表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第五話 憎悪

逃げる、はずなのだが、鏡のせいでうまく逃げられない。

「マッテヨキララァァァァァァァァァァァァ」

後ろで、化け物がうめいている。

反射で、正面の鏡にも化け物が映っている。

僕らは、何度も鏡に激突しながら、必死になって逃げた。


「しっ! こ、ここで静かに……」

周りの鏡から化け物が消えたところで、僕らは鏡の陰に身を潜めた。

「なんなのあれぇ? 裕奈じゃ、ないの? ドッキリとかなのぉ?」

持田さんは話し方とは対照的に青ざめた顔でいる。

それもそうだ。

化け物が自分の名前を呼んでいるのだ。

怖くない、訳がない。

「今は、なんとも言えない」

上田さんも、事態を把握するのに精一杯の様子だ。

しかし、どういう事だ。

ーー探していた人が、化け物になっていた?

そんなこと、あるのか?

「ミィツケタァァァァァァ」

僕の思考は唐突な奇声と、鏡に反射した化け物の姿によってかき消された。

先程より、さらに首が曲がっている様子で、首で頭を吊るしている、という表現がもっとも正確に表していると言っていい。

「に、逃げるぞ!」

僕らは慌てて逃げ出した。

それから、何度も鏡にぶつかりながら僕らは逃げた。


しかし、どんなに逃げても


「ミィツケタァヨォォォ!」

すぐに鏡には化け物が鏡に映りこんだ。


「出口はどこなんだ!」

いつしか、僕らの目的は河島祐奈さんを探すことではなく、この化け物からいかにして逃げきるか、という考えになっていた。

「ね、ねえ春樹くぅん……はぁ、もう、むり、走れないよぉ〜」

と、さっきから一人でぶつぶつと文句を言っていた持田さんもついに限界らしく、上田さんの腕を掴んで泣き言を言った。

「おい、いい加減にしろよ、捕まったら死ぬかもしれないんだぞ!」

「えぇ、でもあれはゆうなだよぉ〜、はぁ、はぁ、一回、話してみようよぉ……」

「お、おい、やめろ引っ張るな!」

そんな二人の小競り合いを、黙って見ているしかない僕は、すぐに鏡の端に映った化け物に気付く。

「ね、ねえ! もうすぐそこに!」

「キィララァァァァァァァァァア!」

先程よりも大きく、悪意のより増した口調で近づく化け物。

迷路、という性質上、音も反響しているし、鏡に映るたびに増える何体もの化け物の姿が迫ってくるようで、僕の精神はおかしくなりそうだった。

そんな中でも、まだ言い争いをしている二人。

化け物が知り合いかもしれない、という一縷の望みがそういう余裕を生み出しているのかもしれない。

「もうほんとにいい加減にしろよキララ! お前にこれ以上構っていられるほど余裕無いんだよ!」

初対面の落ち着いた雰囲気とはかけ離れた荒い口調で話す上田さん。


思えば、上田さんの口から「キララ」と聞いたのは初めてでは無いだろうか。


「わかったよぉ、じゃあわたしがゆうなと話すよぉ」

持田さんは、何かを諦めたような表情をした。

「持田さん、それは危険ですって! 早く逃げましょう!」

僕は必死に説得しようとしたが、上田さんの態度は僕とは正反対だった。

「……できるのか、キララ?」

「てゆうかぁ、もう足痛くて走りたく無いしぃ、ゆうなも私のこと呼んでるしぃ、逃げたらかわいそうだなってぇ」

「……分かった、なら俺らは行くからな、キララ……」

そういうと、上田さんは持田さんにキスをした。

「向こうで待ってるよ」

「うん、待っててぇ」

「え、ちょっと何を言ってーー」

僕が持田さんを説得するのを、まるで阻止するかのように、上田さんは僕の腕を引きながら走り出した。

「ちょ、ちょっと……」

上田さんは聞こえてないかのように走る。その表情に、持田さんを待つような気配もない。

「上田さん!」

僕が強引に腕を引っ張り、ようやく上田さんは足を止めた。

「どうしたんだい宗介君、早く逃げないと……」

「そうですけど、そうですけど! あなた、どうして恋人を平気であんな危険な所に置いてこれるんですか! あんなの、まるで生贄じゃないか! それに、待ってるとか言って、置いていこうとしてるし! あんた、何考えてんだ!」

僕はつい怒鳴ってしまう。しかし、一瞬驚いた表情を見せた上田さんは、



笑った。



顔を目一杯歪ませて。



「な、にを……笑ってるんですか……?」

僕の表情を見るや、上田さんは慌てて顔を隠して背を向けた。

「ああ、確かに、君の言うことは間違っていない。僕の判断としては、祐奈がキララの名を呼んでいるということは、キララと二人で話せば正気に戻るんじゃないか、と思ったからだよ」

先程までとは打って変わって、化け物の事を「祐奈」と呼んだ。

「僕もつい遠くまで来すぎたようだ。戻ろう、キララが心配だ……」


歩いて戻る上田さんについて、先ほどの場所が見える位置まで戻ると、持田さんが見えた。

「そ、そんなのうそだよぉ!」

「ウソジャ……ないヨオ」

先ほどの喚いてるだけの状態より、少しだけ人間を残したような話し方をする化け物と、持田さんは何やら会話しているようだった。

持田さんは鏡に囲まれていた。そして、ほとんど全ての鏡にその化け物が映っていた。

まるで、その全てが言葉を発しているようで、自然と恐怖で身震いする。

反響でどれが本物なのかわからないで探していると、持田さんがふいに泣き出す。

「そう、なんだ……うん、なら、もういいやぁ」

「イッしょニぃぃぃ、カエロオオオオ!」


鏡の化け物は、一斉に、持田さんに手を伸ばす。

「もち、っぐぅ!」

僕が助けようと手を伸ばすのと同時に、鳩尾に強烈な一撃。

「う、上田……さん?」

「少し黙ってなさい、宗介君」

口角を上げて、僕を見下ろす上田さんの考えは、僕には全く分からず、ただ、うずくまりながら、持田さんと化け物を眺めているしかなかった。


化け物の手は、まるで鏡から出てくるかのように伸びて、



ふいに、後ろの鏡から



化け物が現れて、持田さんに抱きついた。

「ふふふ……大好き」

その一瞬だけ、その化け物が綺麗な黒髪の女性に見えた。

「なるほど、あれが本体か……」

上田さんは、まるで実験でも見ているかの様な表情をしていた。



鏡には、二人の女性が映る。



美しいほどに、



ふと、抱かれている女性の顔が歪む。

「ゆうな、痛い、よぉ?」

しかし、まるで聞こえていないかなの様に、抱いている女性は腕の力を強める

「い、いたいいたいいたいぃぃぁぁぁああ!」


……ミシミシ……



抱かれた女性は、途中から悲鳴を上げなくなった。



「アアァァァァァァァ」

抱く化け物は、抱いている物を、まるでアルミ缶のように腕の中で潰していく。

僕らにも、血しぶきが飛んでくる。


……ミシミシグチュグチュ……

「アアaaaaaaァァaaaaaァ」


もう、潰れなくなったのだろう。米俵ほどの大きさになったその物を、腕の中から解放する。

ーーグチャッ


「かぁエロォォ?」


化け物は満開の笑顔で、その物から伸びた紐のような物を持って引きずりながら歩く。


そのまま、鏡の前に立ち。


鏡に、触る。


と、そのまま化け物と人だった物は鏡に沈んでいった。



空間に、血だまりと静寂が取り残された。

「お、おい……あんた……ゲホッ、なんでそんなに、笑ってられんだよ!」

僕は、やっと出るようになった声を振り絞って反論する。

上田さんは、血だらけの顔を歪め、ピエロのような笑顔を見せて、言う。


「いやぁ、なんでもないよ? ーーさ、僕らも帰ろうか」

僕は、上田さんにおぶられながら、ミラーハウスを出てきた。



ーーその場を立ち去るときに、目の端で、米俵ほどの物体を、僕は確かに見た。

本当に怖いのは、


化け物なのか、


人間なのか。。。




感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ