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区切りが悪いので少し長め。
「うっそん。これは俺のせいじゃないぞ?」
「……」
王家の森には動物も魔物も出ないんだったよね?
なんでこの男たち生きたまんま使役魔獣らしき魔物に喰われてんの?
かろうじて死んではいなかったが、縛られていた男たちは恐怖におびえ、ぶっちゃけると言っちゃいけない匂いがその辺に漂っている。
血の匂いとまとめて浄化しておこうね、はいぽいぽい。
「親父、とりあえずコイツがここにいるのはありえないことだけはわかるんだけど」
「そなん?」
「よく見世物にされる程度にはこの辺には生息してないやつ」
「ほーん」
ちなみに俺がのんびり呟いている間に、息子は素手で魔獣をぶち殺していた。
武器なんてなくても腕力が俺とは違うし、お食事中の彼は隙だらけだったので余裕でした。
誰だろうねお前も素手で殺せるだろとか呟いてるやつは。
俺は魔法使いですよ?
ついでに聖魔法使いであることは広く知られているので、人間の方はささっと死なない程度に治しておく。
いや本当に死にかけてたから脅すとか取引するとか言ってる場合じゃなかったのだ。
腕の一本くらい治す治さないで脅そうかな? とちらりとは思ったのだが、真っ青になってがたがた震える幼女が可哀そうだったのであきらめた。
全快させると逃げるかもしれんのであくまで応急処置レベルに威力を落としておく。
決して息子のこのまま殺っとく?
という無言の圧力に負けたわけではないのだ。
落ち着け息子よ、すでに奴らは懲らしめられている。
だから治そうとするのをこっそり止めようとしないで!?
まじで死んじゃうよ!!
「リリアちゃんのおねーちゃんってマジで容赦ないんやねー……」
ちぎれかけた腕や、どうにかこうにかくっついた下半身を呆然と見ている貴族ずにぼそりとつぶやく。
え? とか不思議そうにしている男どもだが、ここにこんな魔獣がいる理由なんてほぼ一つしかないだろう。
やれやれ、と俺は肩を竦めた。
「口封じに放されてた、ってこと……?」
「それ以外にこの森に生息していないこんなランクの魔獣がいるわけないだろ? まとめて殺しとくつもりだったんじゃない?」
半分なぶり殺しのような状況になっていたから、性質として獲物で遊ぶタイプの魔獣なのかもしれんが。
どっちにしろ趣味が悪そうなのは確定である。
2重3重に策は厳重にするという慎重さは嫌いじゃないが、それが息子と息子の嫁に向くのであれば俺にも考えがある。
まあ、脳筋よろしく腕力で解決するだけだけど☆
「さぁて、どうすっかねぇ」
目の前でおびえている貴族どもは放置できない。
一度殺されかけている以上、口封じで殺される可能性が高いんだよね。
ただ、ここに俺がいること自体に触れられると俺も都合が悪いので証人として使うのもご遠慮したいんだよなぁ。
俺、不法侵入。
俺、転移出来るのばれる(割とザルな誤魔化し方をしているので一部にはばればれだけど公式に記載されるのはイヤ)。
「ん~……治しておいてあれだけど、12歳の女の子を平然と襲えちゃう悪だし、保身で俺のこと話されると都合悪いしやっぱり殺っとくかなぁ?」
ちらちらと息子を見たら平然と頷かれた。
息子よ、ちょおっと殺伐しすぎやしないかい?
と思ったけど、俺が助けてなければリリちゃんは襲われてたわけですし。
これがティナだったら……と思えばまぁ、仕方ないね。俺でも3度くらい殺るわ。
治して半殺しを繰り返すぐらいなら良いんじゃないかな?
だから今から殺そうと血の付いたこぶしを貴族に向けるのはやめようね?
最早数回撲殺した後みたいな猟奇的な光景になってるから一度綺麗にしておきましょう、浄化浄化。
浄化した俺に目もくれず颯爽と貴族の方に向かう息子に、縋りつくようにして止めたのは意外にも俺ではなくリリちゃんの方だった。
さすがに運命に抱き着かれたら止まるのか、怖い表情を消してリリちゃんに向き直る息子。
「だ、だめ!」
「ん、どうして? リリはこいつらにひどいことされたんだよね? 今ならたぶんヤレルヨ?」
ヤるが殺るにしか聞こえないけど多分きのせいだよね?
息子が殺人するところはさすがの俺も見たくないよ?
「だめなの! 今、この人たちが死んだらきっと私のせいにされる……!」
「はぁ?」
どゆこと?
と親子で首をかしげると、リリちゃんは辛そうに目を伏せた。
「この魔獣の所有権は私にあります」
「へ? どういうこと?」
「元々は姉の持ち物だったのですが……数日前に下げ渡すと聴いていた、です。手なずけられるような魔獣じゃないので嫌がらせだと思ったのですが……まさか、こんな……」
「あー、うん、なるほど?」
貴族を殺したのもリリちゃんのせいになる、と?
そもそもなんでここに魔獣連れてリリちゃん来たんじゃい! とかは全放置ですねわかります。
何をしても悪い方向になるように二重三重の発想で埋められているから下手に動けないってことなんだろうな、うん。
ってかリリちゃん意外と頭良いね?
12歳ってこんなんだっけ?
「殺すのも生かすのも面倒ってやーだなー。生きてたら都合よく証言させる気満々じゃん?」
今はおびえているから何でもします的な雰囲気だけど、幼女を襲うようなゲスの口約束ほど信用できないものはない。
むしろそういう相手を選んで襲わせてるよな、これ。
リリちゃんの姉上、なんかもはや子供の発想じゃなくない?
絶対大人が絡んでるよね?
というかむしろ、正妃様とか貴族とかの思惑が絡みまくってる感じなのでは??
「ちなみに確認するけどリリちゃんの姉上何歳?」
「姉上ですか? 今年、18歳ですが」
「おう、微妙なライン……」
実際にあったことがあるであろう息子に目線を向けると、息子はため息をつきながら首を振った。
うん?
「リリの姉上は頭が悪い」
「あ、はい」
「根本がわかってないから、あの人が王になるなら数年で滅びると思う。正妃の後ろにいる貴族も自分のことしか考えない馬鹿ばっかだしリリの父上も頭抱えてた」
完全傀儡レベルの王女様とかそれはめんどくさいなー。
単純に王配が実質の王になるだけなんだろうけど、その王配候補も馬鹿ばっかりと。
なんてめんどくさいんだ。
「だからこそリリを推す声がなくならないんだ。俺は今すぐさらって逃げても良いと思ったんだけど」
「大胆だね息子!?」
「だって何しても無駄そうだからこの国。貴族自体を全部どうにかしたらましになるかもしれないけど。リリの父上が忙しいのは大体そのせいなんだと思うくらいには貴族も貴族らしい感じで日和見しかしないし。リリの待遇はちっともよくならないし。俺、だいぶ頑張ったのにリリにこの仕打ちとかもう国ごとヤッテヨクナイ?」
「とりあえずいったん落ち着いて殺気は消そうか息子。浄化したのにまた変なにおいがする」
俺より頭がいい息子に末期扱いされるこの国って本当にあかんやろう……。
息子をもってしてもこの国の立て直しは厳しいと思ってるわけね。
ただ、出来ないというわけでもないから、リリちゃんがいるならとこの国にとどまることにしたんだろうな。
想定外にリリちゃんを人質に取られて身動きが取れなくなったけど。
「トール、つらい?」
「俺はリリがいれば辛くないよ」
疲れたようにため息をつく息子に、リリちゃんが心配そうにぎゅっと抱き着く。
なんて言ったらいいんだろうか。
この子らはまだ子供なのに、なんか大人が背負わせすぎじゃなかろうか。
いくらトールが大人顔負けの頭の良さがあるとはいえ、トールはまだ10歳だ。
ある程度は自己責任だからと放任していたが、これは間違いなく俺が出るべきだよなぁ。
仕方ないな、大人には大人の流儀でどうにかしてあげよう。
「仕方ないなぁ。全部丸投げしてくれていいよトール」
「え?」
「とりあえず家にリリちゃん連れてしばらくのんびりしてなさい。行方不明? 誘拐? 好きにすればよいさ」
だいたいリリちゃんは今回の件で、本来なら死んでるはずだ。
だからその流儀に沿って行動すればいいと思います。
「え、でも、こいつらが生きてるってことはリリが生きてるのもばれる……」
「この貴族たちは俺がOHANASHIしとくよ。ついでにりりちゃん、こいつの家ってこの国にとっては大事?」
「え、えと……」
「なるほど、じゃあ適当に魔物いるところにおいてくればどうとでもなるね。どうせ死にかけだし」
縋りつくようにリリちゃんを見る貴族の馬鹿息子どもだが、リリちゃんの困った顔を見れば一目瞭然である。
つまりいらんってことだ。
にこにこと殺す算段を付ける俺に、顔色をなくす貴族とその従者。
君らがやったのはそれくらい重犯罪なんだよ、少しは分かれ馬鹿どもが。
「お、俺を殺したら王女が黙ってないぞ……!」
「しらを切られるだけだと思うけどね~。あとぶっちゃけ直接王様に直談判しに行くからいいよ~」
「え」
「どうせ生かしておいても王女に都合よい様に喋るだけでしょ? じゃあいらなーい」
さっさとスネーク君を使え、とトールの前にスネーク君を召喚すると、貴族たちが大蛇に喰われると思ったのかまたビビり始めた。
いや、スネーク君は人間喰わないと思うよ?
スネーク君がごろごろとトールに懐くのを横目に、俺はささっと貴族たちを縄で縛り付け、セレスに括り付ける。
とりあえずあれだよね、この貴族たちをまずどうにかしないとだよね。
「んじゃ、行ってくるわ~」
セレス君はだいぶおっきくなったので人を引きずるくらいなら何も問題ないのです。
いや、さすがにそのまま引きずったらぽっくり行くからちゃんとダメージがいかないようにそりっぽいのに乗せるけどね。
昔はよくトールを乗せて遊んだなぁこれ。なかなか楽しいのだ。
俺はトールとりりちゃんをスネークに任せて、森の中を爆走することにしたのであった。




