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第10話 初任務



割とボリュームのあった朝食を済ませ、その後洋服店に赴いて、とりあえず3着ほど普段着を買っていただいた。


私は喜びの重みを噛み締めながら、両手の袋を大事に持つ。


途中に焼けた良い香りのする店で買った串焼き肉を食べ歩いたり、次来る時に買う服を見定めるために洋服店を冷やかしたり。


ユリ様は歩き疲れることはないのだろうか、なんてことを私は陰で思いながら、ユリ様はまだ元気に小物店に次は向かおうかしら、なんて、歩きながら呟き思案している。


そんな足取りが軽いユリ様の先に、見知った顔の女性が歩いてくるのが見えた。


服装は地味目で手提げを持ち、まるで買い物を済ませた1人のよう。


完全に人々に同化しているが、あれは間違いなくメイサだ。


昨日タグ付けを済ませているので間違えるはずもない。


メイサは店の陳列を眺めたりしながら、自然にこちら側へ向かって来た。


そしてユリ様とすれ違う。


その数分後にユリ様は、はぁ、と溜息をつき、後ろを歩く私に帰るわよ、と告げるのだった。











割と早めの帰還となったお出かけ。


部屋につくと荷物を下ろし、若干不機嫌そうに部屋の椅子に腰掛けた。


ユリ様はメイサにすれ違いざまにポケットに忍ばされた1枚の折り畳まれた紙をポケットから取り出し、読み進める。


無言かつ真剣な表情で文を目で追っていた。


私はサポートに、買っていただいた服を圧縮して収納する。


ユリ様は読み終わった、恐らく任務の指令書を火魔法で灰も残さずに燃やした。



「任務開始は夜だから、それまで自由にしてていいわ。」


「かしこまりました。ユリ様はそれまで何をなさるのですか?」


「私はちょっと用意しとかなきゃいけないものがあるの。恐らくこれが今回一番面倒ね。」



そう言いながら自らの鞄から紙を何枚か取り出し、サラサラとなにやら書き始めた。


私はそれまで待機とのことなので、今日購入してもらった紅茶セットを取り出し、仕事に励むユリ様に紅茶をお出ししたり、ユリ様ちょっとした休憩の合間に凝り固まっているだろう肩のマッサージをしてみたりなんかして時間を過ごしていた。


私の微量に電気を流しつつ、筋肉まで透視してするマッサージは、ユリ様が乙女が出してはいけない声をあげたほどに、満足させる腕前だったりする。








「準備はいいかしら。」



黒い外套をお互い身にまとい、準備を終える。


日はとっくに落ち、街は闇に包まれている。


ユリ様の説明によると、今回の任務は盗賊組織のトップ一味の暗殺らしい。


暗殺対象は3名。


そしてその盗賊組織のトップの名をマーベスという。


犯罪組織の対処など国の仕事ではないのか、とも思うが、どうやら目的は盗賊組織の解体、殲滅ではなく、あくまでトップとその一味の暗殺で、盗賊組織自体には首をすげ替えて存続してもらうらしい。


その盗賊組織はなんでも、ルシリア王国を行き来する商人達を襲う集団、との事だ。


全員とっ捕まえてしまえばいいのに、とも思うが、商人達は冒険者を雇って防衛しており、盗賊組織がなくなってしまうと、商人は冒険者を雇うことをやめ、冒険者サイドの利益が望めなくなりってしまう。


それはそれで困ってしまうのだと言う。


故に盗賊は冒険者を雇わない商人を襲ったり、冒険者は雇われることで双方利益を生んだりしていたのだが、盗賊組織のトップが今のマーベスに変わってからというもの、盗賊側がやりすぎてしまっているらしい。


巧妙な罠を仕掛けたり、持続的な攻撃を仕掛て冒険者付きの商人を襲ったりで冒険者共に死人が出たりと、バランスが偏ってしまっているのだ。。


このままでは商人達が国を出ることも入ることも叶わなくなり不満が噴出するが、国が手を出すと大々的に組織そのものを潰さざる得ないので、我々がトップをすげ替え、盗賊組織を元の指針に戻しバランスを保つのが今回の任務らしい。



「それじゃあ行くわよ。」








夜の街を屋根伝いに駆ける。


ユリ様の足音は全く聞こえない。


足やその筋肉の動きを見ると、非常に高い効率で、走りによる地面との接触の衝撃を受け流しているのがわかる。


私はこの世界の重力に適応した、反重力浮遊装置の調整を昨日の夜に終えているので、そもそも浮いて移動しているため、足音はない。



「<便利ね、それ。>」



ユリ様が唇を開かず、喉を震えさせずに、言葉を発する口の中の動きだけをし、それを読み取ったデータセルが私に音声として伝えてくる。


声に出さなくても良い通信方法だ。主にユリ様が動かすのは舌だけで良い。


私は脳内で打ち込み送信できるので、舌も動かす必要は無いのだが。


最初宿屋で試した時は、ユリ様がなかなか口の中の動きを上手くできなかったが、ものの5分ほどの練習で問題なく会話をすることができるようになった。


その練習ついでに、私ができる大体のことを、ユリ様にお伝えしてある。


その時には流石は破壊兵器と言う割には破壊以外のことの方ができるのね、なんてことを言われたが。



「< 付いたわ、ここが奴らの拠点よ。>」



街のほぼ外周に、ぽつんと廃墟のように佇む大きな屋敷が肉眼で捉えられる。


組織本拠地は街の外の洞窟の中らしいが、組織のピラミッド上層は商人を襲うことはせず命令を下すだけらしい。


そして利益だけを1部納めさせる。


なかなかこすい。






「<屋敷内、敵15人、1階5人、2階7人睡眠中、3階3人です。1階正面入口近くに4人待機、裏口付近に1人待機してる模様です。>」


「<ありがとう。今回の任務はとても早く終わりそうね。裏口に回るわよ。>」



敵の情報を知らせる。


今回は3階にいる3人が目標だろう。


しかし、その他の盗賊に気づかれず、そして殺してはいけない。


それが今回の任務の成功だとユリ様に厳命された。


大きくぐるりと回り込み、裏口近くへ来た。


ここには1人の盗賊が待機していた。扉近くの椅子に座っていることがサーモで確認できる。


サッという、擬音がふさわしいように、裏口の扉横まできた。


ユリ様は扉近くの地面を何やら確認している。


私もユリ様が暗闇の中探っているものをのぞき見る。


何やら記号が砂で綴られていた。


私の暗号解読システムがオートで作動する。


ーー問題無、予定通りにーー


誰が残したものだろうか。


ユリ様はそれを手でかき消し、扉に手をかける。



「<大丈夫そうね、入るわよ。>」



扉を開ければ1人待機しているが、一瞬で眠らせたりするのだろうか。


ユリ様は静かに扉を開け、中に忍び込む。


中にいた1人はユリ様に見向きもせず、暖かい飲み物を変わらずに啜っていた。


しかしユリ様の後ろを行く私を見ると、少し目を見開いたが、特にリアクションをとることは無かった。


その後ろを平然と進んでいく。



「<彼はなぜ襲ってこないのですか?>」


「<内通者よ。汚れ布の一員。そういえば彼には2人組になったことを伝えていなかったわね。とりあえず、彼以外は全員本物だから、不審な動きをする奴がいたらすぐに伝えてね。>」



なるほど、扉の記号は彼が残したものか。


そのまま進み、階段を登る。


2階の盗賊達は全員眠っているので、特に気を使うことなく、そのまま3階へと登った。



「<本当に早くたどり着いたわ。さてと、どの部屋の奴から片付けようかしら。>」




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