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第30話 第1回マジックショー



「うーん、ちょっと重たいなぁ。」



着替えやその他必要なものをカバンに詰め込み、イモムシのように運ぶ。


学院に入ってすぐの受付口で、寮の部屋の番号を聞き、荷物を置きに行く途中である。



「同室の人と、仲良くなれるかなぁ。」



寮は3人でひと部屋。


もし受験番号順に振り分けられているなら、セラさんとユリーさんと同室になれるかもしれない。


しかしもちろん振り分け方なんて知らないので、過度な期待をしないように自制するが、やっぱり期待は捨てきれない。


重い荷物を持って赤くなり始めた手を労りながら、たどり着いた受付口の事務員に尋ねる。



「すいません、寮の部屋の番号をお尋ねしたいんですけれど……。」



私は獣人なので、あまり自分から他人に声をかける機会はない。


ていうか正直あまり人に声をかけられない、獣人に対しマイナスな感情を抱いていることが多いから。


故に少しビクビクしていたが、受付の事務員は特に何を言うでもなく、普通の人に接するような対応をしてくれた。



「受験番号は?」


「308です。」


「ミヤさんだね、寮の部屋番号は101だよ。寮は少し離れたところにあるけど、場所はわかる?」


「はい、わかります。ありがとうございました。」


「ようこそ我が学院へ。ミヤさんチェック、と。ああ、同室の人はもう来てるみたいだよ。部屋にいるかもしれないから、もしいたら仲良くなるといい。」


「もう来てるんですか!?わかりました。頑張ります!」



ひらひら〜と手を振る事務の人を背に、寮を目指す。











「う〜、緊張するなぁ。」



101という数字が記されたドアの前、深呼吸をして心の準備をする。


同室の人が冷たい人だったらどうしよう、仲良くなれなかったらどうしよう、そんな不安が胸をよぎる。



「とりあえず、挨拶、挨拶はちゃんとしよう。」



コンコン、と扉をノックする。


同時にバクバクと心臓もなる、


ノック音よりも自分の心臓の音の方が大きいのでは。


そして扉越しに、はぁい、と返事が返ってきた。


その返事で確信した、この声はユリーさんだ。


ということは、セラさんも一緒の可能性。



「し、失礼します!」



ガチャりと扉を開け、目に眩しいと錯覚するような景色が入り込んでくる。


輝く金髪のユリーさん、美しい青髪のセラさん。


2人は既に荷物をしまい終え、テーブルの近くで座り込んで談笑していた。


ただそれだけなのに、とても眩しい。



「よろしくね、ミヤちゃん。」


「同室として、これからよろしくお願いします。ミヤさん。」



神に感謝した。



「はい!よろしくお願いします!」



この世に神はいるのだ。


これからの学院生活、バラ色桜色なのを確信した。


1番私が望んでいた同室の理想、それが叶ったのだ。


お腹痛い時に恨んでごめんなさい神様。



「ベッドは好きなところを使ってね。私たちは余ったところを使うから。」



ユリーさんから声をかけられ我に返る。


見やると寝るところとして三段ベッドが置かれていた。



「じ、自分は1番上がいいです!1番上!」



セラさんやユリーさんにいちいち梯子を登る面倒をかけさせる訳にはいかない。



「ミヤさんは高い所が好きなんですね。」



勢いよく答えてしまったせいか、誤解させてしまった模様。


別段好きという訳では無いが、まぁ嫌いではない。


それは猫の獣人だから、という種族的なものだろうか。


でも私が高い所が好きと思い込んでくれていた方が、変に遠慮なくベッド選びは終わるだろう。



「セラは?下と真ん中どちらがいいのかしら?」


「私はどちらでも構いません。」


「そう。じゃあ私が1番下を頂くわね。」



そういうと、ユリーさんは荷物から枕を取り出し、備え付けのものと交換した。


ユリーさんは枕が変わると眠れない人なのだろうか。


ちょっとユリーさんっぽいなと思ってしまう。



「そう言えばユリーさん、新入生代表の言葉は考えました?」



そう私が尋ねると、ユリーさんはそれなんだけれどね、と言いながら元座していた場所に戻っていく。


そして私にも座るように促したので、ありがたく3人で丸いテーブルで3角を作るように座った。



「受付で入学式で言ってもらう代表の言葉を考えてくるよう言われたけれど、いまいち何を言ったらいいか分からないのよね。」


「代表挨拶によるテンプレートをいくつかご用意しましょうか?」



セラさんが助言する。


こういったことに慣れているのだろうか。



「あなたのが参考になるか分からないのよね。常識も慣例も全く違うものだろうし。」



ため息をつくユリーさんに、私は学院について調べてついた知識で話す。



「前の前の年は、挨拶と、式を開いてくれたことのお礼、学院での目標、先生や先輩は暖かい目で見守ってください〜みたいなお願いと、最後日付と名前で締めでしたね。」


「なるほど、基本通りなのね。」


「一昨年はわかりましたが、昨年は?」


「前の年の代表は少し変わった方だったので、参考にはならないと思います。なんでも魔法でショーのような挨拶をしたらしいですよ。」



学院に入りたすぎて、学院のことについて調べまくっていた時に父から聞いた話を思い出す。


火の鳥やら踊り出すイスやらで、すごかったらしい。


私はその話を聞いた時、驚きと同時に俄然学院に行きたさが増した。


将来が安泰だから、という欲的なものが1番の動機ではあるが、やはり魔法や知識について理解を深めるのは楽しいのだ。


一人でショーができてしまう人すらも入学を希望する学院、そういう意味で。



「ユリ様も、パレードでもなさいますか?」


「絶対嫌ね。そんな無駄なことに魔力を使いたくは無いわ。」



それを聞いた時、少し意外だと思った。


ユリーさんは劇やショーなんかをにこやかに眺めるイメージが強い。


あまり浮かれ事は好かない方なんだろうかとイメージを修正する。



「残念です。ショーのテンプレートをお教えしようとしていたのてすが。」


「ショーのテンプレートってなにかしら。」


「ハトが帽子から飛び出したり、刀を飲み込んだり、空中浮遊をしたりですね。」


「うーん……。」



ユリーさんは微妙な顔をしている。


刀を飲み込むのは痛そうだけれど、私はハトが空中浮遊はちょっと見てみたいと思ってしまった。



「おや、ミヤさんは興味がおありですか?」



セラさんから見つめられながら尋ねられる。


そんなに顔に出ていただろうか。


ただここで興味あると答えてしまうと、ユリーさんを裏切ったような気持ちになってしまう。


しかし何も言わない私をお構い無しに、それでは簡単なものをお見せしましょう、とセラさんが立ち上がる。


そして荷物からちょっとのお金を取り出すと、また元の位置に座った。



「ではコインマジックショーをお見せいたします。」



無表情だから何もわからないが、もしかして、ノっているのだろうか。



「たらららら〜たららららら〜らら〜」



珍妙な音階を口ずさんでいる。


これ間違いなくノリノリ、そしてセラさんの右手に銅貨が1枚。


それを私たち二人に見せつける。


そしてそれを私たちに見えるように左手で手に取ると、その流れのまま左手の中のものを口の中に入れてしまった。



「ちょ、汚いですよ!吐き出した方が!」



刀を飲み込むショーがあると言っていたが、それに近いものだろうか。


しかしセラさんは空っぽの左手で私を制す。


左手が空っぽということは、本当に食べてしまっ

たということ。


もぐもぐしたあと頭を傾け、右手で自分の耳をポンと叩く。


すると不思議なことに、次の瞬間には右手には銅貨が収まっていた。


耳から……銅貨が出てきた……。



「セラさんの口と耳は、繋がっているんですか?!」



口で食べた銅貨が耳から出てくる。そんなありえない現象を見て驚きが隠せないが、ユリーさんを見てみると、半目でジトっとした視線をセラさんに向けている。


ユリーさんは驚かないんだろうか。



「続けてもうひとつ。」



右手で持ったコインを、握っている左手の甲に押し付ける。


グリグリと、グリグリと、押し付けている。



「おや、うまく行きませんね。」



1度押し付けるのをやめ、左手をグーパーグーパーしている。


なにをするのだろうか。



「ではもう一度。」



また右手でコインを左手の手の甲に押し付けている。


すると、あったはずの指先のコインが気づいたら無くなっていた。



「じゃじゃん。」



左手をゆっくり開くと、その手の中には銅貨が収まっていた。



「ええ!!」



つまり、セラさんの手の甲を貫通したということ。


私はセラさんの左手を急いで手に取り、穴が空いていないかじっと観察する。


しかしセラさん左手はすべすべで真っ白く、穴が空いているという猟奇的なことはなかった。


すべすべで白くて指は細く、綺麗な爪。



「あ!す、すいません。」



自分がしていることに気付き、ばっと手を離す。


気が動転して不躾なことをしてしまった。


顔が熱い。



「いえ、どうでしたか?コインマジックショーは。」



と問われ、



「とても面白かったです!どうやっているんですか!!すごいです!」



少し自分でもわかるほど興奮気味に答えてしまう。



しかしユリー様は



「それを私に入学式でやれと?」



と、満面の笑みと共に青筋を浮かべ答えていた。


人は笑顔が1番怖い、私はその笑顔を見て背筋が伸びる思いがした。



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