静かにドアを閉め、追随する。


そして、サポートを通して寮内をサーチする。



「<寮内、見回りはありません。>」


「<了解。じゃあ入口に向かうわ。>」



今回の仕事は、学院の生徒と教師、職員の個人情報が記されているファイルの閲覧だ。


入手ではなく、閲覧。


ただ読むだけで良い理由は、ユリ様は1度読めば覚えてしまう記憶力を持っているし、私はデータとして保存することが可能だからだ。


この世界の保護されていない書類ならば、コピーも可能だろう。


そういうわけで、情報ファイルの閲覧が今回の目的になる。


故にユリ様と私は、ファイルが置かれているであろう職員室に向かう。


そして、寮入口の鍵を開け、少し思い扉を開き外に出る。



「<万が一鍵の空いた入口を見られても不審がられないように、鍵を閉めておかないと。>」


「<お任せ下さい。サポート、お願いします。>」


「<かしこまりました。>」



私は首からネックレスと姿を保っていたサポートを取り外す。


サポートは粘土のような柔らかさを持った球体へと姿を変え、私はそれを鍵穴へと埋め込んだ。


埋め込まれたサポートは途端にガチリと硬くなり、鍵の役割を果たす。


くるりとサポートを捻れば、ガチャりという音が響き、施錠を伝えた。



「<鍵をかけ終わりました。>」


「<早いわね。それじゃあ急ぎましょう。>」



校舎へと向かう。


寮から少し離れた位置にあるので、そこそこの距離を走る必要がある。



「<それにしてもこの学校、広いわよね。>」


「<そうですね、それだけ魔法使いの育成に力を入れているということでしょうか。>」



そして校舎の入口にたどり着き、寮の時と同じように入口の1つの鍵を開ける。



「<ユリ様、開きました。>」


「<ちょっとまって。>」



ユリ様は中に入ろうとはせず、開いたドアをじっと見つめている。


ここで時間を無駄に使っている暇は無いだろうが、そんなことはユリ様が1番わかっているはず。


なので私は静かにユリ様を待つ。



「<この入口……というか恐らく校舎の入口殆どに防犯用の魔法陣が仕組まれているわ。ほら、それ。>」



ユリ様は開いた扉を指さす。


扉の上部分にはよく見なければ見つけられないほど小さく魔法陣が記されていた。



「<あなたは魔力が全くないから反応しなかったんでしょうけど、この入口を魔力があるものが通ったら仕掛けた本人に通知が行くようになってるわね。>」



そう言うと、ユリ様は魔方陣に手をかざす。


瞬間、パチッと閃光のようなものが走った。



「<これで少しの時間は私が通っても通知は行かないはず。今後もこういった類のものがあるかもしれないわね。注意しましょう。>」


「<畏まりました。>」


「<とは言っても、セラは魔力が無いし、トラップ系の魔方陣は魔力に反応するものが殆どだからあまり気にしなくてもいいかもしれないわね。>」


「<確かにそうでしたね。>」



そんなやり取りをしながら校舎内に入る。


入ってすぐ目の前に、下駄箱が学年順に配置されている。


下駄箱を無視して土足で進むと、私のサーチに人の反応がある。



「<ユリ様、少し先に見回りです。身を隠しましょう。>」


「<この学院の見回りだと、索敵系の魔法を使っている可能性があるわね。厄介だわ。>」



言いながら、廊下から見て下駄箱が生む死角に身を置く。


息を殺し、見回りが通り過ぎるのをじっと待つ。



「<セラ。>」


「<はい、なんでしょうか。>」



1つ隣の下駄箱の死角に入り込んだユリ様の呼びかけに応じる。



「<あなたは今、いつも通りに私が見える?>」



下駄箱に手を当て廊下を覗き見ているユリ様を見る。



「<はい、いつも通り見えております。>」


「<そう。あなた、魔法使いには天敵ね。今私は潜伏系の魔法を使っているのだけれど、貴方には効果がないようだわ。>」


「<何故でしょうか。>」



そろそろ見回りが目に入り出す頃合、覗くこともやめて座りながら下駄箱に張り付くユリ様と私。



「<貴方が人と同じ物の見方をしていないからかもしれないわね。あと魔力がないから干渉も出来ない。これも大きいわ。>」


「<なるほど。>」



見回りがツカツカと歩き、そして何事もなく通り過ぎていく。



「<潜伏の魔法が通じないんじゃ貴方と隠れんぼもできないわね。>」



そんなハイレベルな隠れんぼは聞いたことがない。



「<そもそも24時間365日、どこにいるか分かりますよ。>」


「<ああそうだった、そうだったわね。出来ないのは浮気と夜逃げね。>」


「<組織の寝返りということでしょうか。私はついて行きますよ。>」


「<……頼もしいわ。>」

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