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第12話 次の任務へ




ユリ様と私、そしてガドの前に受け皿と共にカップに注がれた紅茶が出される。


それは上品な香りを漂わせ、ひと目で高級品であることを伺わせた。


しかし図書室地下であるこの部屋が質素な作りであることに対し対比的に浮いてみえるが、ここの方々は紅茶にこだわりでもあるのだろうか。


そして一口嗜むと、やはり味わい深い。


今回のものにはもちろん毒なんて無粋なものは入れられてはいなかった。


ガドは葉巻の煙を吐き出し、一息つくと口を開いた。



「ユリー、セラ。まずはマーベスの件、ご苦労だった。」


「ええ。」



ユリ様がなんともなしに受け答えする。



「あのあと連絡を受けたが、滞りなくトップのすげ替えは完了したようだ。」


「ええ。そこを失敗されたら私たちは何のために動いたのか分からなくなるわ。」



ユリ様は紅茶を美味しそうに飲みながら答える。


ガドは私を見ながら言葉を続ける。



「しかし今回、なかなかの手際だったそうじゃないか。彼も驚いていたぞ。」



彼、というのは裏口の鍵を開き、侵入の手引きをした人間だろう。



「二人いたから、手早く済んだだけよ。」


「そうか。マーベスはなかなか腕の立つやつだと聞いていたが、随分と早く始末できたようだな。聞くところによると物音も無かったと。」


「私が部屋に忍び込んだ時、彼は何も手にしていなかったわ。あっさりすぎて時間もかからず物音もしないのは道理よね。」


「まぁ、深くは聞かない。セラもよくやってくれたのだろう?」


「ええ。とても。」



今回私は敵の配置の知らせと音と振動を消すことしかしていないので、特に何かをしたということはないが。


どちらかと言えば任務のあとに、腕が鈍っている、と嘆いていたユリ様のナイフ戦闘の付き合いを永遠とさせていただいた時の方が労力としては大きい。


私はユリ様の速度に合わせて、組み込まれた戦闘データをもとに永遠と捌いたり攻撃を仕掛けたりができるので、格好の練習相手になったようだ。


スポーツ科学に基づいた効率の指摘もできるので、練習の際にユリ様の機嫌が終始よかったのは良い思い出だ。


おかげでさらにユリ様の子供らしからぬ戦闘術がさらに磨かれてしまって、守る側である私としては前に出て欲しくないので複雑な気持ちではあるのだが。


とはいえユリ様は守られる側なんてことは微塵も思ってはいないだろうけれども。



「ふむ。ユリーがだれかと共に任務をこなすなんて考えられなかったが、その感じだと上手くいっているようだな。」



上手くはいっている。しかし、必要以上に任務の詳細を教えて頂けないことや、夜寝る前はギリギリまで寝た振りで私を警戒している点などから、やはり完全な信用までは至っていないように思える。


それは私の今後の課題になるだろう、不甲斐ないばかりだ。



「それよりも、次の任務のことについて教えて貰えるかしら。」



ユリ様が忙しげに発する。



「その事なんだが、次の任務は長期的なものになる。必要なものはこちらで用意しておく。詳細は追って伝えるから、それまで待機だ。」


「長期的なもの?珍しいわね。」


「ああ。いままでユリーにさせてた仕事とは毛色が変わるものだが、今回ユリーとセラ、お前達二人に行ってもらうのは潜入捜査だ。」


「潜入?どこの組織?」



ユリ様は怪訝な顔で尋ねる。


15,16の外見で潜入できる組織なんてそうそうないだろう、容姿でいえば私もユリ様とほぼ同じ歳に見えるはずだ。


一体どこの組織だというのか。


ガドは葉巻を吸い、そして吐き出す。


そして告げる。



「我が国ルシリアが直接管理している、魔法教育養成機関。学院だよ。」



沈黙がその場を支配する。


ユリ様の紅茶を飲む手が止まり、動くものは私の紅茶を飲む手と、ガドの葉巻から立ち上る煙であった。














宿屋の部屋に着くと、ユリ様はボフッとベットに倒れ込んだ。


聞くところによると、ユリ様はいままで暗殺の類の仕事をすることが多く、それに比べて今回の仕事は



「めんどくさいわ。すごくめんどくさいわ。」



とのことらしい。


ベットに顔をうずめながら「あ〜〜めんどくさいわ」と連呼するほどだからよっぽどめんどくさいらしい。


今回の任務は学院に紛れ込むアルビド国のモグラ(スパイ)の調査だ。


教師に潜り込ませることはできるが、それでも目が行き届かない部分があるということで、生徒役として抜擢されたらしい。



「しかも1から入学しないとならないなんて……ほんとうにめんどくさいわ。」



そう、今回は不振がられないよう入学試験からもぐりこまねばならず、しかもコネはないときた。

つまり試験に落ちた時点で、任務失敗、報酬もなしということらしい。


しかも潜り込む先はルシリア王国魔術専門学院、全寮制でかなり難関校とのことだ、


ここを卒業した生徒は将来が約束されており、それ故に倍率も高く、貴族平民と分け隔てなく募集をかけるため、有能な人材が多く入学を希望する。



「ユリ様の魔法の腕なら入学は容易いのでは?」



死体のようにうつ伏せているユリ様に問いかける。



「ええ。それは問題ないわ。」


「ではなにがご不満なのですか?」


「時間がかかるのよ!」



ガバッと起き上がり、ベッドに腰掛け勢いよく私に訴える。



「モグラなんてそうそう尻尾も出さないし、入学した生徒を片っ端から調べ上げるなんて時間がかかるに決まっているでしょう?それに好きな時に買い物にも出かけられないし、全寮制だから色んな人と飲食を共にしなければならないし、きっと教師もめんどくさいんだわ。」



私は胸に手を当てて答える。



「大丈夫です。私がマスターの快適な生活を24時間手助けいたします。」



どやぁ、という気持ちで一杯になる。


等のユリ様はポカンとしてしまっているが。



「え、ええ、ありがとう。でも大丈夫なの?」


「大丈夫です、空気清浄から快適なBGMを流すこともできますし、料理もこなせますし、訓練のお付き合いも致します、さらにはマッサージから体調管理、読み聞かせや子守唄、さらにはお荷物だってお持ちいたしますし、身だしなみや髪のセットなども完璧にこなせます。戦闘兵器といえど、私はサポートアンドロイドを元に改良をされたものですので、なんなりとお申し付けください。」


「え、BGM?子守唄は流石に…じゃなくて、わたしが大丈夫かどうか聞きたいのはそういうことではなくて。」



気づけばズズイと前のめりになってしまった私に若干引き気味になってしまったユリ様が、なにか言いたげだ。



「と、おっしゃいますと?」



私は首を傾げ、続く言葉を待つ。



「あなた、魔法は使えるの?」


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