第三話 遭遇
茜さんを先頭に、僕らは門に近づく。
「いやー、しかし結構大きな遊園地だよねぇ」
僕はなるべく集団の端にならないよう、意識的に真ん中を歩きながら、みんなの会話を聞いていた。
「ほんまですね、これ、そこそこ有名だったんちゃいます? 俺しらないけど」
「二十一年前、ちょうど僕らが生まれる一年前に閉園したらしいって話だよ」
「まあ、ほんなら俺生まれてたけどな、ははは」
「え、藤原君浪人なの? じゃあ私と同期だね!」
「ほんまですか? じゃあ今二十一?」
「ぶっぶー! 残念ながら、まだハタチですー! あ、でも、社会人的には、私の方が先輩なんだから、ちゃんと敬いなさいよ?」
「緑谷さん、早生まれだから。……まあなんか、それをやたらこだわってるけど」
「早生まれは霊感が強いのよ!」
「いや知りませんけどね」
……まるで本当に遊園地に遊びに来たような和やかなムードの三人に、完全に気後れしてしまっている僕は、あたりをキョロキョロと、まるで草食動物の如き警戒心で観察していた。
「なんやそーすけ、便所か?」
「ちげーよ、てか、どうして三人ともそんなに平気で居られるんだよ? 怖く、無いのかよ……?」
僕はきっと泣きそうな顔でもして居たのだろう。僕の顔を見て三人は三者三様の笑い方で笑った。
「はははははは! おい、そーすけほんま大丈夫か? 怖いなら、帰ってええんやで?」
「いつもクールな宗介のそんなところ、僕、初めて見るかも、貴重だなあ」
「なに本田君、めっちゃかわいいじゃん!」
そういうと、茜さんは僕を抱き寄せ、頭をポンポンと叩いた。
「怖く無いよー、怖くないよー」
「あ、おい! そーすけずるいやんけ! みどりやん、俺もこえーよー!」
「ちょっと! 変なあだ名つけないでよ!」
人間らしい暖かさに、僕は少しばかり心が落ち着いた。
「はい! もう平気?」
茜さんの腕が解け、視界が広がった僕。
「大丈夫、です」
「宗介、怖かったら戻っても平気だよ?」
「え、ああもう平気、多分大丈夫」
「そっか! ならもうビビるなよ〜?」
笑いながら眼鏡を押し当てる新太。
きっと、気のせいだと思う。
ーー茜さんの腕が解かれた時、新太が恐ろしい表情をしていたような気がした。
「さて、では……あれ?」
茜さんが入り口の門をみて、首をかしげた。
基本的な遊園地によくある受付の様なものは、真新しい高い柵によって完全に封鎖されている。
管理人の方いわく、心霊騒ぎがあった事によって、多くの常識知らずの怖いもの知らず達が不法侵入を繰り返し、敷地が荒らされてしまう、という被害があったため、最近このように封鎖したらしい。
「どうしたんすか?」
「ん、あいや、あそこなんだけどさ」
そういうと、茜さんはその真新しい門の横にある、小さな従業員専用の部屋だったと思われる小屋を指差した。
「管理人さんにさ、あそこから中に入れって言われて鍵渡されたんだけど、さ……」
僕は指差した小屋を見る。
別段、変わった様子は無いような気がする。
錆つき、寂れて、いかにも廃遊園地って感じ。
ーーでも、どこか不思議な、違和感を感じる
「……あの小屋、この柵と同じタイミングでドアとか窓とかリフォームしたらしいんだよね」
その発言に、背筋が凍るような悪寒を感じた。
「それがなんやの?」
健太が、まるで分からないというような顔で茜さんに聞く。
「……ならどうして、ドアも窓も開いてるの?」
茜さんは向こうを見たまま、僕の疑問を代弁した。
「……」
「……」
一同、数秒の沈黙。
「ふ、ふふっ、ふははは!」
突然、茜さんの笑い声で僕は驚かされる。
「え、みどりやん、どないした? 取り憑かれたか⁉︎」
「いやいや、いいねぇ……やっぱりホラーってのはこうでなくちゃ!」
顔を覗き込んだ僕は、正直ひいた。
もうなんか、とてつもなくエロい顔をしていた。
廃遊園地の小屋を見ただけで、こんな表情を出来るあたり、ホラーマニアってのは、どうも気味が悪い。
「さあ行くぞ後輩達よ! 魔の城はもう目の前だ!」
俄然テンションが上がった茜さんの歩くテンポに合わせて、僕らは小走りでついて行く。
明らかな異変を見ても、たじろぐ様子を見せないこの三人を見て、僕の感覚も麻痺してしまったのだろうか。
ここで、どうして引き返さなかったのだろう。
ーーそんな後悔をする未来が一瞬頭をよぎったが、気づいたら僕もすでに小走りしていた。
必要の無くなった鍵をデイパックにしまい、茜さんは開けっ放しのドアを、なんの迷いもなく開けた。
「……うわー、これは凄い」
続けて三番目に入った僕は、茜さんの言葉の意味を理解するのに時間はかからなかった。
「ボロボロやなぁ、これ」
リフォームした、といってもドアや窓だけのようで、小屋の中は当時のまま、保存されていた。
ことごとく腐敗した有機物、破損が見られる無機物が、不気味なほど正確なバランスで、混じり合い、共存していた。
「あ、茜さん、カメラ回しましょう」
ここで、新太が指示を出す。
「もう回してるよ」
振り向いた茜さんを見ると、左耳の上に小さなカメラが乗っかっていた。
「こっちの方が、臨場感あるでしょ?」
そう言いながら茜さんは無邪気に笑う。笑顔と背景とのアンバランスさがまた不気味だ。
「うーん、まあいいですかね。健太の持ってる鞄のレコーダーに送られてるから……失くすなよ?」
新太は心配そうに目を細めながら健太を見る。
「……心配すんなや!」
健太の、不安そうな「間」がより一層僕らを不安にさせた。
小屋を奥に進み、敷地内側の出口を出ると、そこで僕が最初に感じたのは、恐怖よりも異常な程の『寒さ』だった。
「さむっ!」
身震いして、ゆっくりと後から恐怖が襲った。
今は、八月なのだ。
家を出るとき、曜日を聞いた後にカレンダーも見たので、間違いはないはずなのだ。
ここでの寒さは、異常だった。
ーーテレビ局の、エントランスホールで感じた感動は、全くなかった。
「確かに、少し冷えるわね」
「なんでやろ、山の中だからやろか?」
「それ、関係あるかな?」
そんな会話を、まるで他愛もない会話のように済ませて、僕らは入り口の広場へ進んだ。
「お、ねえ見て見てこれ! 地図だよ!」
常に先頭を行く茜さんの新しい発見を知らせる掛け声に、僕らはついて行く。
「ほんまや、これ、全体が乗ってるやん」
そこにあったのは、大きな地図の載った看板だった。
僕は照明がわりの懐中電灯を当てながら、皆とともに地図を眺めた。
ちなみに、懐中電灯なのは雰囲気が出るという、新太の案である。
「これ、写真撮っとこうか」
僕の提案に、新太は頷く。
「そうしよう、これは一応、大事な資料にもなるし、今から歩くのに便利だ」
そういうと、健太の鞄から別のカメラを取り出し、写真を撮る。
僕も、一応スマホで写真を撮った。
「それにしても、えらい汚れとるな……」
健太はそういいながら、何気なく地図の汚れに触れる。
「うわ、なんやこれ! ヌルッとしたで!」
健太は汚れを触った方の手をブンブン振りまわした。
そのせいで、僕の頬にその液体らしきものが飛んできた。
「うわっ、おい健太! 飛ばすなよ!」
「おお、悪い……」
僕は慌ててその汚れを右手でぬぐい、何の気なしに懐中電灯で照らしてみた。
「これは……」
「誰かの血液かもしれないね」
茜さんが看板の汚れを直で見ながら、また僕の言葉を代弁した。
「ええ、いやまさか……」
さすがに新太も少し顔を歪めた。
「これは、いい前フリじゃないか!」
茜さんだけ、何故か笑顔で怖い。
と、どこかから、話し声が聞こえた気がした。
「……だよ……」
「ね、ねえ今の!」
ハッキリと聞こえた声に驚き、慌てて皆を見る。
また、もしかしたら僕だけ聞こえた、なんて事だったらどうしようかと焦ったが、皆の表情を見て、これが全員共通なのが分かった。
「確かに、私も聞こえたよ」
「ああ、俺も聞いたで」
「あの建物だと思う」
新太が指差した方向の建物を地図で調べると、『ミラーハウス』と記してあった。
「行って……みますか?」
新太が恐る恐る茜さんに聞くと、笑顔で
「当たり前でしょ!」
と答えた。
『ミラーハウス』と書かれたその建物は、さすがにボロボロなのだが、それでもきちんと建物としてそこに置いてある、つまり、お化け屋敷と言われれば疑わないほど、アトラクションとして成り立っていた。
「雰囲気あるねぇ」
茜さんは小声で話しつつ、中に入ろうとする。
「い、いきなり行くんですか⁉︎」
「そうよ? ここで待っててもしょうがないじゃない」
「せやでそーすけ、迷ったら進めってゆうやろ?」
まるで普通の遊園地のお化け屋敷に入っていこうとしてるかの様に言うので、僕は瞬時に反論が出来なかった。
僕を待たずに、三人はズンズンと中に入って行く。
僕も結局、ついて行くことになったのだが……。
「あ、あれ!」
新太が小声で、しかし強く訴える口調で僕らを呼び止めた。
入り口付近、鏡張りのエリアの一枚の鏡を指差す新太。
僕はその鏡を、恐る恐る覗き込む……。
ーーそこには、女性の横顔が映っていた。
「〜〜!」
僕は叫びそうになるのを必死で堪えた。
「あ、あれ……」
「ほんまや、幽霊やないか……」
二人も驚きながら、その幽霊を眺めいた。
「も、もう出ましょう! 見つかったら危険ですって!」
僕は小声で必死に抗議をした、が、その後全員が無言になる。
その女性の霊の前から、何処からともなく男性の霊が現れる。
ーーそして、二人の霊はそのままキスをしたのだった……。
予告通り、キスシーン書けて一安心です。。
少し長くなってしまいましたが、ここまで読んでくれて有難うございます!
しかし遊園地行きたい!
さてさて、次回、新キャラが登場したり、しなかったり…?
読んでくださってとても嬉しいです!
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