第四話 邂逅
「な、ななな……!」
思いの他ウブな反応を見せる茜さんを横に、僕らは状況の把握に精一杯だった。
「え、幽霊ってキスするん?」
「いやいや、僕は知らないよ!」
二人は揃って僕の方を見る。
「いや、僕だって知らないよ」
しかし、これはどうしたものか。
幽霊でも、こんなシーンを撮影されるのは不快だろう、なんて感情移入してしまう。
ホラーなはずなのに、ちゃんと怖がれない不思議なもどかしさの中に僕らはいた。
「あのー……」
と、突然後ろから女性の声がした。
始めは茜さんだと思ったが、すぐにおかしい事に気付く。
なぜなら茜さんは、今僕らの正面で一人で照れているからだ。
なら……。
「な、なあ健太、新太。僕らの後ろ、何かいないか……?」
「し、知らん! おい、どうなんや新太!」
「え、僕は何も知らないし、見てないよ」
二人とも、顔から血の気が引いていた。
なら、僕らの後ろになにがいる?
まさか幽れーー
「あのー?」
「うわぁぁぁあ!!!」
「きゃぁぁぁあ!!!」
二度目の声でもう耐えられなくなった僕は、大きな声をあげながら前に倒れこみ、目の前にあった鏡に激突した。
「いってぇぇぇえ!!!」
「おい頭から血ぃでてるぞ!」
「ちょっと、本田君大丈夫?」
先程までの静寂が嘘のように、ミラーハウスは騒音に包まれた。
「いや、だって今後ろから声が! 声が!」
「声? 聞こえなかったわよ?」
「そらあんたあのキスシーンに夢中やったからやろ? しっかり見たんや俺らは、この目で!」
「は、はぁ? む、夢中になんてなってないわよ!」
「ちょ、みんな落ち着いてよ……」
全員が堰を切ったように話し出した。
僕は、頭から流れてくる血を抑えるのに必死だったが。
「だって誰もいないじゃないのよ!」
「いや、だから幽霊やってさっきのは!」
「僕さっき、逃げてく人影見たけど」
「ちょっと、新太君! 早く言いなさいよ逃げられちゃうじゃない!」
誰も僕の頭の心配をしてくれないあたり、少し悲しくなる。
「おいおいなんの騒ぎだよ?」
と、三人の、ドタバタを眺めていた僕の背後で、今度は男の声がした。
怖くて逃げたかったが、頭が痛くて素早く動けず、僕は恐る恐る後ろを振り返った。
「なんだい君らこんなところで、っておい君! 頭から出血してるじゃないか! 大丈夫か⁉︎」
「えー、ちょっと大丈夫なのぉ?」
そこには、さっき鏡の中でキスをしていた男女の霊が立っていた。
「……あぁ、死んだわ……」
そこで僕は気を失った。
「……! ……くん、おーい……」
遠くで、聞き覚えのある声が聞こえる。
なんだっけ、僕、寝てるのか……?
確か、バイトをしてて……。
幽霊が後ろに……。
……っ!
「まだ彼女出来てない!!!」
そこで、自分が寝ていた事に気付く。
と、同時に頭に鈍痛が響いた。
「おお、そーすけ目ぇさめたか!」
「っつぅ……。こ、ここは?」
あたりを見回すと、どうやら部屋のようだった。
仕切りのようなカーテンに、病院で見かけるような機材、瓶などを見る限り、ここは医務室だろうか。
「ここは迷子センター兼医務室……だった場所だよ」
声の方を見ると、横に茜さんと新太が座っていた。
正面を向きなおすと、鏡が置いてあった。
頭には、少し不恰好に包帯が巻いてあった。
「これ、誰かやってくれたのか? ありがとな……」
頭を押さえつつ、感謝を述べると三人はきょとんとした表情をした。
「いや、それは俺らちゃうで?」
「そうよぉ、それは私がやってあげたの〜」
突如、聞き覚えのあるようなないような猫なで声がして、その方向をみると、男女が立っていた。
「あ、あんたら、確か幽霊の……!」
僕が驚いた表情で指を指していると、その場の五人が一斉に笑った。
「ちゃうねん、それ、俺らの勘違いやったんや。この人達、生きた大学生なんやって」
「……え?」
そこで、やっと冷静になり、まじまじと見た。
ーー幽霊じゃないとは言い切れないが、人ではないとは言えなかった。
「じゃ、じゃあ……誰? ドッキリ?」
鳩が豆鉄砲を食らうと、こんな感情なのかなんて考えながら、僕はその男女に質問した。
「ああ、自己紹介しなくてはね。どうも、僕は上田春樹。廃墟探索サークル『スカーレット』のサークル長をやってます」
「どぉも。私は持田キララでぇす。春樹くんの彼女やってまぁす。いちおースカーレット入ってまぁす」
「今日はスカーレットの活動で、ここ『裏野ドリームランド』の噂を検証しにきてるんだ」
男と女の対照的な態度に少々面食らったが、素性が分かると、少し安心するのが人の性なのか。
「な、なるほど」
「君達はテレビの撮影なんだよね、さっき聞いたよ」
「え、ええ」
そう言いながら新太を見やると、眼鏡を拭きながらニヤリと笑っていた。
「それで、僕らもキャストとして参加させてもらうことになったんだ」
「え?」
恐らく新太の判断だろう。タイミング的に新太を二度見してしまった。
「キャスト、って言っても自然にしててもらうだけだよ。どうやらこの人達、初めてじゃないらしいし」
ああ、なるほど。入り口のドアやら窓やらはこの人達か。
僕は一人で納得した。
「さて、じゃあさっそくいこうか」
ウズウズした表情をした茜さんを見て、少し申し訳ない気持ちになった。
「おう……そーすけ、もうええんか?」
「ああ、大丈夫。多分歩ける」
身体中を力ませ、自分の状態をなんとなく把握して、ベッドから降りた。
「それで、これからどこに?」
歩きながら聞く。
「ああ、ミラーハウスに戻るよ」
部屋から出ると、目の前にさっきのミラーハウスがあった。
「実は、僕らに連れがもう一人いて、河島祐奈って言うんだけど、その子がいないんだよ」
「恐らくなんだけど、さっきあの中で僕らに話しかけてきたの、その河島さんじゃないかって」
新太が少し不安そうに答える。確かに、新太は唯一の目撃者だった。
「それで、探しに行くのか」
「ああ、多分まだ中にいるから」
人も増え、さっきより少しだけ心強い気持ちで僕らはもう一度ミラーハウスへ足を踏み入れた。
「おーい、祐奈!」
「河島さーん、返事してくれ!」
返事は、ない。どころか、人の気配がまるでしない。
「手分けしよう」
分かれ道に差し掛かったところで、上田さんが提案する。
「ここからは鏡ばりの迷路だ、うろうろしているだけじゃ時間がかかってしまう」
「そうね、そうしましょ!」
上田さんと茜さんが息ぴったりで、僕に有無を言わせず即決された。
結局、僕は上田さんと持田さんのグループに入れられた。
「酷いぞ!」
僕は小声で健太達に悪態をつく。
「まあまあ、人数的に、ね。それに、じゃんけんだからさ」
「お前ら、覚えとけよ」
もうしょうがない、僕はなるべく気配を消し、リア充の空気に耐える決心をした。
「ねぇ春樹くぅん、なんか怖いよぉ」
「おーい、祐奈!」
想像とは裏腹に、べたついているのは持田さんだけで、上田さんはサッパリしたものだった。
しかし、本当に鏡は不気味でならない。
動いている人間の何倍もの物体が動く。
奥行きが、さらに恐怖心を煽る。
まるで、僕の心の奥の方まで見透かされているような。
「か、河島さーん、いないのかぁ?」
僕はなるべく早く見つけてとっととここから出たくてしょうがなかった。
「ねえもうあんな女、どぉでもよくなぁい? 帰ろうよぉ」
「どうでもいいって、どういうこと?」
後ろから、唐突に別の声がした。
三人でそろって振り返ると、そこには一人、黒髪の綺麗な女性が立っていた。
「祐奈!」
「あぁゆうな、どこいってたのよもぉ!」
白々しく、何事もないように取り繕う持田さん。
会話の内容で、この黒髪の女性が河島祐奈さんなのだと分かった。
「キララ、私のこと、どうでもいいの?」
河島さんは、何事もなかったように、もう一度同じ質問をする。
「えぇ? 何言ってるのゆうな、そんなことないってぇ」
「キララ、私のこと、どうでもいいの?」
まるで会話が成り立たない、この人、頭が少しおかしいのか?
「お、おい祐奈? どうしたんだよ?」
上田さんの反応と表情で、ようやくそれがいつもとは『違う』のだと気づかされる。
「ねぇ、キララは私のこと、どうでもいいの?」
もう一度、その女性は同じ質問を、のっぺりとした口調で言った。
言って。
口元だけ笑って。
突然その頭が左に直角に傾いた。
ただ首を傾げたわけではなく、直角に、折れたように曲がった。
あまりにも突然の出来事に言葉を失っていると、先ほどよりさらに平坦な、もはや人間の言葉からかけ離れたような口調でまくし立てた。
「キララワタシノコトキライナノォォ!」
「キラワレタクナイヨォォ!」
「ハルキクンジャナクテワタシオミテヨォォォォ!」
ーー口と、首筋から血を流しながら話すその女性が、普通なわけがなかった。
ーー自分を誤魔化し切れない異常が、目の前に立っていた。
「うわぁぁぁぁあ!」
僕たちは、踵を返して逃げ出した。
さてさて、ついにこわ~いお化けの登場です!
一人で妄想して、こえー!なんて考えながら書いております。
しかし、やっぱり怖いものって書くのは難しい!
なかなか自分の妄想より怖くならず、悪戦苦闘しております。。。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!
ツイッターや感想メッセージなど、いろんなところで頂くお言葉が、僕のテスト勉強欲を奪っていきます!(笑)
お気軽にメッセージお待ちしています!
さて次回、怖いシーンのボリューム多めの予定です!
もう書くのが大変そうで憂鬱です。。。
それでは続き、楽しみにしていてください!




