第二話 入場
それから、僕らは何を準備するわけでもなく、ただ平凡な一日一日を過ごした。
長期休みで曜日感覚がなくなっているが、おそらくあの日から四日ほど経った日、新太からメッセージアプリで召集メッセージが送られてきた。
『本日午後2時、丸ヶ丘テレビ局に集合!』
そのメッセージを確認してすぐ、着信がくる。
健太からだった。
「もしもし? どうした?」
『あ、いやメッセ来た事教えたろおもて、見たか?』
「ああ、見たよ」
『楽しみやなぁ、ワクワクするで』
「そうか? 僕は憂鬱だよ……」
『なんや? 怖いのダメなんか?』
健太は笑い混じりのバカにしたような口調で話す。
「そうだよ! もう隠しててもしょうがないしな! 悪いかよ」
『いやいや、かわいいんとちゃいまっか?』
明らかにバカにした口調だ。もうこいつは……!
「もうしらん、用がないなら切るぞ!」
『ああ待てや! 行くとき迎えに行くわ』
「分かった、ところで健太、今日って土曜だよな?」
『いや、今日は金曜やで?』
「え、ほんと?」
『なんや、曜日もわからんのか? 平和ボケしとるなあ』
「いや、平和ボケは関係ないだろ……」
『日記つけるのオススメするわ、ほな、行くわ!』
そういうと、電話からはビジートーンだけが聞こえて来るようになった。
「あいつが日記ねぇ……」
珍しいこともあるものだ、なんて思いつつ、僕は出かける準備に取り掛かった。
「着いたで!」
迎えに来た健太のバイクの後ろにまたがり、僕らは約束の丸ヶ丘テレビ局に到着した。
「あ、おーい! 宗介! 健太! こっちこっち!」
エントランスホールからは決して出ないようにしながら、こちらに向かって手を振る新太の姿が見て取れた。
「おお! 今行くで!」
なんでこいつらテンション高いんだ……。
僕なんて、今じゃ後悔の念しかないのに。
「さ、こっち、入って」
新太の案内でエントランスホールに入ると、今まで蓄積されて来た『暑さ』に対する鬱憤が一瞬で飛んで行くような涼しさに衝撃を受けた。
「す、涼しい……!」
人は、涼しいだけでこんなに感動できるものなのか。
それを知れただけで、今年の夏の経験も無駄じゃなかったかもしれない。
そのまま新太についていくと、エントランスホールの奥にソファが置いてあり、そこに一人女性が座っていた。
「さ、この人が今回同行するカメラマンの緑谷さんです」
「緑谷茜です。茜でいいわ! よろしくね、バイト諸君!」
確かに美人のその女性は、二十代前半位で、ラフな格好にショートヘアで、いかにも活動的です、と主張しているようだった。
「あ、ども、自分、藤原健太っていいます。よろしくっす」
「お、よろしくね! で、君は?」
「本田宗介です。よろしくお願いします。」
「よろしくねー、じゃあさっそく、しよっか!」
何をしたのかと聞かれれば、打ち合わせと答えるしかない。
それから僕らは個々の仕事を教えられ、現場に向かった。
基本的には、映像と普通の会話音声だけなので、そこまで難しい事はない。
ナレーションは後から編集でつけてくれるらしく、僕らは普通に、撮影するだけ。
健太はカメラなど必要機材を持ち歩く仕事。僕は照明係。
新太は慣れているので、構成などを考える仕事らしい。
夕方ごろになり、僕らは茜さんの指示で車に乗り、目的の『裏野ドリームランド』に向かった。
「なあ、さっきからなにスマホ触っとんの?」
怪訝そうな顔をしながら健太に質問される。
「あ? 調べてんだよ、裏野ドリームランドの事!」
何しろ、情報の守秘義務とかで、いく場所はついさっき言われたのだ。とにかく情報が欲しくて、僕は必死になって探していた、のだが……。
「こ、これ相当やばくないか?」
「どした?」
隣の席に座っていた健太は、身を乗り出して僕のスマホの画面を覗き込んできた。
「いや、今から行く遊園地、ヤバイことばっかり書いてあんだよ、ほら」
僕は無理やりスマホを健太に押し付ける。
「ん、なになに……『子供がいなくなる』『拷問部屋の噂』『観覧車の声』ねえ……」
一通り見終えた健太は呆れた様子で僕にスマホを返してくる。
「こんなん、どーみたって都市伝説やん、なんも本当のことなんかあらへんやん」
「いや、わかんないだろ!」
「そうだよ藤原君、これが本当だって照明するのが、一応今回の目的なんだよ?」
僕の発言を違う方向で捉えたのか、茜さんも運転席から話に入ってきた。
「私はね、一度でいいから幽霊に会ってみたいんだよ! それが目的で、カメラマンやってるみたいなところ、あるし」
「幽霊が伝えたい事まで理解してあげてこそ、本当の報道だと、私は思っているんだよ」
な、なにを言ってるんだこの人、頭おかしくないか?
「まあ、こんな事私以外には言わないよ、ま、だからこそ、この仕事は成功させたいのよ」
バックミラー越しにみた茜さんの表情は、まっすぐに、ただ信念を貫くという気持ちが現れていて、とても格好良く感じた。
僕に足りないのは、こういう信念とか負けん気とか、そういう感情の部分なのかもしれない。
……まあ、この人の信念には全く納得いかないが。
「さ、ついたわよ。……ここが噂だらけの超危険ゴーストパーク、『裏野ドリームランド』よ」
「こら、新太君! さっさと起きなさいよ!」
助手席で寝てる新太を起こす茜さんを置いて、先に僕ら二人は車を降りた。
「こ、これは想像以上やな……」
先ほどまでの余裕が少しばかり消えた様子の健太。
それでもすごいと思う。
僕はもう、見ることさえ避けたいほどの圧巻のホラーがそこにはあった。
全体的に錆がかった色をしているのに、なぜだか、今にも開園しそうなほど、どことなく、綺麗なのだ。
さらに、それでは納得しがたいような、違和感。
まるで、生きているかのように。強い生命を感じる。
それがどうにも、不気味。気味が悪くて、気分が悪い。
「でもなんだか、思っていたより綺麗だね」
後ろから、あくびをしながら新太が降りて向かってきた。
僕は新太の声に驚いて転びそうになった。
「よし、それじゃあ行こうか!」
茜さんの意気揚々とした声につられて、ほかの二人は歩き出す。
「あ、待って……」
僕が体勢を立て直し、顔を上げると、丁度観覧車を見上げる形となった。
僕は、言葉が出なかった。
観覧車の上から二つ目の箱の窓ガラスに、確かに見て取れる汚れがあった。
目がいい人にしか見えないかもしれない。
ーー明らかに、人の手形だった。
その手形は、見つけた途端に、増えて、増えて、増えて増えて増えて増えて増えて増えて増えて
「う、うわぁぁぁぁぁあ!」
情けない声を上げながら、僕はそのまま真後ろに尻餅をついた。すぐにほかの三人が慌てた様子で駆け寄る。
「ど、どしたそーすけ!」
「なにか見えたの?」
「か、カメラカメラ……」
若干一名他の心配をしているようだが、僕はそれどころじゃなかった。
「あ、あそこ……観覧車の窓! て、手形が!」
「は? どこやねん」
「いや、だからあそこに……え?」
そこには手形などなく、ただの普通の観覧車になっていた。
「……あれ?」
「はぁ、宗介、驚きすぎだよ。どうせカラスかなんかだって」
新太はつまらなそうな顔をしながら適当に答えた。
「そう、なのかも……」
僕だけが、敏感になりすぎているのか。
分からない。分からない、けど。
この三人は、どうしてこんなにも怖がらないんだ?
ーーまるで、『恐怖』という感情が欠如しているみたいに。
「じゃ、いこうか」
茜さんの目を輝かせながらの合図で、僕らはいよいよ看板をくぐる。
ーー遠くで、笑い声が聞こえた気がした。
「……ふふっ、いらっしゃい……」
やっとちょっとホラー感が出せたのではないでしょうか…?
ホラー初めてなんで、怖い物の表現を練るのが大変です。。
さて、次回は誰かが誰かとキス…?しちゃったり?しなかったり?
続きお楽しみに!




