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まだ10日目夜。



さて用意するもの。

血の付いた布。――証拠品でっす。

あえて破った服。――ボロボロに見せるために破りました! なおあえてオークの血を帰ってくる途中につけた。服だけだし多少の出費は我慢!

敢えてオークを大量に狩って修理すれすれにした槍。――死闘演出。スキル上げを兼ねてるのでおっけー!

怪我に関してはあえてする気はなかったのでやめた。

ただヒールを使えるってのは秘密の方向。


よし、行くぞー。


「ど、どどどどどうしたんですかサレスさんっ!?」


いい反応だ受付嬢。名前を憶えていてくれたのもよい。

これなら注目の的だからちょっとやそっとの握り潰しは不可能。

現にボロボロの俺を見て、初心者だしーと生暖かく見守っていた酒場の冒険者の皆さまがガン見している。

あえてちょっと足を痛めた風に軽く引きずりつつ、俺は受付へゆっくりと歩いていく。


街道で会ったアイツらはまだ帰ってきていないみたいなのも好都合。

まあ、あの後一目散に走って帰ってきたしな俺。

勝ち合わせると数の暴力を食らう可能性あるし、意図的でーす。


「サレスさんは本日は採集に行かれたと思っていたのですが、一体何が……?」

「あー……うん」


さりげなく話題を持っていこうと思ったが、よっぽどボロボロなのがインパクト高かったらしくて受付嬢に先回りされた。

やりすぎたかなぁ。

でもオークとの戦闘記録がある以上、誤魔化しようがないんだよねぇこれしか。


「まさか森に入られたのですか?」

「いや、入ってないよ」


咎めるような視線に首を振り、ささっと血の付いた布を出す。

敢えて注目の的だというのに声を潜めたのは演出だ。

明らかにおかしい、と思われれば良いのだ。


「こ、これは……?」

「実はさ、採集の最中に草原に逃げてきたPTがいて」

「!」

「多分殿の奴が囮だったと思うんだけど、わざわざこっちに逃げてきたうえ、コレ叩きつけて逃げてったんだよ」

「な、なんですって……!」


うわお、受付嬢声おっきーい。

注目の的の状態で、出てきたものが布ということで何人かは経緯に気づいたのだろう、ざわざわと外野が騒ぐ。


「一体何から逃げてるのかと思ったら、手負いのオークでさ」

「……! 良くご無事で……」

「あーうん、さすがに何されたかはわかったからさ。もう必死で逃げて、逃げまくって。たまたまオークが近くにあった穴に引っかかって身動きとれなくなってくれたからもう必死で叩いてさ。何とか倒したよ」

「お、お怪我はないのですか?」

「あー……まあ、打ち身くらいだよ。逃げ回った時に痛めたくらいさ」

「それは良かったです……!」


でも槍が壊れたんだ。

溜息をつきつつ経緯を告げると、ボロボロの様子から信じてもらえたのだろう、受付嬢は何度もうなずいている。


「一応採集はちょうど終わってたから、クエスト確認してもらえる? あとオーク、買い取りお願いしたい」


オーソドックスに出てくるオーク肉やハンマー等レアっぽくないものを並べ買い取りを頼む。

しばらくして帰ってきた受付嬢からもらった金額は、一気に一万Jとかなり破格だった。


「え? こんなにするの?」

「オークは食用で人気がありますので、お肉の買取りがかなり高いんですよ。後は解毒草の買取り値段が上がりまして…」


まぁ指名依頼が入るくらいだし、解毒草はもともといろんなポーションに使用されるものらしいから当然かな。

頷きつつ受け取ると、受付嬢は俺を引き留めてきた。


「それでなのですがサレスさん、少しお聞きしたいことが有るのですがよろしいですか?」

「うん?」

「先ほどの擦り付けに関してなのですが、当ギルドではこれは規約違反に当たります。さらに言えば、その……」

「その?」

「詳細を別室でお伺いしたいのですが」


別室に行く理由は、顔の照会か何かだろうか。

こちらとしては何もしていないので大丈夫だろうと判断し、そのままギルド内部へついていく。

受付嬢の様子からして悪いことのようには思えんしな。


「では、改めましてサレスさん」

「うん」


先ほどの内容を繰り返され、矛盾点がないか確認しつつ頷く。

……大丈夫、だよな?

オークみたいな強い敵から撃破数が分かるとか、実はギルドでわかるとかあったらどうしよう。

ヤバい、そこまでは考えて無かったな。


「それでですね、まず相手の顔は覚えていらっしゃいますか?」

「うーん、一瞬だったしね。会えば思い出すかもしれないけど」


先ほども遠目で見ただけだし、確実に当てられるかというと実は自信がない。

だって外人って皆同じ顔に見えてさ……。

さすがによく会う受付嬢の顔ぐらいはわかるけどさ。

ただ、声はよく覚えてる。悪いな、ってにやにや言われたから脳内に刻まれた。


「では何人構成だったかは覚えていらっしゃいますか?」

「剣士と斧使いと、擦り付けてきたのは斥候か盗賊じゃないかな。武器は短剣」


最初に逃げてきたのは剣士で斧を持っていた。

近くに来たやつは短剣しか持っていなくて、武器自体はこちらに向けなかったから反応が遅くなったともいえるのだ。


「わかりました。では次に、何か恨みを買った覚えはございますか?」

「うーん、特にはない、かな」


そもそも誰とも絡んでいないので恨みって言われてもなあ、というレベルである。

受付嬢も俺のギルドでの様子を知っているので、特に気にしなかったようだ。

メモを取りつつ今度は似顔絵? のようなものを見せてきた。


「ではこの中で思い当たるのは?」

「……あ、こいつだ」


3枚出されたうち、一つだけわかった。

まさに擦り付けてきやがった奴の顔だ。


「なるほど、彼ですか」

「何かまずい相手なのか?」


様子から行って実は手馴れている気がしていたのだ。

もしかしたら身分が高いとかで手出しできないとかあるのかもしれない?

……それにしちゃあ、ぶっつけ本番すぎる気もしたが。

そもそもあそこに俺がいることが分かっていたのはクエスト受注を見ていた人だけだろうし、周りにコイツがいた覚えは……わからんな。覚えてない。


「いえ、何件か被害届が出されているPTのうちの一人なのです」

「あー……」


常習犯らしい。

詳しく聞いてみると、こういった犯罪は冤罪のことも多いため、被害届が複数にならないと監視下に置くのは難しい。

このPT自体はそれなりの功績を残しているようで、被害届がランクが低い人間からであることも思い切った行動に出れない理由のようだ。


「ですから被害届を出していただければ、と思いまして」

「うーん……」


でもぶっちゃけめんどうっすなぁ。

文書が被害届って形で残るのは困る。名前とか覚えられるのもあんまり得策じゃない気がする。

大体、逆恨みフラグとかじゃないのこれ?


「出したくないかなー」

「えっ、何故ですかっ?」

「今このタイミングで出すと、出したのが俺ってわかるだろうしさ。関わりたくないんだよねこの手の人間には」


1:1で負ける気がしないのもあるが、変に恨みを買うのは多分得策じゃない。

ってか噛ませ犬だか何だか知らんけど、こういうフラグは一度たたき折ってみたかったんだよね。

だって倒して解決! やったねヒーロー☆ とかすげぇ柄じゃないんだもの。

俺は平和に生きていたい。


「そうですか……残念です」


しかし何だろう、この罪悪感。

しょぼんとする受付嬢に困る。

俺は正義感はないけど、女の子を落ち込ませるのは嫌なんだよなあ。

自分から厄介ごとを抱えようという気概は全くないが。


「で、こっちが逆に聴きたいんだけど、こいつらの狩場って基本森とオーク?」

「ええと、そうですね。ここ半年ぐらいは頭打ちのようで主にクエストはオークを受けていらっしゃいます」

「なるほど。じゃあしばらくあっちの森には近づかない方向で行くわ」

「……」


失望感あふるる姿で見られても出しません。

この報告も匿名でお願いしますね? と見たら愕然とされた。

いや、匿名じゃなかったら被害届出さない意味すらないやん。

どうしてそこまで嫌がるのかと逆に懐疑的な目をされたので、俺は自分が行ったクエストを再度注目させることにする。

曰く、採集がメインですと。


「なんていうかね、被害届出して逆恨みされたとして、ギルドが何してくれるの? って言うと何もしてくれないでしょ?」

「! そ、それは……でも、出していただければ、こちらが監視することも始める、予定ですし……」

「うん、でもその監視下での第一の被害者になる可能性は否定できんよね? 大体監視下に入るときに相手に被害届とか見せるんじゃないの? そしたら直近の被害者である俺なんて、相手にバレバレだよね?」

「……はい……」


うん、まあ受付嬢の気持ちはわかる話なんだよね。

日本の警察も、疑わしいだけでは捕らえることが出来ない。

被害があって初めて行動できるのがこういう権力だから、一つでも多く求めている、という背景があるのだろう。

協力できるかは別として。


「ですが、出していただかなければ動くことも出来ません。貴方は他の方が被害にあってもよろしいというのですか?」

「良くはないけど、自分が被害に会わない方が大事かな」


ぎゅう、と唇をかみしめる姿が痛々しい。

はあ。

なんか悪役みたいだなあ俺。


「じゃあ、お役に立てなくてごめんね?」

「いえ……」


正義感あふれるヒーローにはやっぱりなれないな、と思いながら。

俺は素直に帰ることにした。




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