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第23話 緊急任務




「<面接シミュレーションシステムを終了します。よろしいですか?>」



教室を出て、ミヤが入れ替わりに入っていくのを見送ったあと、サポートからの通知が届いた。


今回の面接ではあまり活躍しなかったと少し残念に思いながら、その通知を閉じる。


とりあえずは、門で待っているだろうユリ様の元へ向かうとしよう。









学院を出て門が見える位置まで、少し早歩きできた。


開いた門に寄りかかりながら、退屈そうに足元の砂を足で弄っているユリ様が見える。


しかひ下を向いていたはずのユリ様は流石というべきか。すぐに私に気づき、寄りかかるのをやめこちらを向いた。


私は少し駆け足でユリ様の元へ向かう。



「大変お待たせいたしました。」


「お疲れ様。試験はどうだったかしら?」


「問題なく終えました。」


「あら。」



ユリ様が少し驚いたような顔をする。



「あなた繰糸魔法はつかえないでしょう?糸が動いてるように見せることは出来たの?」


「いえ、繰糸魔法を使えとは仰られなかったので、ゴブリンを眠らせて手作業で拘束しました。」

「…そう、私の時は繰糸魔法がどうたらこうたら〜って言ってたのに、随分と適当なのね。」



ユリ様は少し不満げだ。



「もし繰糸魔法を使うよう強いられても、サポートをロープの中に潜り込ませて遠隔で操作すれば魔法を使っているように見えるので問題はなかったと考えます。」


「へぇ、そんなことも出来るのね。ゴブリンを眠らせたのはどうやって?」


「手からゴブリンの脳に電気信号を送り、一時的なショックを起こし気絶させました。」



ユリ様は腕を組み、軽く首を傾げる。



「何を言っているか分からないけれど、上手くいったのならよかったわ。」


「はい。それで、ミヤさんを待ちますか?それとも宿にお戻りになられますか?」



私は今頃試験中のミヤを思い浮かべながら尋ねる。



「あぁ、それなんだけれどもね……。ミヤを待つことは出来ないわ。」


「それでは宿にお戻りに?」


「うーん。」



ユリ様は少し歯切れの悪い返答だ、なにか思考を巡らせているようにも見える。


しかししばらくすると考えがまとまったのか、いつもの芯の通った表情を見せる。



「そうね、一度宿に戻りましょう。」



そういうと、ポケットから小さな紙を取り出し一瞬で燃やした。


今燃やした紙はなんなのか、問うまでもない。


汚れ布による指令だ。











部屋の扉を閉め、私にサポートを使って部屋の周りに人がいないかを確認させ、ユリ様は今回の任務について話し始める。



「今回の仕事はとある黒魔草密売人の処分よ。」



そういうとユリ様はカバンから一枚の真っ黒い葉取り出した。



「これは見たことあるかしら。」


「いえ、ありません。」


「そう、これは黒魔草というのだけれど、とある方法で体に吸収させると高い興奮状態と感覚の鋭敏化、多幸感を味わえるわ。裏で取引されている薬物ね。」



どこかで聞いたような話だ。



「中毒性がある、幻覚を見る、禁断症状が激しく見られる、ですか?」


「ええ、そうよ。今回はその薬物を密売しているグループの1人の処分。」


「1人、ですか?」


「1人よ。他は放っておいていいわ。国の仕事だもの。」


「その1人というのは?」


「騎士ね。実は明日の早朝、密売グループに国が襲撃をかけることが決定したのだけれど、その密売グループの中に騎士がいたことが少し前にわかってね。それがバレると外聞的にまずいのだそうよ。国としては。」


「だからそのグループの1人の騎士をこちらで処分しろ、ということですか。」


「そういうこと。」



国で処理するとまずい、処理出来ない人物を汚れ布に処分してもらおうという魂胆だ。



「ということは、今回は死体を残してはまずいということですよね?」


「ええ、対象の身元が割れてしまうからね。まぁ死体の処理は私たちの仕事ではないわ。今回の作戦は黒魔草の倉庫になっている建物に侵入、遭遇した敵を無力化しつつ、タイムリミットの早朝までに対象が生きていようが死んでいようが、体を別の汚れ布の死体処理担当に届けることね。」


「それではもう出発しますか?」


「今は恐らく騎士としての仕事を全う中よ。そんな中襲ったら間違いなく私たちがお終いだわ。対象が仕事を終えて、夜、黒魔草の密売のために倉庫に来てからが私たちの仕事の始まり。」



倉庫に入ってしまってはそこに集うほかの密売人が邪魔になるのではないだろうか。


それならば倉庫に入る前、または出ていく時を狙った方が良いのでは。


そう思いユリ様に尋ねる。



「入る前はまだ倉庫までの道のりに人がちらほらいるわ。そこを人目につかずに襲撃するのは厳しいわね。出る時は人はいないでしょうけど、それまで待つよりも、今回はタイムリミットがあるから彼の体を運ぶことを考えると早めにことを済ませた方がいいわ。だからこそ、深夜の倉庫に彼がいる時間帯に襲撃を仕掛ける。」


「なるほど。」



対象が倉庫の中にこもってしまった方が、襲撃する時見られる可能性があるのは密売人だけに限られるということか。



「ひとつ疑問なのですが、対象は倉庫のなかで何をしているのですか?」


「ほかの密売人にノルマを課して売りに行かせているそうよ。随分と偉い立場のようね。だからこそ、国は深い位置に騎士が関わっていることが知られたくないのでしょうけど。」



そういうと、ユリ様は1枚の似顔絵をカバンから取り出した。



「今回の対象の似顔絵よ。よく覚えてね。」



私はその似顔絵を画像データとして保存する。


対象の似顔絵は、第一印象としてはとても正義感が強そうで、とても裏で悪事を働いているような顔には見えない。


しかしどんな善人も簡単に悪事に手を染めてしまうのが、薬物の恐ろしさだ。


そのまま私はユリ様と今回の作戦の詳細の共有と、お互いの行動の把握に務めた。


任務は深夜、黒魔草倉庫にて密売人グループの1人の騎士の処分、そして早朝までに騎士の体を汚れ布の死体処理担当に引き継ぐこと。


会話を重ね準備を進めつつ、日は緩やかに沈んでいく。















足取りが軽い、心の開放感と充実感が相まって、ふわふわとしている。


二次試験、私にとってはとても満足の出来だったのだ。


ゴブリンは少し恐かったけど、なんかフラフラしてたし、ロープをつかって動けないようにするのは簡単だった。


ユリーさんやセラさんはきっと成功しただろう、もし私も合格だったら、晴れて3人で新入生だ。


そうなったら私が得ることができなかった、友達、というものができるかもしれない。


私は左手にはめたオレンジ色のブレスレットを太陽にかざす。


今日の私のラッキーカラーだそうだ。


私に似合っているかは分からないが、なんだか力を貰えているような気がする。


あくまで気がするだけ。


そんなルンルンな気分で歩いていると門がみえてきた。


二人はもしかして、待っていてくれているだろうか。



「(…………ですよね。)」



想定内、想定内。


心なしか足元をヒューっと風が冷たく感じる。


いやしかし、きっと合格したらいつでも会えるでしょうというメッセージなのだ。


プラス思考、プラス思考


今日の試験の出来をお母さんに報告しよう。


私は駆け足で学院を飛び出した。

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